第2話 盗賊、異世界に降り立つ

空には雲ひとつなく、風は優しく吹き、草木は静かに揺れる。

ただ水平線ばかりが続くような草原。

小鳥の鳴き声が響き、ウサギが駆けまわる。人間が生まれていなければたくさんあったであろう場所。

その中心に、一人の青年、いや一人の少年が仰向けに倒れていた。

身長は170cmほど。全体的にほっそりしているが、その体にはしっかり筋肉があることが見てとれた。


風がそんな少年の頬を軽く撫でると、彼の目が薄っすらと開く。

途端、視界に太陽の光が一杯に広がったことに驚き、彼は跳ね起きた。

そして、風でボサボサになった髪を弄りながら一言つぶやく。


「うぇ………。おいおい、どこだよここは」


彼の名は船越司ふなこしつかさ

とある高校に在学中の高校一年生である。最も、後1ヶ月ほどで二年生となるところではあったが。

彼の姿も、黒いブレザーと灰色のズボンと一般的な学生姿である。

そんな彼を一言で表すのなら、『なんとも言えない奴』。

表せてないかもしれないが、実際そうなのだ。

しっかりと勉強しているが、成績はせいぜい上の下。体にしっかりと筋肉がついてはいるが、運動音痴なため運動はそこまで得意でもない。顔はいいがコミュニケーション能力が別段高い方ではない。

寧ろ高校では親友のヒロと一緒に接点のない人からは『あまり近寄らないほうが良い奴』と思われていた。

だが、だからといって友人が少ないわけでもなかった。もしかすると少し多い方だったもしれない。

あえて特徴を挙げれば、常に飄々としていることか。それが原因で若干薄気味悪さを出していたとも言える。


そんな、なんとも言えない人間、船越司は草木の水分にズボンを湿らせながら、右手を開いたり閉じたりして、どこか怪我をしていないか確かめる。


「うん、なんも怪我はないな。でもマジでどこだここ」


司は、自分の記憶を思い起こしてみる。

今日は学校から帰るとすぐに何人かを集めて、突然失踪したヒロがよく遊びに行ってた場所に捜索がてら遊びに行ったのだ。

ヒロとは彼の親友で、こちらはなんでも上位に入るような器用な男である。

だが、遊び好きであり、授業などは居眠り常習犯だったりと不真面目なため教師からは敬遠されることが多い。逆に同年代ならば男女問わず友人がいるような男だ。

捜索した場所は学校の近くの釣り堀。適当そうなおっちゃんが経営しているところで、確かにあの男ならヒロを匿っていてもおかしくないなと思い訪ねたが、やはりどこにもいなかったのでそのままみんなで少し釣りをしてラーメンを食って会計を済ませた。

食べたのは醤油ラーメンであったが、因みに司は断然味噌派である。

だが、記憶がそこで途切れている。

会計を済ませた後の記憶が無いのだ。

何をどうやったらこんな草原に来たのか検討もつかない。


(とりあえず、電話でかーちゃんに連絡するか)


そう思い携帯をポケットから出す。

出したのは一般的なリンゴのスマホ。それを司はなれた手つきで操作する。

そして、画面上部を見て愕然とした。


(『圏外』、か)


「マジかよ………。参ったなぁ」


この『圏外』の文字は、同時に『助けを待つ』という手段が封じられた、ということも意味している。

だから、とりあえず彼は川まで歩くことに決めた。

よくある、『川に沿って歩けば街にたどり着く』を実践しようとしたのだ。

山で遭難した時に使われる手法だが、この状況でも2分の1の確率で海か山に着く。

どちらにしても、村くらいはありそうだと彼は思ったのだ

そして、立ち上がろうとした彼は、自らの体の異変に気づいた。

体が、少しばかり軽い。

些細な事かもしれないが、これが司に強烈な違和感を与えた。

試しにジャンプしたり軽くジョギングをしてみたが、今まで運動する際に感じていたしこり、のようなものが消えていた。


(何が起こっている………?)


肩を回したり、拳を突き出してみたり。

そして、じっくりと手のひらを見ていると、不意に信じられない・・・・ことが起きた。


静かに、彼の注視していた手のひらから青い画面が飛び出したのだ。


ステータス

名前 ツカサ・フナコシ 

性別 男

種族 人族

職業 盗賊

武器 なし

防具 異界の服

スキル 『潜伏』Lv1(0/10) 『異邦人』Lv1(0/10000)


HP 15/15 MP 0/0

STR 5 VIT 4 MAT 0 MND 8 DEX 4(+2) AGI 7(+3)



「まさか……ここ、そもそも地球じゃないなんてことはないよな?」


常に飄々としている彼には珍しく、声には不安が含まれていた。

が、その声も風は優しく吹き流した。

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