第4話 盗賊、生活を始める
「申し訳ございませんでしたッ!」
そう言って、俺は土下座をした。多分、顔が赤くなっている。
そんな俺の右腕には、強く包帯が何重にも巻かれていた。
「う、うん。いいよ、君が辛かったのはわかるから。」
「あ、ありがとう………。あと、できれば忘れてほしいぜ………。」
あの後、俺はそのまま彼女に抱きつきながら寝てしまったのである。
起きた時にはベッドの上で、しかも右腕に包帯が巻かれていた。
丁度そこに彼女がいたので土下座をした次第である。
「そうだ、自己紹介がまだだったね。
私はリーシア。この森で生まれて、この森で暮らしてるの」
リーシア、という異国らしい名前が日本語で放たれたことに俺はびっくりした。
だが、そもそもこんな金髪の少女が日本語を話してる時点で色々とおかしい、と思い直す。
「俺はフナコシ・ツカサ。
信じられないかもしれないけど、おそらく違う世界から来た」
これを聞いたリーシアがあたふたとし始めた。
「え!?家名!?貴族様!?
というか、違う世界ってどういうこと!?」
「あっ、ちょっと待ってくれ。とりあえず俺は貴族じゃない。
俺はただのツカサ、そう覚えてほしい」
「う、うん………」
どうやらこの世界で苗字があることは貴族であることの証らしい、と俺は当たりをつける。
ドラ○エとかにありがちな中世ヨーロッパの世界なのかもしれない。
というか、リーシアの服装から大体予想はついていた。
彼女の着ている服は、麻のもの。
綿すら使っていないので、恐らくここは中世ヨーロッパレベルの文化しかないだろう。
「で、さっきの違う世界から来た話って言うのを聞かせてよ」
「そうだ、それが今一番話したいことなんだ。
俺は、別の世界で学生をしていたんだ。学生ってわかるか?」
「町の学校ってところに行く人でしょ?」
「よし、学校はあるんだな。」
文化レベルが中世ヨーロッパよりは少し高いようで安心した。
「で、学校の帰り道少し遊んで家に帰ろうとしたら突然あの野原にいた」
「その記憶はないの?」
「それがないんだ。
で、すこしばかりこの世界の話、というか常識を教えてほしいんだ」
「そ、そんなこと言われても、私何を説明すれば………。
私もこんな森に住んでるような人なんだよ?」
「こっちの世界ではステータスウィンドウすらないんだ」
「え!?ステータスウィンドウがないの!?」
心底驚いたような目で見てくる。
恐らく、ステータスの存在はこの世界では大きい。
少なくとも、『スキル』の効果は凄かった。『潜伏』に至ってはLv1であの効力である。
それより、ステータスウィンドウで通じるんだな。どういう翻訳能力なんだ。
「そうなんだよ。マジで何もわかんねえ、って訳だ」
「それじゃ、こうしようよ。
ツカサ君が質問して、私が答える」
「そうだな………じゃ、『ステータスウィンドウ』について一つ一つ説明がほしい」
「上から説明していこうかな。まず名前なんだけど、基本的には…………」
ステータスウィンドウについてまとめると、こうなる。
名前:文字通り名前を表す。貴族は家名がある。ただし、本人の意志で名前の表示は変えられるらしい。
性別:これも同じく。ただし表示は考えられない。
種族:この世界には幾つもの種族があるらしく、だからこそこの項目があるようだ。俺は最も一般的な『人族』である。寧ろそうじゃなかったら何なんだと言いたい。
職業:これは元の世界じゃあまりなかった概念だから少しややこしい。
この世界では、職業というのは元の世界の何倍も重要な意味を持つ。
職業を定めることにより、俺たちはそれにあった恩恵、『ステータス補正』と『スキル素養』が手に入る。
『ステータス補正』というのは、その職業にあったステータスが上がる、というものだ。試しに俺のステータスを見てみる。
HP 8/15 MP 0/0
STR 5 VIT 4 MAT 0 MND 8 DEX 4(+2) AGI 7(+3)
この()の中身が補正分、というわけだ。
俺の職業はなぜか盗賊なのでDEXとAGIが上がっている。
そして、『スキル素養』とは特定のスキルを取得するのが楽になるらしい。
スキルについては後で説明しようと思う。
因みに、俺の職業『盗賊』は中々レアらしい。犯罪者の職業としては『盗賊』の他に『追い剥ぎ』『山賊』など色々あるのだが、『盗賊』はとりわけまっとうな仕事をするものらしい。
例えば、この世界にあるらしい『迷宮』での斥候などをする職業。それが『盗賊』だ。
だが、態々『迷宮』を攻略するのに『盗賊』をやりたがる人はいない。覚えやすいスキルに派手なものがないのと、『ステータス補正』が少しばかり極端であるからだそうだ。
それと、転職は街にある教会でできるらしい。どういう宗教なのか非常に気になるところだ。
武器:そのままだ。その時携帯している武器が表示される。
防具:防具というよりは服装、というのが妥当だろう。こちらもその時来ているものが表示される。
そして大事なのが『スキル』。
『スキル』は、現代日本では特技で収まっていたようなものを奇跡に変えるようなシロモノだ。
俺の『潜伏』も気配を極端に消すものらしい。
この『スキル』はどうやら努力して一定の水準に達すると得ることができるらしい。
ここで、『スキル素養』が出てくる。
『スキル素養』があると、その『スキル』が得られやすくなり、尚且つレベルが上がりやすくなるそうだ。
因みに、『スキル』にもレベルがあって、それは経験値性らしい。つまり、鍛えれば鍛えるほど『スキル』の精度が上がっていく。
それと、『スキル』は念じるとその詳細が表示されることがわかった。
俺のスキルを見ると、こうなる。
潜伏
気配を薄くするスキル。戦闘時には効果が落ちる。
異邦人
別の世界から来た者の証。元の世界での生活を再現するスキル。
効果 MP、MATの大幅減少 翻訳機能
翻訳機能は『異邦人』のお陰だった、というわけだ。
これがなければ俺は今頃不審者としてリーシアに気味悪がられてただろう。
いや今も不審者だが。やってることは。
そして、次に『ステータス』。
これは8個の項目に分かれている。俺のステータスは、こうだ。
HP 8/15 MP 0/0
STR 5 VIT 4 MAT 0 MND 8 DEX 4(+2) AGI 7(+3)
HPはそのまんま体力で、これがゼロになるのが死、というわけだ。
MPは魔力の値らしい。というか、この世界には魔法がある。どうやら俺は使えないらしいが。
あとはSTRは筋力、VITは耐久力、MATは魔法攻撃力、MNDは精神力、DEXは器用さ、AGIは素早さとなっている。
こう見ると、俺はどうやら『ステータス補正』もあってAGIが高いようだ。
逃げ足が早くなるのは生き残りやすくていい。さっきは死にかけたが。
因みに、『ステータス』も修練で上がっていく。筋トレしたらSTRが上がる、的な感じだ。
最後に、『ステータスウィンドウ』は見せようと思えば見せることができるらしい。ただし、勝手に見ることはできない。
俺の突拍子もない話をリーシアが信じてくれたのは間違いなく『ステータスウィンドウ』のお陰だろう。あまりにも少ないスキルと『異邦人』が特に決めてだったと思う。
「ところでツカサ君。これからどうするつもり?」
『ステータスウィンドウ』の説明が終わったところで、リーシアが尋ねてきた。
「正直なところ、わからない。できれば帰りたいところなんだが、そうもいかなそうだし」
「じゃあ、私と少し暮らしてほしいんだよ」
「えっ?」
「見ての通り、ここって周りに何もないでしょ?」
「そうだな、確かに何もない」
「私ね、実は色々理由があって3年間一人でここに住んでいるんだ」
そう言って、彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
「まぁ、私の『スキル』のおかげでこの子たちと会話ができるからそこまで寂しくはないんだけど」
彼女は、そう言いながらジン――――俺をさっき殺そうとした犬――――を撫でる。
ジンは、気持ちよさそうにリーシアに寄り添っていた。
おい、お前さっき俺を殺そうとしてたの忘れてねえからな。
「でもやっぱり寂しいなって………」
「わかった」
「やっぱり無理だよね……こんな森のなか……え?」
「というかな、ここまでしてもらってそんな頼みも聞けないほど俺は恩知らずじゃないぜ
それに、俺にとっても願ったりかなったりだ。どうせ今街行ってもトラブルしかねえだろうし」
「あ、ありがとう!」
「ちょ、近い!近いって!」
こうして、俺の異世界生活は始まった。
その盗賊は星空を盗む ポケモン好き @haxorus0701
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