峰岸 佑太 その4
ピーピーピー、とサイレンが鳴り始める。
「何の音?」
繁山が周囲を見渡して、音源を探る。
サイレンの音源は鉄骨の先、つまり最初にオレたちがいた場所からだった。
「誰かがパスワードを入力し始めたようですね」
待機している黒尽くめの男が言う。
「入力し終えると結果が出ます」
「……結果? 結果ってどういうことだよ?」
サイレンが響くなか、その声を聞き取った繁山が男に尋ねる。
「4分の1が死ぬか、4分の3が死ぬか、その結果だろ」
男が答えそうになかったので、オレがそう尋ねると
「それ、どういう意味だよ?」
繁山が掴みかかってくる。ガサツな不良女は暴力的でいけない。
「それがパスワードの謎の答えなんだよ」
掴まれた腕を振り払って言い放つ。
「小川、メモ帳」
納得してなさそうな繁山に説明するべく、メモ帳にふたつのパスワードを書く。
それを見て、繁山がメモ帳に顔を近づける。
ryoeuissncotuhieng
rthereseqcuaurteer
「これがふたつのパスワードだが、まず、注目するのは同じ位置でカブっている文字だ」
「カブっている文字? とすりゃ、最初が『r』で、次は……」
「『e』だね」
小川もオレの説明に興味深々なのか参加してくる。
「その通りだ。そのまま、カブっている文字を選んでいくと『s,c,u,e』だ」
「rescue……あ、レスキューだ。レスキューって文字になってる」
「でもこのカブってた文字はどっちに含まれてるんだろ。意味ないだろ」
「ああ、だから他の文字にも着目する。カブッた文字を除いた文字列はこうなる」
yo ui sn ot hi ng
th re eq ua rt er
「何か気づかないか?」
「よ うい しん おと ひ んぐ?」
「そうじゃない、空白は詰めていい」
youisnothing
threequarter
「なあ、これ、下はスリークォーター? って読めるよな?」
「ああ、その通りだ。 そして上は分かりにくいがyou is nothing。 英文は字数あわせのせいかテキトーすぎるがな」
「つまり、どういうこと?」
「この2つの英文にrescueを加えて、乱暴に和訳してみると」
you is nothing rescue →あなたには救助も何もない。
three quarter rescue →4分の3助かる。
「こうなるわけだ」
「ちょっと待てよ、上のパスワードって、あっち側に書いてあったやつだよな? てーことはもしそっちを入力してたら?」
「『怠惰』の部屋の連中は全員死ぬだろうな。こっち側にいるオレたちも。上のパスワードは黒ずくめの男の言っていた代償――『努力』の部屋のオレたちが『努力』を放棄した、罰ってところか」
「でもじゃあ、下の4分の3ってのはなんだよ」
「気づいてないふりはやめろよ」
オレは言う。
「こっち側とあっち側の部屋、そして鉄骨の橋を含めた『努力』の部屋は『怠惰』の部屋と同じ広さだ。その中の4分の3が生き残る。そして代償はない。そう考えれば、おのずと答えは出てくる」
「『怠惰』の部屋と『努力』の部屋のこっち側だね……」
「正確には鉄骨の橋のこっち側半分も含まれる」
「それ以外は……死ぬのかよ」
「ああ、さしずめ、『努力』の部屋で『努力』しなかった罰だろう」
「くそ……!」
繁山が鉄骨のほうへと走り出す。
「どうする気だ?」
「今、鉄骨を渡ってる藤木はクラスメイトなんだよ!」
言い放って、繁山は叫ぶ。
「走れ、藤木。躊躇うな。時間がないっ!」
わけが分からない藤木だったが、繁山の気迫に何かを感じたのか、走り出す。
あと一歩で鉄骨の半分に到達する、そこでサイレンが鳴りやみ……
藤木の首が吹き飛んだ。
「ああ……」
繁山がその場にへたり込み、小川が心配して近づいていく。
さらに爆発音。連鎖するように、あっち側のA組の委員長や、他のクラスのやつらの首が次々と爆発していた。
同時に、こっち側の部屋の左右の壁が開く。
右は『怠惰』の部屋に通じる入り口、そして左には上に続く階段があった。
「よお、随分と血まみれだな……最上」
オレは一番に入ってくる最上に声をかけた。
最上は血まみれで、オレの予想が的中していたことを証明していた。
「ああ、まったく最悪だよ、キミの言う通りだった。とっととあの場を離れればよかった……」
他に血まみれなのは宮沢と……副会長か。ふたりは最上と違って、どことなく呆然としている。それ以外のやつらはおそるおそるという感じでこっち側を覗いている。
「誰が入力したんだ?」
「生徒会長だよ」
「そうか。まあ、確かに……そんな感じはしていた。煩わしい委員長連中を避けてそっちに残ったんだからな、無駄な積極性を出したわけだ」
「……峰岸、くん。だっけ? どうして河東会長は死んだの?」
副会長が事情を知っていると悟ったのか、オレを見ていた。
「『怠惰』の部屋で『努力』したからだろうな」
そうとだけ告げるが、思考が巡らないのか、副会長は何も分かってない。
「『怠惰』の部屋だからな、言葉通り『怠惰』に過ごさなきゃならない。その部屋から出ようなんて『努力』をしたら……殺されるに決まってるだろ」
「そ、そんな……」
「もしかして、サイジョーくん……。知ってたの?」
「……知ってたよ? 電話で峰岸に聞いてたし。言い方はややこしかったけど」
「なんで! じゃあなんで河東会長に教えなかったのよ、最上くん」
「いや、むしろ生徒会長がしゃしゃり出てくれるように誘導したんだよ。それに伝えたらたぶん、副会長が死んでたよ。キミ、会長の奴隷みたいなもんじゃない」
最上がそう伝えた瞬間、最上はビンタされていた。さらに副会長はオレのほうにやってきて、ビンタをしようとしたが、オレはその手を受け止める。途端に真横から衝撃。
へたり込んでいたはずの繁山から蹴られていた。
さすが不良女、立ち直りが早い。というかキレるのが早い。
オレが知っていて、何も言わなかったことに腹を立てているのだろう。
「何をキレてやがんだ」
「うるせぇ。お前が後出し後出しするからこんなことになったんだ」
「そういうお前は、クリアできたのかよ。オレが助けなかったら……お前は今頃、ああだぞ!」
そう言って鉄骨の向こう側を指さす。
副会長たちもつられてそちらを見て、悲鳴をあげる。
「ど、どういうことなの、あれ」
「どうもこうも、あれが『努力』の部屋で『努力』をしなかった人間の末路だ」
「じゃあ、そっちの部屋で生き残ったのは3人だけなのか」
「まあそうだな」
「そんな……」
副会長が座り込む。
「休んでる暇はねぇぞ。たぶん、次がある。そうだろ?」
オレは待機する黒ずくめの男に宣言する。
男は何も言わず、ニコリと微笑んだ。
進んでみれば分かる、そう言わんばかりに。
『怠惰』の部屋・生存者101人
『努力』の部屋・生存者3人
生存者104人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます