階段


「まずは、ここを上って貰おう」


 イケメン老人の背後には、まだまだ階段が続いている。

 もちろん、星河も上るつもりではあったが……。


「儂を背負って、上って貰うぞ」


 そう言われれば、普通の男ならば「ふざけるな」とでも言いたくなるところ。

 しかし、イケメン青年たる星河は、イヤそうな顔もせずに「任された」と応じた。


 それだけではない。足場の悪さを物ともせず、華麗なイケメンターンを披露。当然ながら、決めポーズもイケメンである。



(やはり、只のハンサムではないようじゃ)

 顔だけのイケメンでは、こんな場所でターンなど出来っこない。

「(ここで回るだけの身体能力と技量、そして剛胆さ。それらを持ち合わせておるのじゃろう)面白い若者じゃな」

「何か言ったかい?」

「何でもない」

「そうか。それでは、老師。僕の背中に」

「うむ」

 老師をおんぶした星河は、人を1人背負っているのに、それを感じさせない軽快な足取りで階段を上る。


 実は、彼は老人を背負い慣れていた。

 荷物を持った老人を背負って歩道橋の階段を上る──。そういう経験は、1度や2度ではないのだ。


 ただでさえイケメンなのに、そんなイケメンな行動を取るとは。これでは、優しさと力だけが自慢の非イケメンの立場がない。


 しかも、星河は「僕は老人を背負ってあげる優しい男なのさ。フッ」といい人アピールする事はない。その辺もイケメンがイケメンなわけでイケメンって何だろう。



 そんなこんなで。


 階段を上りきった先には、豪邸があった。

「ここが、お主の修行の場となる」

「随分と立派な家だね」

 老人を降ろした青年は、額に浮かんだ汗(イケメン成分が入っているからか、やたらとキラキラしていた)をぬぐい、素直な感想を述べた。


 まさか、山中の長い階段の先に豪邸があるとは。てっきり、寺でもあるのだろうと思っていた星河である。


 こんな豪邸を構えているのだ。この老人、よほどの大金持ちなのか。


「昔、宝くじが当たったのじゃよ」

 宝くじで建てた家らしい。

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