第3話 盗賊、少女と出会う。
俺こと、船越司は別段ラノベ等を読むようなタイプではなかったが、ゲームはよくやる方であった。
だからこのステータス自体は何事も無く受け入れることができる。
だが、もう一つの問題が浮上する。
(ここは………恐らく、地球じゃない)
俺は、それを想像して背筋がゾッとするのを感じた。
想像してほしい、もし自分が知らない世界に来てしまった時のことを。
そもそも、この世界に人間がいるかどうかすらわからない。
もしいなければ自分は孤独なまま帰る宛もなくこの世界で過ごすハメとなる。
「ハハ」
喉から乾いた笑い声が出る。
本当に、笑うしかない。そう本心で思った。
だが、諦めるわけにはいかない。
(それでも、人を探さねえと)
まだ人がいないと決まった訳ではない。
だが、いたとしてもその人達がカニバリズムを持つような種族な可能性だってある。
それでも、諦めてはいけない。そう生存本能が言っていた。
だから、俺としての結論はやはり『川を目指す』だった。
見渡す限り草ばかりだが、少し離れたところに高い木がポツンと立っていたのでそれによじ登る。
元々筋肉はある方だったのに加え、何故か体の器用さが上がっていたので割と楽に登れる。
高い木のてっぺんから見渡すとやはり草原ばかり見えたが、自分の右手の方向に川と森があるのが見えた。
(よし、ひとまず安心だ)
内心ガッツポーズをし、スルスルと木から降りる。
体力が切れては元も子もない。太陽もまだ頭上にあるので、俺は歩いて行くことにした。
歩き始めて数十分後、俺はついに視界に川を捉えることができた。
現代日本ではもう見れそうにない、遠くから見ても清流であることがわかるある程度大きな川である。
豚の後ろ姿くらいは見えるが、熊のような危険な生物が見えるわけでもない。
俺は喉が渇いていたのもあり、歩調を速めて川へと向かう。
この時点で、俺は一つ思い違いをしていたのだ。
確かにここが『地球であれば』大丈夫だっただろう。
だが、『ここは地球ではない』。
そのことを、今俺は眼前にいる豚の
つまり、思い違いというのは危険な生物が多いため、それらが川に水を飲みに来る可能性は高い、ということである。
(うっそだろ………?)
その豚は、巨大すぎる牙を持っていた。
そして、豚は不意に後ろ足でザッ、ザッと地面を蹴り始める。
「ッ!」
間一髪だった。
豚の化物は、一瞬で掠っただけの船越の左の袖を消し飛ばしす。
右に避けていなかったら、体が軽くなっていなければどうなっていたか。
俺はまた背筋に冷たいものが走るのを感じた。
(とりあえず、こんな平原じゃまずい)
何も障害物がないため、突進攻撃に対処する術がないのだ。
近くに森があるのを見た俺は、勢い余ってコケた豚の化物から逃げるように森へと向かう。
幸い、豚の化物は立ち上がるのに四苦八苦していた。
だが、ここでまた一つ、俺は重大なことを忘れていた。
「クェェェェェェェ!!!!!」
「タカ…?いや、森にタカなんかいねえはず……なんにせよ、マズい!」
森にたどり着いた俺を待ち受けたのは、大きすぎる鉤爪を持った鷹の化物。
逃げようと背を向ける俺に、鷹は容赦なく襲いかかる。
だが、いくら体が軽くなったとはいえ相手は鷹だ。スピードが違う。
(避けれない!)
だがギリギリのところで右腕を盾にガードに成功した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
右腕が、抉れる。
脳が痛みで真っ白になりかける。
だが、咄嗟の判断で茂みに潜り、難を逃れた。
――――――――――ザッ、ザッ
そんな俺の後ろから、再び恐怖の音が聞こえた。
あの豚、いやイノシシの化物である。
「あ、あああああ」
泣きっ面に蜂の状況に、俺はほぼ打ちのめされる。
だが、俺は咄嗟に『スキル』を使用することを思いついた。
(『潜伏』!)
―――――――――ザッ…………
「ハァ………ハァ……」
音が途切れる。
化け物たちが急俺をに見失ったように回りをキョロキョロし始めた。
(あ……あぶねえ)
『潜伏』を思いついていなければ今頃は鷹の化物に美味しくいただかれていただろう。
どういう原理かはわからないが、助かった。
俺は、近くにある樹に寄りかかる。
右腕はもうすこしで骨が見えるところまで抉れていた。
今もドクドクと血を流し、学ランを赤くしている。
(くそ、これどうすんだよ………)
水が飲めなかったこともあり、俺の喉はどうしようもないほど乾いていた。
とりあえず、呼吸だけでも整えようと上を見上げる。
そして、樹の上にいた目が赤い猿と目が合った。
(あ)
「キキー!キキー!」
猿が騒ぎ始める。
それを聞いた赤黒い毛の犬が、こちらを見た。
「グルルルルルル………」
「あ、あはははははは………」
終わった、と俺は力なく笑った。
流石にこの状況はどうしようもない。
血が出すぎて頭がボーッとする上、目の前には殺気を放ちまくる犬の化物ときた。
ここからさらに先ほどの二体も合流するだろう。
俺の脳には自分の死のビジョンがハッキリと映っていた。
そして、ついに犬の化物の口が開かれる。
俺は、それを見るまいと目をつぶって――――――――
「ジン!何やってるの!」
(あれ………?)
痛みが、こない。
いや、右腕は先程と同じように痛みを発しているが。
目を開けると、そこには犬の化物を抑える金髪の少女がいた。
やがて、犬の化物がおとなしくなる。
金髪の少女は俺に近づき、座る司と同じ高さまで腰を落とした。
「大丈夫?」
俺は、口をパクパクさせていた。
絶対に死ぬと思っていた状況から助かり、しかも目の前には最大の懸念であった人がいる。
急に俺を安心と、今まで興奮で抑制されていた激痛が襲う。
頭のなかで、糸が切れるような感じがした。
「うぇぇ…………」
「ひぃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
気がつけば俺は、少女に抱きつき泣いていた。
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