第3話 TUTORIAL_3
朝、目が覚めるいつもと同じ日常…ではなく、違う日常の始まりであった。
私にとって毎日は苦痛だった。特に朝は憂鬱だった。
特に昼は変な眠気と意識にもやが掛かっていて全てがめんどくさかった。
夜は夜で私の中に何かがいる違和感が眠りの邪魔をし眠いのに眠れない苦痛に耐えていた。
昔のある日を境に記憶は思い出せなくなった、むりに思い出そうとすると頭が割れるように痛く、生活に支障のない程度で記憶の欠損は済んでいたと思う。
そんな眠気や倦怠感が付きまとう毎日であった。
私は暗く、陰鬱な雰囲気であったのだろう。大きな声は出せず、人と話すことは難しくルーフとリンですら小声で何とか話すぐらいであった。
そんないつもの毎日は、唐突に終わった、終わってしまったのだろう。
爽快な目覚めだった。
変な眠気はなく、意識もしっかりしている。
まぶたは重くなく、変に暗くなる気持ちもなかった。
いや、さすがに最近あったことや髪を切られたことを思い出すと少し悲しくはなったが、それでも私は自分の変化に自分で驚いていた。
きっときょとん顔で朝を迎えたんだろう。
「おはよう、めずらしいね。今日は一人でおきれたの?」
「おはよう、いつもありがとう。今日はなんかすっきりしているんだ」
いつもがんばって私を起こしてくれる寮のルームメイトのサラちゃんに挨拶をかえしいつものお礼を返すとすごい表情で驚かれる。
そりゃたしかにいつも朝はかならず起こしてもらったり、へんな眠気によるちょっとしたたくさんの失敗をフォローしてもらっていた・・・、うーんどう考えても今までの私が悪かった気がする。
驚かれるのもしょうがない。
こんな簡単な対応すらいつもは億劫であいまいだった気がする。
今度は私ではなく、サラちゃんがきょとんとする番であっただろう。
ふと、いつもきになっていた私の中に何かがいる違和感が、いつものようにいやな感じではなくいることが安心するような見守ってくれているそんな感じになっていた。
「なんかね、ずっと寝てたみたいだけどようやく起きれた気がするの」
私たちは、今までのような淡々とした会話ではなく、普通のルームメイトとしての会話をようやく行えたのだと思う。
あまりに普通の会話というのが楽しくて、サラちゃんと話し込みすぎて結局いつもとおなじ時間ぎりぎりに登校することとなってしまった。
今は学園生活の1年生の2学期である、1学期は基本的な授業と期末に精霊との契約儀式があった。
私は幼少の頃にすでに契約を終えていたらしく、水の精霊の欠片という非常に弱く精霊?とはいえないレベルの守護精霊をもっている様だ。
攻撃に使いづらい水の属性の上、欠片、そう精霊の欠片という、精霊のなりそこない、コップ一杯の水を操れるのが関の山と呼ばれる程度の力しか持たない精霊がついているとの事。
ならば学期末に契約を解除か、他の人工精霊と重複契約を行おうとしたが共に無理であった。
魔力量から複数、最低3つは可能でしょうといわれていたのにだ。
魔法は生徒の半数がいまでは使えるようになっており、ほぼ全員が精霊をよびだし魔法のサポートのために自分の魂へ刻み組み込んでいる。
『精霊』それはこの学園では魔法学科、騎士学科、官僚学科や魔道具学科にかかわらず基本的な魔法サポートとして1学期末に追加や新規の契約の儀式を行う。
ほぼ全員というのは、どうしても例外、家のしきたりなどで実家で行っているものや私のように適合がうまくいかず精霊を降ろし契約する事ができないものがいる。
基本的に精霊と契約できなかった人は、官僚学科一択となるなのだが、私は精霊の欠片とはいえ契約できており魔力量が魔術学科の平均より多い体質のため残留となっている。
今日の試験しだいでは危うさがあるが、なんとかなるだろう。そんな楽観的な気持ちがなぜか心にあった。
朝、リンとルーフに元気よく
「おっはよー!」
と挨拶をする、ぎょっとした周りの反応はあえて無視する。
「おはよう、なんか昔みたいなあいさつでなんかいいね!」
感想付きの返事をもらう。いやいままでほんとごめんね。
授業が始まる。
いつもと代わり映えのない座学、でも私は非常に忙しく高揚していた。
授業の内容はうろ覚えであったので、テキストをはじめから読み直しているのだがスラスラと頭に入っていくのである。
歴史、戦争で使われた地形と魔法と陣形、必要な数学と魔術理論。
テキストは科目毎に分かれておらず、すべてが1冊にまとめられていた。
テキストはいままで学年毎に1冊づつであった。それが普通であったのになんでそんなことを思ったのかはわからなかった。
「さて、過去の戦いにあった地形によるメリットとデメリットはこれくらいでよいじゃろう。要は高い所だと遮蔽物をつかいやすくなり魔法が使いやすくなるという事だ。高所というだけで強みとなる。午前中の授業はこれまでじゃが、今日の午後からは、レルト先生が今期の魔法テストを行うとのことじゃ。食事を終えたら着替えてグラウンドにいくように」
ようやく今行っている座学の内容まで追いついたところで、座学のおじいちゃん先生、グランフリード先生の話が終わる。
午後からはクラスメイトとの戦闘実技と的となる人形をつかった魔法実習のテスト、攻性魔法をつかうテストがある。
「リン、今日は食堂で麺類でもたべない?」
「麺類は昨日もたべなかったか?野菜もとれるものにしたほうがいいぞ?」
私の友人、いや保護者といったほうがいいかもしれない。クレアとルーフがやってきた。
「そうだね、今日も麺類にしようか、でもサラダも頼もうよ」
「んー、なんか今日は調子良さそうんね、元気いいその感じがいいよやっぱり!」
クレアはこちらをみて、すっごい優しい笑顔になっていた。ちょっとびっくり、そんなに普通に挨拶や返事に対して喜ばなくていいのに。
いやちがう、どんだけ自分が心配をかけていたのかがわかる。
ルーフは、サラと同じように3秒ほど固まっていた。
「あはは、なんか今までごめんね、うんたぶんもう大丈夫。ほら食堂にいこう」
涙ぐんでいるルーフとうきうきとした気持ちを隠さないクレア達と私はひさしぶりに楽しいお昼をすごせそうだ。
服を着替えて午後の授業へと向かう。
「それでは皆、番号順に5列に並べ。」
レルト先生の声はよく通る。私も並んでいると、ブランシュがルーフとクレアに絡んでいるのが見えた。
きっと今回は俺が勝つとか、今回こそ俺がかつ、でも手をぬくなよよろしくなっとかいういつものような声が聞こえる。
ちなみに魔法実技の順位はクレア、ブランシュ、ルーフでの順で戦闘実技はルーフ、ブランシュ、クレアそれでもって座学はルーフ、クレア、ブランシュとブランシュはクラスで1位はとれていないのだ。
ブランシュ=エーデルシュタット、彼の父は宰相をやっていると話を聞いたことがある。そんな父のプレッシャーなどを感じさせない気さくな性格な彼であったが、さすが
にずっと全分野で1位がとれず2位になっていると最近は1位というもにこだわっている印象があった。1年の半ばになって未だとれずにさすがにくやしいんだろう。
私もこれからそのような気持ちになることがあるのかな。
本来、あの二人のそばには彼のようなようなカタチでいるのがよいのだろう。ただ、幼馴染っということでそばにいた自分が少し悲しくなった。
チクリと心が痛む、今の私は幼馴染とは分かっているけど、その記憶はない。
精進、そう精進あるのみだ。今がだめなら、がんばればいいんだきっと。
戦闘実技がはじまる。私はいつものように槍を選ぼうと思ったが、なぜか手には木剣を手に取っていた。不思議に木剣をみるが、なぜか手になじんだ。
「ふむ、この間は勝てた事で武器をかえるのか?」
マイグリッテ=メッツアラこの国一番の貴族の次女であり、わたしの事をたぶんあまり良く思っていない人だ。
以前、無様な真似を私の前でするなといい、それに助長した取り巻きが私の髪を切った原因の人でもある。
そんな彼女には二人の取り巻きがいる。
「いいえ、今日はこちらのほうがなじむ気がして」
「慣れた武器で戦わないの?、とろい貴方がいきなり武器をかえて何様かしら」
「そうよ、どうせ這い蹲るのだから着替えはもってきたのかしら」
「よせ、今日は後から試験もある。怪我はあまりさせるつもりは無いが、前回の雪辱戦として今回は全力ではいかせてもらう。」
そうえいば、取り巻きの名前は何だったっけ?最初のホームルームで紹介があったきがするが。
カルージュとローディット、だれかに教えてもらったように頭に思い浮かぶ。
私の相手は、前回とおなじマイグリッテのようだ。前回なぜか1撃だけ攻撃をよけて当てることが出来たのだった。
相手も同じ木剣、開始の合図で踏み込んでくる。
変だ、いつもの用に体がすくむ恐怖がない。むしろよく見える。
私は彼女の剣にあわせて打ち合いを続ける、打ち合いやすいように配慮されている剣筋であった。
(右、左、剣を立てて)と心に声がイメージが浮かぶ。
今までは気づかなかったが、もしかして彼女は優しいのではないか?打ち合いは教科書どおりといわれるぐらい丁寧に打ち込んできてくれていた。
すこし打ち合いが楽しくなって来た時だ。
ふと、マイグリッテがまじめな顔になると先ほど以上の剣速でうちこんでくる。
「慣れたか?そろそろいくぞ」
右薙ぎ、(下がりつつ回避して。)
踏み込まれてからの返しの刃による右切り上げがくる、(剣先を剣筋にあわせて、いまうちあげて。)
はっという掛け声で打ち込まれる上段からの唐竹割り、私の体は勝手に左手をはなし、木刀の中央を持つようにし柄側にてに彼女の剣をあてそのまま流しながら、左手を剣の上に添えて剣を回すように上から彼女の肩へ打ち付ける。
前回と違い一本とはならないが前と同じ一撃というこの試合でのポイントが私にはいる。
「本当に変わったな、リン」
マイグリッテは優しそうに笑っていた。
思わず、見とれてしまったのはしょうがないと思うそれほどきれいだった。
ただ、次の瞬間に彼女の姿がぼやけた、彼女の剣先は私の首筋に添えられていたのであった。
こうして私の敗北記録は更新されてしまった。
「マイグリッテ様、大丈夫ですか?この下郎そのまま首をはねられてしまえばよいものを」
「よすんだ、カルージュ。それにそんなことをしたら次のテストが受けれなくなるぞ」
「ふふん、そういえばそうね。次の貴方の無様なところがみなに見れなくなってしまいますものね」
すれ違い様に、マイグリッテから「放課後教室に」っと小声で話しかけられる。
もしかして今の一撃の報復を行うのだろうか?心配になるが先ほどの笑顔はそうではなかったと思いたい。
「ふっふっふ見ていたわよリン、ついに私の修行の成果が出たわね」
「おおーついにやったな。すごかったなリン。皆して今の打ち合いをみていたよ」
「あ、ありがとう。なんか今日からだが面白いように動いて」
それに頭もすっきりしていていてるのもあるだろう。
わいわいと、3人で話しているとすぐに次の魔術のテスト、いや魔術ってなんだ?魔法だよね?
すこし混乱しながら、木剣を直しテストでつかう杖という、魔法道具を先生から1本ずつうけとる。
高級品らしい魔法道具の管理はかなり厳重にされているようで、これで触るのはまだ2回目だ。
最初の3人はクラスの1位から3位、クレア、ブランシュ、ルーフの3人だ。
3人とも契約精霊をよびだし、魔力の制御サポートの元、杖の魔法起動式から火、風、土の魔法弾をうちこみクリアしていた。
「おや、今日はきちんとまだおきているのですね、ほらはやくしなさいよ」
つんとした声を後ろからかけられる、さきほどの取り巻きの一人ローディットだ。
たいがいこういうやっかみなどはクレアかルーフが軽くいなしてくれていたが周りにはいない。
「3人ともすごいなってうらやましく見えていたので、ではがんばってきます」
私の返事、それとも内容がめずらしかったのだろう。むすっとした顔をし彼女は押し黙る。
「次、リン構えて打て」
私にも契約精霊自体ははいるが最弱だ、そもそもいままで召還に応じてくれずサポートを得られたことはない。
基本的に杖は使用者の属性を加えた魔力弾を打つこととなる、むろん術式を理解し変換して属性を変えることは出来る。
私は前回の杖で使えた魔法は、なんとかできたのは無色とよばれるただの魔力弾であった。
出ただけましといった代物であり、威力は軽く相手を押すぐらいのものだ。
ただ今回、なんとなく、本当になんとなくできるきがして。
いいやちがうある確信があり、私は、そう私は今まであった私の中の違和感、いや元違和感、私の中の異なる存在、精霊に声をかけ手伝ってほしいと願ってしまった。
『お願い魔術を手伝って』
ちょっと手伝ってほしい、そんな軽く、でも俺にとっては初めてのお願いをきいて俺は目を覚ました。ずいぶんとながく寝ていたようだ。いつもは彼女の背後にいたのに。
寝ていた分の記憶がいっきにおれに流れ込むと同時に、僕はお願いにうれしくなり反射的にいいよって返事をする。
たとえ相手に聞こえなくてもリンから声をかけられた、その事実がうれしくて。
リンが起きて活動をしていた間、俺はずっと意識だけリンの背後に浮かんでいた様だ、いやこれはくっついていたと言えるかな。はがれても、3m以上離れれようとすれば彼女
のほうにずりずりとついていく。レトロなゲーム、昔のゲームの2Pのようだ。
まぁほかにも分かったこと。
彼女がおきている間で俺は完全にねているわけではなく、周りを見ていてその考えや思いが彼女に確実に影響を与えている。
そして若干だが彼女が何を考えているかもこちらにも伝わってくるようになっていた。
それにしても彼女は何かが違う、いままでの彼女の記憶の彼女とは異なっていた。
これは別人の域ではないだろうか?イメチェンとかそんなものすら生ぬるい。
記憶の記録と今日の行動はあからさまに別人と思われるほど、いや今朝見た夢のように明るい少女の今が正しくそして今までがおかしかったのか?
考えているうちに、リンは杖を向け、杖の起動キーワードをつぶやき魔術を起動させようとしていた。
なんとなくだが、僕は同じように右手を前へむけて、湖の時と同じように周りの水を飛ばすイメージで操作を行う。
瞬間、俺の視界は彼女の視界となる。
自身の右目が彼女の右目となり外をその目で同じように認識する。
体の所有権は俺が主、彼女が副とかではなく違和感なく共有したような感じになる。
今朝とは比べ物にならないほど力が体の中心からわきあがってくるのを感じた。
右目が痛いほど熱くなる、きっとまた目の色が変わってしまっているんだろうな。
時間の流れは非常にゆったりとしたものに変わったのを感じる。
制御できる、ぎりぎりな、大きすぎる力の渦は心臓から右手へそして杖へと流れ込む。
力が大きすぎる故か、右肘から右手の指先にかけてまるで幾何学的な模様を傷として裂傷としてリンの腕に刻む。
力は傷を刻みながら杖へと向かい、血まみれとなった右手の杖は、半ばからひときわ膨らむと粉々に砕けちった。
砕けて落ちていく破片、きらきらと小さな色取り取りの宝石がみえた。
それらをゆっくりと落ちていくのを見つめながら、このままでは杖での魔術は失敗するだろうと理解する。
でも構わない、今の俺には…
『ウォータボール』
魔術ではなく、魔法。
魔法ではなく魔術をつかっているこの授業。
そんな今までの自分の世界ではありえなかったいまこんな世界で
例え場違いな本当の魔法だったとしても彼女の願いを叶える、魔法を再現、顕現させてみせよう。
3mほどの水球を正面に発生させ、瞬時にこぶし大程度に圧縮、回転をはじめさせる。
キィイイイイイイイイイイイイイイイイイ
一気に加速は進み高音が周囲へと響く、的は三つ、残りの左右の二人、いっしょに試験をうけていた左右のクラスメイトや並んでいたクラスメイトは異常をかんじて離れて
いこうとしていた。
大丈夫だって、暴走ではないよ。
ただ単に行けっとそれに念じる。
今のこの右目ですらその軌跡をおうのは難しかった。
一瞬にして人形の頭へと高速で突き刺さった水の残滓により軌跡だけが空中に残っただけだ。
水球は的の人形の頭の内部へ突き刺さった時にそのもとの大きさをまるで思い出したように爆散した、衝撃によって左右に設置されていた的を、いや周囲の空間ごとまとめ
て吹き飛ばす。
余波がこちらまで来た所で私も一緒に後ろに吹き飛ばされた、僕は彼女との共有がとけ背後にもどると彼女はころころと後ろに転がって行った。
ぼやけていた意識が元に戻る。
粉々になった的とまるで破裂した魔法により水と破片が雨のよう降り注ぐ。
唖然とした周囲と一緒に私も口をあけぽかんとしていたが、ずきりとした腕の痛みにと共に私は現実と認識する。
私は右目の熱さが引いていく感覚と共に右腕の傷として残った紋様をみて、きっとうまくいった、これからもっときっとうまくいくんだという思いがあった。
『ごめんね、たぶんやりすぎた』
私の中の精霊の欠片と呼ばれていた存在からだろうか、私はようやくつながったんだという嬉しさとともに、私なのか僕なのか混濁した意識の中まぶたを閉じた。
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