第一章④
まだ四月。この時期、涼宮ハルヒコもまだ大人しい頃合いで、つまり私にとっても心安まる月だった。ハルヒコが暴走を開始するにはまだ一ヶ月弱ほどある。
しかしながら、ハルヒコの奇矯な振る舞いはこの頃から徐々に片鱗を見せていたと言うべきだろう。
と言うわけで、片鱗その一。
髪型が毎日変わる。何となく眺めているうちにある法則性があることに気付いたのだが、それはつまり、月曜日のハルヒコはストレートの肩くらいにまでつく髪を普通に垂らして登場する。次の日、どこから見ても非のうちどころのないポニーテールでやって来て、それがまたいやになるくらい似合っていたのだが、その次の日、男なのに今度は頭の両脇で髪をくくるツインテールで登校し、さらに次の日になると三つ編みになり、そして金曜日の髪型は頭の四ヶ所を適当にまとめてヘヤゴムで結ぶというすこぶる奇妙なものになる。ていうか気持ち悪いのだが。
月曜日=○、火曜日=一、水曜日=二……。
ようするに曜日が進むごとに髪を結ぶ箇所が増えているのである。月曜日にリセットされ後は金曜日まで一つずつ増やしていく。何の意味があるのかまったく解らないし、この法則に従うなら最終的には六ヶ所になっているはずで、果たして日曜日にハルヒコがどんな頭になっているのか見てみたい気もする。
片鱗その二。
体育の授業は男女別に行われるので五組と六組の合同でおこなわれる。着替えは男が奇数クラス、女が偶数クラスに移動してすることになっており、当然前の授業が終ると五組の女子は体育着入れを手にぞろぞろと六組に移動するわけだ。
そんな中、涼宮ハルヒコはまだ女子が教室に残っているのにもかかわらず、上半身裸になったのだ。何、もしかして自分の肉体美をさらしたいの? 本当になんなの?
まるでそこらの女などカボチャかジャガイモでしかないと思っているような平然たる面持ちで脱いだブレザーとYシャツを机に投げ出し、体操着に手をかける。
あっけにとられていた私を含めた女子たちは、この時点で朝倉涼介に謝られながら教室から出された。
その後朝倉涼介をはじめとしてクラスの男子はこぞってハルヒコに説教をしたらしいがまあ何の効果もなかったね。ハルヒコは相変わらず女子の目などまったく気にせず平気で上半身裸になり始めるし、酷いときは下も脱ぎ始めるので、本当にお前は自分の肉体美を見せたいだけだろうと思う。
それにしても腹筋すごかったなぁ……コホン、それはさておき。
片鱗その三。
基本的に休み時間に教室から姿をけすハルヒコはまた放課後になるとさっさと鞄を持って出て行ってしまう。最初はそのまま帰宅しているのかなと思っていたらさにあらず、呆れることにハルヒコはこの学校に存在するあらゆるクラブに仮入部していたのだった。昨日バスケ部でボールを転がしていたかと思ったら、今日は手芸部で枕カバーをちくちく縫い、明日は野球部でバットを振り回しているといった具合。家庭部にも入ってみたというから徹底している。運動部からは例外なく熱心に入部を薦められ、そのすべてを断ってハルヒコは毎日参加する部活動を気まぐれに変えたあげく、結局どこにも入部することもなかった。
何がしたいんだろうかね、こいつはよ。
この件により「今年の一年におかしな男がいる」という噂は瞬く間に全校に伝播し、涼宮ハルヒコを知らない学校関係者などいないという状態になるまでにかかった日数はおよそ一ヶ月。五月の始まる頃には、校長の名前を覚えていない奴がいても涼宮ハルヒコの名前を知らない奴は存在しないまでになっていた。
そんなこんなをしながら――もっとも、そんなこんなをしていたのはハルヒコだけだったけど――五月がやってくる。
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