第10話『事件捜査-School Side- ①』

 同日、午後十二時半。

 俺はまどかと堤先輩と一緒に私立鏡浜東中学校に向かうはずだったのだが、腹が減っては捜査もできぬという堤先輩の考えで、学校へ行く前にファーストフード店に入って昼食を取った。そのせいで眠くなってしまったのだが。

 今回のチーム分けには意味があったらしく、一年生にはリーダーである自分が一緒にいるべきだと判断したらしい。そして、先月卒業したまどかがいれば在校生徒や職員に色々と話が聞けるかもしれないという期待もあるそうだ。

 まあ、中学校であれば相手にするのは中学生か大人のはず。防衛本能がむやみに発揮されることはないだろう。ひとまず安心。

「なあに? 私と一緒に捜査できて嬉しいの?」

 どうやら、安心したが故に俺は無意識に胸を撫で下ろしてしまったらしい。そんな俺の姿をどういう風に解釈したのか堤先輩が興味津々で変なことを訊いてくる。

「……別にそんなこと思ってませんよ」

「相変わらず私には冷たい言葉を言うのね。まどかちゃんとは大違い。もしかして、二人って付き合ってるの?」

「ち、違いますって! 篤人さんと私の関係は……え、ええと……主従関係です!」

 まどかは顔を赤くしながら叫んだ。今ので周りの人が振り向いたぞ。

 しっかし、女子の思考のロジックが分からない。何故、堤先輩とまどかに対する態度の違いだけで俺がまどかと付き合っていると思わなければならないのか。それに、俺は同じように接しているつもりなんだが。

 あと、まどか。主従関係なんて言わないでくれ。間違っているとは言わないけどその言い方はまずい気がする。

「あ、篤人君ってそういう趣味だったのね……」

 誤解されたよ、やっぱり。そして、

「てめえ、人の話は最後まで聞けよ。つうか、まどかも先輩に誤解されるような言い方するなって」

 やっぱり防衛本能が発揮されてしまった。本当に申し訳ない、お二方。中学校ではこのようなことがないように努めますから。

「す、すみません……ええと、私が篤人さんに尽くそうと決めたんです。決して篤人さんが私に強要しているわけじゃありませんから!」

「それが真実ですよ、堤先輩」

 まどかがちゃんと本当のことを言ってくれたおかげか、すぐに防衛本能が引き下がってくれた。

「なるほどね。まどかちゃんが篤人君に奉仕したい気持ちも分かるかも。ねえ、あの時の篤人君はどうだった? ゾクゾクした? やっぱり当事者であるまどかちゃんにとっては篤人君がかっこよく見えるものなの?」

「ええ、それはもう」

 よりによって、どうして昨日の騒動の話で盛り上がるんだよ。あんな俺がかっこいいとかあり得ないだろう。それで俺は恐がられるようになったんだから。

 あの騒動は今後も忘れることのない黒歴史の一つだ。詳細に思い出したくないため、俺は両耳を塞ぎながら鏡浜東中学校に向かうのであった。



 同日、午後一時。

 俺達は私立鏡浜東中学校の正門前に立った。

 さすがは私立校だからか、敷地の外からでも立派な校舎が見える。俺の通っていた中学校の校舎が結構古い感じだったせいか、中学校とは思えなくなってくる。城崎学院くらいに凄いんじゃないか、ここ。

 堤先輩は正門横の警備室にいる男性と話している。ああ、関係者以外が入るから色々と手続きが必要なのか。

「篤人君、まどかちゃん、入っていいって」

 堤先輩がそう言って手招きをしてくるので、俺とまどかは彼女の側まで行く。

「これを首から提げなさいって言われたわ」

 堤先輩から渡されたのは、入校許可証を兼ねた「来校者」と書かれたカード。首から提げられるようになっている。

 俺達はカードを首から提げて、鏡浜東中学校の敷地に足を踏み入れる。

 ここがまどかの母校ってわけか。俺の通っていた中学校と全く違う雰囲気だ。昇降口と思われる入り口のすぐ近くに小さな噴水まであるぞ。

「凄い中学校に通ってたんだな、まどかって」

「卒業した今でも凄いって思います。鏡浜市内に住んでいるなら授業料が安くなるっていう制度がなければ、きっと近くの公立中学校に通っていたと思います」

 地元割引までやっているのにここまで豪華な学校を作れるとは。きっと、入学を希望する人が毎年多いからできることなのだろう。

 周りの様子を見てみると、既に放課後なのかグラウンドで部活動が行われている。ジャージを着た男子生徒達が二列縦隊になってランニングをしている。

「今日はここもオリエンテーション期間らしくて、午前中で終わったらしいわ」

「だから部活とかもやってるんだな……」

 そして、現に校舎から出てきた女子生徒たちとすれ違ったし。どこの学校もまだ授業は開始されていないということか。

 俺達は職員と来客用の玄関から校舎に入った。

 校舎の中も放課後となっているからか、何人かの生徒が廊下にいた。城崎学院の制服が物珍しいのか、ちらちらとこちらを見る生徒も。

「堤先輩、校舎に入れましたけどこれからどこに行くんですか?」

「事件現場よ」

「じ、事件現場って……」

 何を言っているんだ、この人は。職員室とかに行って聞き込みをするんじゃないのか。

「あの……俺達はAGCのメンバーですけど、元はただの高校生なんですよ? 事件から一週間経ったとしても事件現場に足を踏み入れることは無理だと思いますが」

「篤人さんの言う通りです」

 まどかも同じことを思ってくれていたか。

 おそらく、俺達が現場に入ろうとしても警官に止められるだろう。高校生に対して現場へ通してくれる警官がいるか?

「現場での捜査はちゃんと許可を取ってあるわよ。許可を取ってなくても鏡浜東中学校の地域の管轄も城崎学院の地域と同じ鏡浜東警察署だから。そこの警官なら、AGCを知っているはずだわ」

「そんなことが現実にあるのか……」

「まあ、私の父が法曹界の権威っていうのもあるけど、それを抜きにしてもちゃんとAGCの実績を認めてくれた上で許可が下りているの」

 AGCは普通ではない団体だとは思っていたけどここまでとは。警察関係の人から捜査の許可を貰えるなんて凄いことじゃないか。

 そういえば、堤先輩はAGCの創設者だったよな。ということはAGCにおける全ての実績はこの人が積み重ねたことになる。父親も法曹界の権威って言っているし、実は堤先輩って名実共に物凄い人なんじゃないか?

「私を見る目つきが変わったってことは、ようやく本当のことが理解できたみたいね」

 堤先輩は微笑みながら言った。

「まあ、事件現場で捜査することもあってこっちのチームに入ったんだけどね。AGCって言っても、現場は私がいないとなかなか入れてくれないだろうし」

 そんな中、堤先輩へ簡単に許可を出してしまうということは、これまでに彼女が警察に貢献してきたからだろう。

「さっそく、事件現場に行きましょう。その後に聞き込み捜査をするわよ」

 まさか、本当に現場で捜査するとは思っていなかった。

 でも、やっと本格的に捜査が始まる感じがした。ななみさんが無実であれば、それを証明する何かが眠っているに違いない。

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