第8話『篤人の決意』
校舎内を三分ほど走り回り、理科実験室のフロアを探しているとき、エレベータホール近くのベンチに座るまどかを見つける。
「まどかっ!」
「あ、篤人さん……」
俺のことを見るまどかの目は充血していた。目の周りも赤くなっており、今さっきまで泣いていたことが分かる。
「良かった、見つけられて」
「……戻るのでしたら、篤人さんだけが戻ってください。私にはとても……」
「早退してきた」
「ど、どうして……」
まどかは小さく首を横に振る。
さっきだって、俺は本心を言葉に乗せられたじゃないか。落ち着け、俺のやろうとしていることは絶対に間違ってない。
俺は一つ深呼吸をしてから、
「俺はまどかの味方だからだ。俺はまどかと同じように、妹さんが無実だと信じてる。いや、無実であることを俺は証明したいんだ」
まどかにちゃんと聞こえるように、ゆっくりと言った。
だが、まどかは再び首を横に振って、
「私のことなんていいですから。そんな気遣いをしなくていいですから、篤人さんにはななみが無実であると信じてくれればそれで――」
「違う!」
俺は両手でまどかの肩を強く掴む。
「まどかはそんなことを思ってない。気遣ってくれているのはむしろお前の方だ。昨日みたいに俺に頼ろうとしてくれ。もう断らないから……」
「で、でも……」
「俺が昨日と同じだって言いたいのか? じゃあ、今、何色のオーラが見えるんだっ! ななみさんの無実を証明したいっていう気持ちに偽りはない! 俺から何色のオーラが出ているのか言ってみてくれ!」
そう、まどかには人の気持ちがオーラとして観られる能力がある。俺の気持ちに偽りがなければ、必ずあの色のオーラが出るはずだ。
「……白いオーラです。特別な正義感を持つ人だけに現れる光沢まで見えます」
白いだけでなく光沢まで見えているのか。とにかく、これで俺の気持ちに偽りがないことをまどかに証明できた気がする。
まどかの目からは再び涙が浮かび始める。やがて、その涙は目から溢れ出し、頬に一筋の軌道を作る。
「篤人さん……お願いします。一緒に捜査をしてくれませんか? ななみの無実を証明してくれませんか?」
昨日と同じまどかからの願い。
でも、昨日と今とではその願い重さがとてつもなく違うように聞こえた。こんな大切な願いを断った昨日の俺が憎く思えるほどだった。
俺は決意表明も込めて、まどかに言う。
「もちろんだ。妹さんを助ける。事件の真相を明らかにする。まどかのことは俺が守ってやる。まどかが俺を必要とするなら、ずっとお前の側にいる。だから、今……思い切り泣くんだ。妹さんの事件で泣くのはこれで最後にしよう」
そうだ、これこそ俺の本心の全てだ。
俺がそう言うと、まどかは俺の胸の中に飛び込んできて泣き始めた。制服を思い切り掴んで、俺の言う通り声を出して思いきり泣いた。
俺は何も言わずに、まどかのことを強く抱きしめる。冷たい言葉の雨に当たった後のまどかには人の温もりが必要だと思って。
「怖かった……。黒いオーラで何も見えなくなって。オーラが悪魔のように見えてしまって本当に怖かった……」
「……そうか」
だから、教室に入ったときに一瞬、まどかは怯えていたのか。黒いオーラが出ている原因がななみさんだから、まどかは本当に辛い思いをしてきたんだ。
「……いいものを見させてもらったわ」
その言葉に反応し、俺は声の主の方へ顔を向ける。そこには腕を組んで立っている堤先輩の姿があった。
「まどかちゃんに対するさっきの言葉が答えだとは思っているけど、正式に訊くわよ。成瀬篤人君。あなたはAGCに入会し、私達と一緒にまどかちゃんの妹さんが犯人だと疑われている殺人事件の真実を見つけてくれませんか?」
堤先輩は真面目な表情をして俺にそう言ってきた。
俺の答えはもちろん、さっきまどかに言った通りだ。
「分かりました。AGCに入って、一緒に真実を見つけたいと思います」
俺がそう答えると、堤先輩はにっこりと笑って、
「AGCにようこそ。この後すぐに本部で捜査会議を行うわ。紗希ちゃんと香織ちゃんも待っているから、一緒に行きましょう。二人のことはあなた達の担任にちゃんと言っておいたから、大丈夫よ」
「すみません、色々と迷惑をかけて……」
「別にいいわよ。元々、私達の方からお願いしたことなんだから。でも、あなたの入会は私達にとって大きなことだと思っているわ」
まどかを助けたことは大きいけれど、昨日のあの騒動がそこまで俺に対する期待を上げさせることだったのか? 正直、そこは謎である。
「すみません、まどかが泣き止んでからでいいですか?」
「……そうね」
こうして俺はAGCに入会することになった。
ただし、それは一つの通過点に過ぎない。俺の……いや、AGCの目的はまどかの妹さんが逮捕された事件の真実を見つけることだ。
まどかが泣き止むと俺達はAGC本部へと歩き出したのだった。
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