7月 ニート、バイトに受からない

 数日ぶりにシャワーを浴びた俺は無敵モードだった。服装も整えて(いつの間にか暑くなっていたので半袖シャツを焦って探した)、持ち物の確認をして、いざ、バイトの面接へと向かった。

 それにしても暑い。梅雨が明けたと思ったら毎年これだ。熱中症で倒れる人が出てくるのもわかるような気がする。それに、なんか色々眩しい。うす暗い部屋に籠っていたのがいけなかったのか、外の景色の全てが初めて見る物みたいにキラキラして、俺を寄せ付けないオーラを出しているように思える。気のせい気のせい。俺が人気作家になれば、この空気も俺のものにできる。


 面接一社目。近所のコンビニ。

 俺は自分なりにベストな受け答えをしたと思った。その後、何の連絡もなかった。

 面接二社目。近所の本屋。

 笑顔で見送ってくれたから、これはイケたかと思ったが、不採用の電話が来た。

 面接三社目。近所のコンビニ(最初のとは別)

 「君はコンビニの仕事、舐めてるでしょ」と言われた。そんなことはない。大学生の頃、少しだけコンビニで働いた経験がある。諸事情により二ヶ月で辞めてしまったが、それはアクシデントで、俺が仕事できないからではなかった。

 面接四社目。近所のスーパー。

 俺はその面接に行く直前に履歴書の確認をした。もうバイトごときの面接で落ちるのは嫌だ。毎回、面接の度に色々な事が起こるが、三社目のコンビニの店長以外とはまともなコミュニケーションが取れていたと思うし、どこかおかしいところがあるとしたら、履歴書に不備があるとしか思えない。

 経歴欄に正直に大学卒業後三ヶ月間何もしてなかったと書いたのがいけなかったのか? 趣味・特技欄にスピリタス一気飲みと書くのはさすがにまずかったか? それとも、字がきれいじゃないからか? ああもうわからん! 誰かアドバイスくれよ!!

 俺は履歴書を床に放り投げた。はらりと落ちるA3の紙。しばらく放っておいて、寝転がって次の作品のヒロインのことでも考えようとした。しかし、集中できない。それに面接の時間も迫っている。むしゃくしゃしながらも俺は起き上がって履歴書を掴んだ。

 その一瞬、俺は履歴書に貼った顔写真の俺自身と目が合った。写真の中の俺は頬がこけて目が虚ろで髪がぼさぼさで、無様な姿だった。

 鏡で見ている時、徐々に変わっていく自分の容姿に気付く余裕はなかった。履歴書の写真なんて、本人確認ができればいいくらいに思っていた。でも、そうじゃなかった。この写真に写っている俺と、目の前に現れた俺が全く同じ姿だったら、誰も俺を信用しないだろう。むしろ、「写真の時くらい体裁整えるだろ普通」という感想を抱かれる。

 俺はその日の面接をバックレた。急いで近所の床屋に行って髪をさっぱり切って、牛丼二杯食って、漬物と味噌汁も付けて、鏡の前で何度も俺に「もう大丈夫」と言い聞かせた。

 面接五社目。近所のチェーン居酒屋。

 俺は大きな声で挨拶をした。店長は疲れ気味だったが、笑顔を作って事務室に招き入れてくれて、丁寧に俺と応対してくれた。俺はこのチャンスを逃すまいと必死だった。目力を意識して、声も張った。

 結果は合格。来週から俺はフリーターになる。ラノベ作家はまだだったが、ニートからは脱却できる。

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