第二章⑦

 その放課後である。自分のやっていることに疑念を覚えつつ、つい部室へと足を向けてしまうのは何故だろうと形而上学的な考察を働かせながら私は文芸部室へとやって来た。


「こんにちわー」


 やっぱりいる長門有希と、両手を揃えて椅子に座っている朝比奈みつる先輩。

 人のことはいえないけど、よっぽどヒマなのかな、この二人は。

 私が入っていくと朝比奈先輩はあからさまにホッとした表情になって会釈した。長門と二人で密室にいたら、当然疲れるわ。

 ていうか、あなた、あんな目にあいながらよく今日も来ましたね。


「涼宮くんは?」


「さあ、六限にはすでにいませんでしたけどね。またどこかで機材を強奪してるんじゃないですか」


「僕、また昨日みたいなことしないといけないんでしょうか……」


 額に縦線を浮かべてうつむく朝比奈先輩に、私は精一杯の愛想の良さで、


「大丈夫です。今度あいつが無理矢理朝比奈先輩にあんなことしようとしたら、私が全力で阻止します。自分の身体ですればいいんですよ。アノバカなら楽勝です」


「ありがとう」


 ペコリと頭を下げるはにかんだ微笑みのあまりの可愛さに思わず朝比奈先輩を抱きしめたくなった。あ、いや、しないけどね。


「お願いします」


「お願いされましょう」


 太鼓判を押したのはいいけど、私のそんな約束が机上の空論、砂上の楼閣、太陽内部の水素原子のように崩壊するまでに五分とかからなかった。ダメ人間だ、私。


「やっほー」


 とか言いながらハルヒコ登場。そのまま山登りしに行けばいいのに。両手に提げているでかい紙袋が私の目を引いた。


「ちょっと手間取っちまって、わるいわるい」


 上機嫌時のハルヒコは必ず他人の迷惑になりそうなことをかんがえていると見て間違いない。

 ハルヒコは紙袋を床に置くと後ろ手でドアの鍵をかけた。その音に反射的にビクンとなる朝比奈先輩。


「今度は何をする気なの、涼宮。言っとくけど押し込み強盗のマネだけは勘弁してよね。あと脅迫も」


「何言ってんだよ? そんなことするわけないだろ」


 じゃあ机に載っているパソコンは何だ。


「平和裏に寄付してくれたもんだろ。そんなことより、ほら、これ見ろ」


 紙袋の一つからハルヒコの取り出したのは、何やら手書き文字が印刷されたA4の藁半紙である。


「わがSOS団の名を知らしめようと思って作ったチラシだ。印刷室に忍び込んで二百枚ほど刷ってきた」


 ハルヒコは私たちにチラシを配った。授業をサボってそんなことをしてたのか。よく見つからなかったわね。別段見たくもなかったけど私はとりあえず受け取ったそれに目を通す。



『SOS団結団に伴う所信表明。

 我がSOS団はこの世の不思議を広く募集しています。過去に不思議な経験をしたことのある人、今現在とても不思議な現象や謎に直面している人、遠からず不思議な体験をする予定の人、そうゆう人がいたら我々に相談するとよいです。たちどころに解決に導きます。確実です。ただし普通の不思議さではダメです。我々が驚くまでに不思議なコトじゃないといけません。注意して下さい。メールアドレスは……』

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