厄介事は続けてやってくる。
「しっかしあの先生も酷いよな、これから心機一転して頑張ってこうとする転校生にあの席を進めるとか」
「まぁあそこしか残っていなかったって言うのもあるんだろうさ、あまり気にしてないし、岡崎とも知り合えたんだから半々ってところかな。」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。」
あれから一週間。
まだクラスには溶け込めてないが、少しずつ順応していく自分が肌で感じ取れた。
それもこれも今一緒に登校している初めての友人、岡崎のおかげだろう。
好調とまではいかないまでも、まだ立て直しが効く滑り出しだと思う。
つまり今のところ満足のいく学生生活を送っているということだ。
しかし、こんなことで満足する私ではない。
はては友達百に…もとい円滑な交流関係と麗らかな青春。そのためにも一層努力せねばなるまい。
手近なところではまず近くの学友に声をかけるところからか。
一つ言意気込んで目に移った男子生徒に朝の挨拶を-
「あれ、勇者王じゃんおはよう。」
「あ、ああおはよう…いや待て。勇者王ってなに!?」
自然な流れで聞いたことない呼び名で呼ばれたため、一瞬気づくのが遅れた。
問いただそうとしたものの呼び名を使った本人は今や影も形もない、走って去っていったのだろうか。
少なくとも当人に聞き出すことは不可能なようだった。
「なぁ岡崎、勇者王ってなんだ?」
「さぁ…ププ」
怪しい、明らかに何か知っていて必死に笑いを隠そうとしている。
しかも笑いを隠すということは明らかに不名誉な類のモノだと言っているようなものじゃないか。
苛立ちに任せてガッシと岡崎の肩を掴み思いっきりゆさぶりをかける。
「吐けよぉぉぉおぉお!」
「は、は、は、そんなことしてる間に鐘が鳴っちまうぞぉぉお。」
確かにコイツの言う通りだ。
そこまで時間に余裕をもって出たわけではないから、そろそろ始業のチャイムが鳴ってもおかしくはなかった。
名残惜しくも肩から手を外し、互いに息を整える。
そして時計の確認をしてから二人して学び舎へと駆け始めるのだった。
始業のチャイムが鳴り始めるとき、私たちはそろって自分のクラスに到着していた。時間的にはギリギリセーフといったところか。
陽彩に合わせるとどうにも時間に余裕をもって行動ができない、いやそれは違うか。私一人だとしても大差ない時間につくだろう。
早くなれればいいのだけど、それこそ回数を重ねるしかない。
互いに肩で息をしながら自分たちの席に歩いていく。
と、いったところで周りが私を見て何やら話をしているのが視界の端に移った。
「えっと、何か用?」
「ん、いやなんでもないよ。今日も重役出勤だなお二人さん」
「ちゃんと間に合ってるっつの、ホラ行こうぜ黒河」
「あ、ああ」
何かを含んでいる言い方だが、あまり詳しいことは話してくれない。
岡崎は気にしてないようで、-と言うかそもそも私に限定されている-そのまま自分の席に着く。
私も例に習い席に向かうのだが、その間に私のほうを見てざわつくクラスメイト達の視線を一身に浴びることになり、若干気味が悪かった。
男子はなぜか私を見て驚いているし、女子は…蔑みがよく表情に表れている。
彼らの視線を不可解に思いながら自分の席に向かっていくと今度は席の斜め後ろから異様な気を感じた、別に武闘家でも戦士でもない一般人なのに。
恐る恐る様子を確認すると、そこにはなんと美少女が私に向けて熱烈な視線で見つめているではないか。
擬音語で言うならギンッ!とでも表せるほどの強烈な眼差し、どう考えても怒っていらっしゃいますねありがとうございます。
それも転校初日にやらかしたことが原因なのだが、今日はいつになく殺気が強い気がする。
いったいなぜ…。
助かったことと言えば鐘が鳴った後だということ、律儀な彼女のことだから一先ず朝礼が終わるまでは動くことはないから。
ともかく教師が来る前に席についてしまおう。
始業の鐘が鳴りしばらくすると、がらりと引き戸を開けて担任の教師が入ってくる。
遅刻もいいところなのだが、当の本人はさも当たり前のようにゆっくりとけだるげな足取りで教卓へと向かった。
「お前ら、朝礼始めるぞー。まずは出席確認だな相川~」
「はい」
「泉、いずみー?」
間の伸びた声で次々とクラスメイトの名前が呼ばれる、五十音順に呼ばれるためア行から順繰りに確認する手はずなのだが、開始早々つっかえてしまった。
教師が何度か名前を呼ぶが相変わらず反応が返ってこない、欠席しているわけではないのだが当の本人は我関せずを貫き通している。
やがて教師は返事を期待することを諦め次の生徒に移っていくのだが、誰もそのことについて触れようとはしなかった。
何故か、それは私のうしろに座っている少女の名前だったからだろう。
誰も注意をしないあたりそれだけ彼女の特異性と言うものが垣間見れる気がする。
それからも出席確認は続きすぐに岡崎が呼ばれるとそれから二、三人後に私の番になる。
大した問題もなく返事をして静かに待つことにする、のだけど。
出席確認で思わず気がかりだった少女の名前が出てくる、と言うことはつまりもう一人もすでに名字だけはわかっているということで
「清水~」
「はい」
「…なんだ、ずいぶん機嫌悪いみたいだが何かあったか?」
「いえ、別に。早く続けてください」
「お、おうじゃぁ-」
私の席から斜め後ろ、結局仲直りが出来なかったが名字だけは朝の出席確認で明らかになっていた。いやそれがどうこうというわけではないのだが。
少し遠い教卓から見ても彼女-清水の機嫌が悪いことが感じ取れるということは、今回はいつにもまして酷いということだ。
いったい何が彼女をそこまで怒らせているのだろうか、半ば原因に心当たりがあるので余計に朝礼中腹痛(精神性)に悩まされることになったのは余談である。
無事朝礼が終わり一限目の準備をしていると担任の教師に呼びだれた。
疑問に思いながらも指示の通り廊下まで出向く。
すると教師が壁にもたれかかりながら呑気にあくびをしている姿を見かける。
私に気が付くいても、あくびを引っ込めることはなく一度伸びをしてから話しかけてきた。
「おう、こっちだこっち。すまねぇな時間取らせて」
「別にかまいませんですけど。何か?」
準備もあらかた終わっていざ岡崎と談笑をしようかと言う時だったので暇ではあったのだ。だから問題ない、問題ないのである。
「いかにも嫌な顔してやがるな、何が不服なんだか」
「これからの期待に胸をふくらます転校生に今一番の話題の席へ座らせることですかね」
「…アー、それはすまなったな。つってもあそこしか空いてなかったんだ。もし席替えしてくれる奴がいるなら今からでもいいぞ?」
ずいぶんと痛いとこをつく。そんなもの好きがいったいどこにいるというのだろうか。それこそ私みたいな何も知らなかった奴くらいだ。
あんまりな反論に、それでも言い返す言葉が見つからず口をつぐんでいると、教師が頭を掻きながら話をつづけた。
「今回のことは確かに悪かった。でだ、その話に関わっていることなんだが一つ頼まれてくれ。」
「藪から棒になんですか。ものに寄ります。」
「お前のうしろの席の子、泉の事それとなく気にかけてやってくんねぇか?」
「…はぁ!?」
いったい何を言いだすのかこの教師は、彼女に関することで私にも被害が被っているのに、その加害者の面倒を見ろとは…開いた口が塞がらないとはこのことか。
もちろんそんなことはやりたくはないし、出来れば平穏に過ごすため早めに席替えをしてほしいのに。
「言っていることが分からない、てか普通は僕が面倒見てもらう側ですよね。なのになんで!?」
「あまり大声出すな、出来れば他の奴らに聞かれたくないんだ。」
「そんなの-」
関係ない、少なくととも私には。
そんな私の反論に言葉をかぶせて、教師は言う。
「もしかして、あの噂を聴いた後か?」
「悪い噂の類なら山ほど」
「そうか、…たく余計なことしやがって。せっかくの計画が台無しじゃねぇか。…あ」
「計画?」
「おっと何でもない。それはともかく最近どうだ」
これ以上突っ込まれると厄介なのか、露骨に話をそらしてきた。
しつこく追及するのは、いささか億劫なのでそのまま合わせることにする。
「最近、ですか。もしかしなくても過不足なく過ごせているかですか?」
「ま、これでもお前の担任だからな」
相変わらず寝ぼけている可能な目は、それでも私を気遣っているように見える。
こんななりでも一端の教諭、と言うことか。何を考えているのかはうかがい知れないが。
心配されるのは悪い気はしないのでその問いには率直に答えることにした。
「そうですね…やはり席的に」
「スマンそれは考えから抜いてくれ、それ以外で頼む。」
「…まぁ最良、と言うわけではないけど順調ですよ。清水さんのこと以外は」
「それは…まぁご愁傷さまってやつだわ。いろいろとな」
「いろいろ?」
「あれ、知らないのか。今校内で1、2位を争うほどの有名人なのに」
心底驚いたていで話す担任に嫌な予感が膨れるが、それでもあえて聞かねばならないのだろう。
「それはいったいどういう…いい意味で、と言うわけじゃ」
「人によるが、まぁ俺は勘弁願いたいわな『勇者王』なんて渾名」
「それ詳しく。」
「お、おう」
その後担任の口から明かされた真実と言えば、そこまで大したものではなくしかし私からすれば不名誉極まりない理由と誤解によるものだとだったのは言うまでもない。
男子に誉めそやされて女子に蔑まれることを踏まえてみれば察しのいい人は理解できるはず。
そもそもの原因は私が作ってしまったのだが-
そんな話をしているともともと少なかった休み時間がすべてなくなり一限目始業の鐘が鳴り響いた。
担任はこれ幸いと、受け持ちの授業があるといって颯爽と去っていく。
去り際に
「ああ、あの件少し考えといてくれよ」
という捨て台詞を吐いて完全にその場から姿を消す。
残された私と言えば積み重なる問題に途方に暮れて、しばらく動けなくなるのだった。
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