伝聞――百聞は一見を歪める

†††

 学校の坂道は急いでいる時には得に苦になる。いつもよりも自分の足が重く、時の経つのは苛立つ程に、早く過ぎ去る気がする。実際にはいつもと時の経ち方はなんら変わらないのだとは理解していても――。


 ようやく校舎にたどり着いた一真は、階段を二段越しに飛び越えていき、三階にある自分の教室へと走った。あと半階、踊り場の所まで来て一真は立ち止まった。


 息切れした事もあったが、何より上の階から何やら笑い声と歓声が聞こえたからだ。月は上にいる。そして、またその口下手な性格で戸惑っているに違いない。助けないといけないのはわかるのだが、正面から入室するわけにもいかない。


 残りの階段と廊下を忍び足で歩き、教室の後ろにあるドアから入ろうとする。窓から顔が見えないよう姿勢を低くしながら。


 が、開かない。一真は力を入れたが、ドアはガタガタと空しく揺れるだけだ。


「誰だ。閉めたのは……」


 一真は毒づいた。鍵が掛かっている。はぁっと溜息をつき一真は仕方なく前のドアから入室する事にした。


 前のドアに付いている窓は外からも内側からも見えないようになっているが、それでも黒板の前に小さな影が佇んでいるのは見える。向こうもこちらを確認しているだろう。そのまま、自己紹介の話を続けてくれればいいものを、向こう側は静かにこちらの入室を待っている。


 ドアをさっと開けた。そこにはなぜか、赤くなりながら狼狽えている月がいた。


「あ、か、かずま来ちゃった」


「来ちゃ――」いけないのかよ、そう言おうとして、一真はクラスを見回した。何故か全員が笑いを堪えるように口元を抑えている。未来の席が空いている事をもっと気にするべきだと頭では思っても、やはり気になった。……嫌な予感がしてきた。


「想い人登場!!」


 クラスでもお調子者で名が通っている男子がそう騒いだ。それに同調する連中が連呼するように「想い人―!」「ひゅう!!」などと声を挙げている。


「月」一真はなぜこんな状況になっているのかわからない。が、原因がこの少女にある事くらいはわかっている。


「あの、これはね、彼氏いるかいないかって聞かれて」


「俺はお前の彼氏になった覚えはねーぞ」


 幼い頃のあの思い出はあくまでも幼馴染としての付き合いだった。いや、そうだと一真は思いたい。あんなものに恋愛の「れ」の字も与えるつもりはない。


「いないって答えた!」


 月は一真の言葉を必死で否定するように叫んだ。が、それから萎んだ声で付け加える。


「でも、想い人ならいるって答えた……京都引っ越す前に出会ったって。で、それは誰だって質問責めにされて。この学校の人間かと聞かれて……」


「言い逃れできねーぞ! 一真くーん? 幼馴染だと? そんなおいしいシチュエーションをお前が持っているとはな!」


 お調子者のそいつがニタニタと笑って言った。いつもはまるで興味を持ってこない癖に、なぜ今日に限ってこんなに絡んでくるのだろうと一真は頭を抱えたくなる。それを言うなら他の生徒達もそうだが。


「ほらほら、もうそこまで」


 担任の秋原が見かねてか、そう声を掛けて静まらせた。が、明らかにこの状況を楽しんでいるのか、顔がにやついている。


 あれは絶対、職員室で話題にする顔だ。


「授業が始まる。準備して」


 その言葉が合図だったかのように朝会終了の鐘が鳴った。生徒達はまだ口々に――まるで根拠もない噂話も含めて――一真と月の関係を話し合いながら次の授業の準備を始める。一真はどうしたらいいのか立ちすくみ、その間に月は他の面倒見のいい女子生徒にその手を引かれて行った。


 転校生というのは、その物珍しさに反して学校生活では目立たない物だ。学校では固定の友達は一人もいない状態で、本人も何をどうしたらいいのか右も左もわからない状態なのだから。その意味では月も普通の転校生だった。ただ、彼女には転校生である以上に目立ってしまう要素がいくつもあった。


 一つは、神社に住む陰陽師の娘だということ。ミステリアスな雰囲気といかにも巫女という感じの黒髪と嫋やかな肌の魅力は瞬く間にクラスの男どもを――一部女子も――虜にした。


 そして、二つ目はかつての幼馴染で想い人である一真が転校してきたクラスにいたこと。これは一真にしてみれば不本意であった。

 運がいいのか、悪いのか、彼のクラスは元々他のクラスと比べて人数が若干少なかった。だから、必然として転校生である月と同じクラスになってしまったのだ。


 最後に三つ目だが。これは月自身の努力の賜物だろう。彼女は物凄く頭が良かった。特に国語が。


「あ。あの先生」


 古典の時間、宿題にしてあった古文の現代語訳をクラスの誰一人としてやってこなかった事を秋原教師が説教していた時の事だった。月がおずおずとした調子で挙手したのだ。


「なんだい。月さん」苛々とした調子で秋原が聞いた。古文訳の宿題を全員がしてこなかったのは、これが初めてだったことのせいでもあるが、普段温和な彼が怒るのは相当なことだ。


「わたし、そこの所訳せます」


「えぇ? でも、ここはー……」


「まず、ここですが。あ、ここというのは、この三十ページの三行目!」と驚く秋原の前で、月は言った。ぎこちないのは説明だけで、現代語訳だけはすらすらと出た。予習でもしてきたのかと思ったが、ノートは見当たらない。流石陰陽師! というよくわからない称賛がクラス中で上がった。


 国語だけでなく、歴史でも数学でも彼女は、ノートも無しに教師が出してくる質問を悉く、答え生徒達の注目を集めた。


 が、なぜか四時間目の英語では全く発言が無かった。その理由は英語教師のカーチスに、指名された時に明らかになった。


「では、ここの英文読んでみてクダサイ。テンコーセーさん?」


「は、はい! えっと……あい・あい? ハブ?……」


 そのしどろもどろさに、前時とのギャップにクラスの全員は黙り込んでしまった。他の教師から評判を聞いていたのか、カーチス教師も授業の終わりにはがっくりという表現がぴったりと来る程に肩を落としていた。


 だが、月の注目度は下がるどころかむしろ上がった。クラスメイトの中には彼女の頭の良さに嫉妬を感じた者もいたようだが、英語でのあまりの発音の酷さを知って、彼女が完璧な人間ではない事を理解したようだった。


 前時まで月の発言の良さに影口を叩いていた女子生徒が、今は月に向かって積極的に話しかけている。


 一真はそれら全てをどこか他人事のように眺めていた。最初はどうなるものか、自分と同じようにクラスの輪に入れないのではと危惧していたが、そんな心配は無用のようだった。


 それに、一真自身も彼女の影響のせいか、クラスの輪に無理やり入れ込まれている感じがした。月の想い人というのはまるっきりの当てつけだが、幼馴染という事で、かなりしつこく彼女の事をクラスメイトから聞かれた。


「だから、別に大した思い出はないんだって」


 昼休み、普段は全く話さない男子三人が机を寄せてくるなり、月の事を聞いてきたので、一真は必死にそう弁解した。


「だけど、幼馴染だろ!? それって、ありそうで案外ない、すんげーレアな要素なんだぞ!」


 クラス一のお調子者、狩野がそう言いながら、鞄から弁当を取り出した。


 その視線が月の姿を探したが彼女はどこへ行ったのか教室にはいなかった。購買にでも行ったのだろうか。と思った一真だが、別の可能性……嫌な予感も感じていた。それはクラスメイトには言えないような物だが。


「あのな、幼馴染はレアかもしれない。だが、その幼馴染が幼馴染の男を好くのは、漫画とかアニメだけの話だ! 幼馴染だからって理由で恋人同士になるって方式は間違っている! 理論的に!」


 一真は興奮して、捲し立てた。狩野と二人の男子生徒がダハハと噴き出して笑った。


「その理論的に! っての数学の塩谷の口癖じゃねえか」


 その笑いに一真はまたしても苛立ちを感じて、口を開く。


「そんな事はどうでもいい。要はな――」


「一真! お弁当!! 私の分は買ってきた!」


 教室のドアが勢いよく開いて音を立て、教室の窓が震えた。月がそこで満面の笑みのまま両手を万歳して突っ立っている。片手に手作りと思われる包みに入った弁当箱、もう片方に購買で買ったと思われるプラスチック容器に入った弁当があった。


 昼食中の生徒の視線が一気に月とその二つの弁当に集中する。


 さて、この少女は何を言っているのだろうと、どこか冷えた思考で一真は考える。弁当がふたつ?


 一つは月のだとするともう一つは……頼むから嘘だと言ってくれ。既に自分で作った弁当のある一真はそう願った。


「朝だけでなく……昼もか」


「何!? 朝もって、どういうことだ!! 沖一真!! 説明しろぉおお!!」


「うるせえ!! わざわざ、小声でつぶやいたワケを察しろよ!!」


 一真は騒ぎ立てる狩野他、多数のクラスメイトに向けて怒鳴った。その横で月が手作りの方の弁当を一真の机に置いた。とそこで、一真には既に弁当がある事に気付いたのだろう。気まずそうな顔で一真を見た。


「あ、ごめん。弁当持ってきたのかどうか聞くべきだったよね……。碧と舞香が『想い人には弁当を作ってあげるのが常識』みたいな事を色々言ってて。それで、朝勢いで作ったの」


「やはり、あの二人かー……て、月。なんでお前はそんな粗末でぼったくりのコンビニ弁当なんだ?」


 まるで見栄えの良くないコンビニ弁当には五百円というテープが張り付けられていた。自分で作った方が絶対に安い筈だ。


「うん、自分の分作るの忘れた。一真の分作るのに夢中で」


 クラスの好悪相反する感情の視線が痛い。一真はなるべく喜んでいるように見えないよう表情を押し隠した。が、これが逆に仇となった。月が悲しげな表情で弁当を見下ろしつつぽつりとつぶやく。


「いらない、よね。もう自分で作ってきたんだし」


「沖ぃいい!!!」


「この女泣かしー!!」


 途端、野次馬からブーイングの嵐が起きた。よく見ると別のクラスからも見物人が来て、一真と月の会話を眺めている。見世物じゃないぞと、一真はその連中を睨んだ。


「やかましいわ!! 食うよ! 当たり前だろ!?」


 一真の気魄に押されて、月はたじろいだがその顔には笑みが戻っていた。


「ほ、ほんと?」


「あぁ。そうだとも。空けていいか?」


「どうぞ、どうぞ」


 言われるままに包みを解き、蓋を開ける。野次馬どもが顔を近づける。と、次の瞬間、一真も他の生徒達も黙りこんでしまった。


 そこには所狭しと卵焼きが敷き詰められていた。


「へへ、どうかな。得意料理を作ってあげると喜ぶって、碧が」


「わかった。うん、それはわかったから。わかったけどさぁ……」


 これはないよなぁと声には出さずに一真は思った。一体どれだけの卵を使ったのだろうとどうでもいいことを思いつつ、弁当箱に広がる一面の黄色い大地を眺める。


「た、食べるよな?」


「いや、でも卵焼きしかねーぞ!?」


「やかましい。黙れ」


 一真は一喝し、そして溜息をついた。朝の稽古の応援。そして、お昼。


 どちらもどこか抜けているが、それでも彼女は自分の為に弁当なんぞを作ってきてくれたのだ。それは何故だ。想い人だのなんだの、本気で思っているのだろうか。一真は疑問に思った。これは全て単なる気遣いなんじゃないだろうか。昨日の事に対するお詫びとも取れる。


「月、悪いけど一緒に来てくれ。二人きりで食べよう」


「二人きりっ!?」


 月の顔が茹でたこのように、耳まで一気に赤く染まった。湯気でも出しかねない程に。


「そういう意味じゃない」


「そういう意味」がどういう意味かについては、あまり想像せずに一真は言って、鞄と一緒に置いてある竹刀袋に手を掛けた。


「おい、お前ら」脅すように、一真は辺りを見回し竹刀袋を掲げた。


「付いてきたら、ころすぞ」


 一瞬にして辺りの温度が下がる。なんだか、クラスの輪をわざと避けているような感じがして、嫌な気分になるが、月とはもう一度、きっちりと話す必要がある。致し方ない。


 月の制服の袖を引っ張り、一真は足早に教室を出た。階段を下り、外に出る。さて、一体どこへ行けば、邪魔をされずに話が出来るだろう。


「一真?」月が不安そうに見上げてくる。


「いや、ごめん。恥ずかしくなったから飛び出したんだ」言おうと思った言葉とはまるで違った。聞くのが恐ろしかったのかもしれない。「こんなに良くしてくれるのは、俺への気遣いの為だろ?」等と聞くのが。


 月は僅かに下を向いた。


「そっか。でも、あのクラスの人たちはいい人達だと思うよ」


「そうかぁ? まあ、そうかもしれないけど」


 一真にはわからない。クラスメイトと自分には壁がある気がしていた。だが、それを作っているのはもしかしたら、自分かもしれない。だが、それはどうでもいいことだ。


「いや、でも本当にいいのか? なんか、弁当なんか作ってもらってさ。おまけにお前はそんなコンビニ弁当で」


 卵焼き一種のみという奇妙さを除けば、月の弁当の方がコンビニ弁当なんぞよりよっぽど綺麗だ。


「いい。今度からは自分の分も作るようにするから」


「卵焼き以外も入れるんだぞ……そして、たまにでいい。こっちも貰ってばかりで悪い気になっちまうからな」


「わかった」


 校庭の傍の石段は人がいなかったので、そこに腰を下ろすことにした。ここだと、校舎から丸見えだが、少なくとも話は聞こえない。そこで、一真はずっと聞きたかった事を聞くことにした。


「なあ、引っ越した後はどうしてたんだ、お前」


 弁当を突いていた月の箸がぴたっと止まった。


「やっぱり、知りたい……?」


「いや、無理にとは言わない」


 一真は反射的にそう答えていた。それは、彼女の中の事を無理やり聞き出すのは良くないと思ったからだけでなく、彼を見る月の視線が感情のない真っ黒としていたからでもあった。見つめ続けたら思わずその中に取り込まれてしまうような。


「うん、そんなに面白い話じゃない。物の怪と戦ったりとかそんな事ばかりが、頭に残った思い出」


「そうか、でも、友達は? 京都にも友達はいただろ?」


「同じ稼業の人がいたけど」月は何かを言いかけて首を振った。


「そっか」


「うん、そう」それ以上聞かなかった一真に感謝するように月は同調した。


「でも、普通の人、陰陽師じゃない人で友達と言える人は殆ど出来なかったかな。一真に出会う前に逆戻りしたみたい」


 広い校庭を眺めながら一真はかつての月の事に思いを巡らせた。想い出に出てくる彼女はいつも、一人だった。



 友達を作って仲良く遊ぶ時期に、彼女は敵を作って戦いあうことばかりしていた。自然、人付き合いの方法がわからなくなるのも無理はないかもしれない。転校生という事で今は持て囃されているが、これが後一週間続くかどうか一真には保障出来ない。友達が一真一人というのはあまりにも悲しい。


「なぁ、月」一真が声を掛けたが、月は黙ったままだった。構わず話し続ける。


「また、あの時みたいに、二人で色々な所へ行こう。そしたら、もっと友達も出来るさ。愛沙さんとだって仲良くなれただろ?」


 月は俯いたまま黙り続けている。黒く長い髪に隠れてその表情を伺い知る事は出来ない。


 どうしたものかと、一真は考えた。月の為と思って言った事だが、それが逆に彼女の負担になってもいけない。それにこんな事を言う一真自身、学校で友人と言える人間は殆どいない。




「いる」



 月がぽつりと呟いた。その言葉に一真は肩を震わせた。その口調は感情を目一杯抑え込んで膨らんだ爆弾を思わせる。いるとは、何がいるのか? そんな事決まっている。友達だ。


「あ、そりゃそうだけど……俺達は……」


 一真は何か答えようとして思考のまとまらない言葉を漏らした。月がゆっくりと立ち上がる。一真は思わずあっと呟き、その表情をまじまじと見つめて固まった。月は一真が思ったように彼の言葉に傷ついたわけではなかった。



「あいつが、いる!」



 獰猛な笑みを浮かべ静かに少女は呟く。一真は自分が何かとんでもない勘違いしている事に気づいた。


「あいつ……?」しかし、月はその問いには答えない。


「日向! 護身剣・黒陰月影!!」


 月の制服の袖から一枚の符が飛び出し、鞄からは懐剣が飛び出した。



「先ず便門の玉女において者申す、扉を開けよ。続いて万物の霊気よ、我が命に従え! 我はこれ、世の理を乱す物の怪を討つ者なり、執持したるこの太刀は凡上の太刀に非ず! 百の獣を討ち、百の魔を滅し、百の病を癒せん! 急ぎ急ぐこと天帝太上老君の律令の如し!!」


 叫んだ途端、周りから人の声、足音が消え去り、風すらも止んだ。見ると校庭にいた生徒達が、一真達のいる場所から遠ざかっているのがわかる。


「反閇の術と払いの術。これで私達のいる所には人だろうが、動物だろうが近づかなくなる。そして、陰の界への扉は開かれん」札から幽霊のようにぼうっと現れた日向が一真に説明してくれた。その表情は不安で一杯のようだった。


「わかってる!」月が突然叫んだ。が、それは日向に向けられた物ではないらしい。何故か、彼女は剣に向かって叫んでいた。


「でも、今父様達は、陰陽寮にいる。私のこの位置が一番近い筈!!」


「お、おい。月?」


 一真が声を掛けると、勢いよく月が振り向きその黒蜜のような髪が一真を打った。敵を睨むようなその視線に一真は一瞬たじろぎ、月もはっと息を呑んだ。


「ごめん……」月がしゅんとなって言った。が、懐剣を握りしめるその手の力は抜けない。


「あいつが、あいつが出たから」


「あいつ……て、物の怪か?」月は一瞬迷ってから頷いた。昨日物の怪を倒した時には無かった焦りと興奮に一真は戸惑う。それとも、余程強い敵なのだろうか? そんな事を考えていると月がさっと一枚の符を取り出した。


「人形ひとがた。これを私の席に放って。私の代わりになる筈だから」


「あ、おい! 待てよ」そのまま行こうとする月の肩を一真は掴んだ。月は今度こそ、一真を睨んで言った。


「なに? 私、早くしないとあいつが!」


「そいつは一体どこに現れたんだよ! 俺の家か?! それとも……」



「未来ちゃんの家だよ」


 日向が答えた。月は目をカッと見開いて、信じられないというように日向を睨んだ。だが、一真はそれどころではない。


 まさか、なぜ未来が? 昨日物の怪に襲われたせいか? 昨日一緒に帰りさえしなければ……。また明日と言っていた。明日になれば悪い夢で終わるかもしれないと……。だが、そうはならなかった。


 もしかしたら、今日学校に来なかった理由それは、見えない物の怪の姿に怯えていたからなのだろうか?


 あり得ない物、畏怖の象徴、自分の力ではどうする事も出来ない底のない闇。それを知ってしまった恐怖で外に出る事も出来なくなって……。


「月、俺は未来の家に行く」


「一真、駄目!!」


 慌てた月が勢いのまま一真の体にしがみついてきた。途端、コンクリートか何かで体全体を固められたかのような重みが襲いかかってくる。

 渾身の力で振り払おうとしたが、それも出来なかった。

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