第二章④

 お知らせしよう。何の紆余曲折もなく単なるハルヒコの思いつきにより、新しく発足するクラブの名前は今ここに決定した。

 SOS団。

 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒコの団。

 略してSOS団である。

 そこ、笑っていいわよ。

 私は笑う前に呆れたけどね。

 なぜに団なのかと言うと、本来なら「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒコの同好会」とすべきなんだろうけれど、なにしろまだ同好会の体すらたっていない上に、何をする集団なのかも解らないのである。 「それだったら、団でいいだろ」という意味不明なハルヒコのヒトコトによりめでたくそのように決まった。

 朝比奈先輩は諦めきったように口を閉ざし、長門有希は部外者であり、私は何を言う気にもなれなかったため、賛成一、棄権三で「SOS団」はめでたく発足の運びとなった。


 好きにしてよ、もう。


 毎日放課後ここに集合な、とハルヒコが全員に言い渡して、 この日は解散となった。肩を落としてトボトボ廊下を歩いている朝比奈先輩の後ろ姿があまりに哀れを催したので、


「朝比奈先輩」


「何ですか」


 年上にまったく見えない朝比奈先輩は純真そのものの無垢な顔を傾けた。


「別に入らなくてもいいですよ、あんなヘンテコな団に。あいつのことなら気にしないで下さい。私が後から言っておきますから」


「いえ」


 立ち止まって、彼はわずかに目を細めた。笑みの形の唇から綿毛のような声が、


「いいんです。入ります、ボク」


「でも多分、ろくなことになりませんよ」

 

「大丈夫です。あなたもいるんでしょう?」


 そういえば私は何でいるんだろう。


「おそらく、これがこの時間平面上の必然なのでしょうね……」


 つぶらと表現するしかない彼の目が遠くのほうを見た。


「へ?」


「それに長門くんがいるのも気になるし……」


「気になる?」


「え、あ、や、何でもないです」


 朝比奈先輩は慌てた感じで首をブンブン振った。ふわふわの髪の毛がふわふわと揺れる。

 そして朝比奈先輩さ照れ笑いをしながら深々と腰を折った。


「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」


「ま、まあ、そう言われるんでしたら……」


「それからボクのことでしたら、どうぞ、みつるくんとお呼び下さい」


 にっこりと微笑む。

 うーん、目眩を覚えるほど可愛い。『やはり朝比奈先輩がオトコノコなのはまちがっている。』あー、性転換したい……


 ◇ ◆


 ある日のハルヒコと私の会話。


「あと必要なのは何だと思う?」


「さあね」


「やっぱり謎の転校生は押さえておきたいと思うよな」


「その謎の定義を教えて欲しいもんよ」


「新年度が始まって二ヶ月も経ってないのに、そんな時期に転校してくる奴は充分謎の資格があると思うだろ、お前も」


「御父さんが急な転勤になったとかじゃないの」


「いいや、不自然だ。そんなの」


「アンタにとって自然とはなんなのか、私はそれが知りたい」


「来ないもんかなぁー、謎の転校生」


「ようするに私の意見なんかどうでもいいのね、アンタは」


 ◇ ◆


 どうもハルヒコと私が何かを企てているという噂が流れているらしい。


「アンタさぁ、涼宮と何やってんの?」


 こんなことを訊いてくるのは谷口に決まっている。


「まさか付き合いだしたんじゃないわよね?」


 断じて違う。私が一体全体何をやっているのか、それはこの私自身が一番知りたい。


「ほどほどにしときなさいよ。中学じゃないんだから。グランドを使い物に出来なくなるようなことをしたら悪ければ停学くらいにはなるわよ」


 ハルヒコが一人でやるんであれば私はそこまで面倒見きれないけど。少なくとも、長門有希や朝比奈みつる先輩に害が及ばないように注意はしておこう。こんな配慮の出来る自分がちょっと誇らしい。

 暴走特急と化したハルヒコを止める自身はあまりないけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る