第24話『真実を告げる①』

四月七日、日曜日。

 午前十時現在、鏡浜市の天気は曇天。鏡浜東中学校の上空には白い雲が空を覆っているが、西の方から鉛色の雲が流れてきている。そのためか、いつもなら爽やかに感じられる風が今日は肌寒く感じる。

 俺達、AGCのメンバーは鏡浜東中学校の昇降口前にいる。とある人物がここに来る予定になっているからだ。

「松本さん、映像の状態はどうでしょう?」

 俺がそう言うのも、松本さんとはタブレットを使ってテレビ電話をしているからだ。まどかがタブレットを持っている。

 タブレットの向こうには入院患者用の寝間着を着ている松本さんがいる。

『大丈夫だよ。成瀬君達のことはよく見えてる』

「良かったです。あともう少しで来ると思いますから、松本さんは楽な状態で見ていてください」

『分かったよ』

 松本さんの手術は成功し、今朝……意識も取り戻した。俺が今日、中学校で真犯人に真実を話すと告げると、松本さんはどうしてもリアルタイムで聞きたいと言いだしたのだ。そこで、タブレットを用いてテレビ電話で様子を見てもらうことにした。安全を確保するために、霧嶋刑事に頼み彼女の周りには数人の女性警官を常駐してもらっている。

「本当に大丈夫なのでしょうか、成瀬さん」

「大丈夫ですよ、小関さん。霧嶋刑事だっていますし、何かあっても刑事さん達が近くにいますから」

 小関さんはやはり不安そうにしていた。目的の人物をここへ呼び出すために、霧嶋刑事を介して小関さんに協力してもらったから。また、小関さんの娘さんも一命を取り留めて快方に向かっているとのこと。

「百瀬さんもちゃんと来てくれたね」

「……ええ、未来のためですから。それに、ななみちゃんもいますし大丈夫です」

 百瀬さんは隣にいるななみさんの手を強く掴んだ。

 この様子なら、俺の言う真実を伝えても……百瀬さんは絶対に絶えられる。新しい命を宿している彼女の強さと親友であるななみさんとの絆を信じよう。

 さて、約束の時刻は午前十時となっているが、時計を見ると午前十時五分過ぎだ。あの人の身に何かあったのだろうか。

「篤人君、来たわよ」

 堤先輩のそんな一声に、この場にいる全員が一人の人間に視線を向ける。その視線の先には黒いスーツ姿の竹内さんがいる。

 そう、俺が呼び出した人物とは竹内さんのことだ。

 注目の的となっている竹内さんはきょとんとした顔で首をかしげている。

「あれ? 小関さんとここで会う約束だったのに、どうして成瀬君やまどかちゃん達までいるのかしら? それも制服姿で……」

「AGCのメンバーとして、竹内さんに話すことがあるからです。昨晩、小関さんから来たメールは俺がお願いして送ってもらいました」

 竹内さんはくすっ、と笑った。

「……見事に騙されちゃったわけだね、私。でも、そんなことをするくらいなんだからそれ相応の理由があるはずだよね?」

 竹内さんは爽やかな笑顔をして俺に問いただしてくる。この様子では、俺が今から何を話そうとしているのか分かっているみたいだ。

「越水さんが亡くなった事件と昨日、松本さんが刺された事件の真実について……あなたに話したいことがあります」

「じゃあ、真犯人が分かったわけだ。逮捕されたはずのななみちゃんが遥ちゃんの横にいるわけだし。つまり、ななみちゃんは無実で真犯人は別にいる」

「ええ、そうですよ。ななみさんは犯人ではありませんでした。事件を起こした真犯人は他にいたんですよ」

 さて、そろそろ真実を話し始めようか。

「真犯人が誰であるかは置いておいて。まずは、事件当日に起こったとされている四つの事件について整理しておきましょう」

「四つも起こったの?」

「実際に起こったのは一つだけですけどね。まず、第一の事件は……警察が断定したななみさんが起こしたとされる殺人事件。二つ目はななみさんの頭の中で描いた、松本さんが起こしたとされる殺人事件。三つ目は松本さんの頭の中で描いた、百瀬さんが起こした殺人事件。そして、最後に……真犯人が実際に起こした本当の事件です」

 この四つの『事件』が複雑に絡んだことで、最終的にななみさんが逮捕されることになってしまったんだ。

「なるほどね。ななみちゃんの件はいいとして、麻美や遥ちゃんの場合は十分に疑わしいんじゃないかしら? 遥ちゃんはどうか知らないけど、麻美は越水先生が殺される直前に現場に行っていたんでしょう?」

「確かに、百瀬さんと松本さんは事件当日……現場に行っています。でも、二人のどちらかが犯人であれば、とても不自然なことがあるんです」

「何なのかしら?」

「越水さんの血が付いた百瀬さんの妊娠診断書を隠滅しなかったことです。その診断書は松本さんが昨日、俺達に届けてくれました」

「ちょっと待って。彼が殺されたのは麻美が現場から立ち去った後じゃないの? 今の成瀬君の話だとまるで……」

「そう、松本さんが現場に来たとき、越水さんは既に亡くなっていたんです」

「そんな……」

 妊娠診断書についている血痕を調べた結果、越水さんの血痕であることが分かった。事件当日に発行された診断書もあることから、血痕が付いたのは事件当時である可能性が非常に高い。

「松本さんが現場に来た時刻は午後三時十五分。越水さんが出したメールの指示通りに現場へやってきました。その時には既に亡くなっていましたから、越水さんの死亡推定時刻は午後三時から三時十五分の間に絞られます」

「じゃあ、真犯人はその前に越水先生を殺したんだ。ふうん……もう、ここまで話したらそろそろ真犯人の名前を教えてくれないかな」

「分かりました。真犯人の正体は――」

 俺は真犯人に向けてゆっくりと指さした。


「あなたに決まっているじゃないですか。竹内由佳さん」

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