第2話 TUTORIAL_2

第2話 TUTORIAL_2


 この世界には、魔法がある。

 この世界には、ドラゴンがいる、モンスターもいる。

 この世界には、色々なカタチの人々がいる。

 この世界には、妖精と精霊がいる。

 この世界には、勇者と魔王がいた。

 

 そして、いま世界には、勇者と魔王はまだいない。


 静まり返った深夜、まだ夜明けが遠い時間帯に僕は起きた。

少しかび臭い寮のある部屋、2段ベットの下段で寝ている女の子そばで僕はいつのまにか佇んでいた。

僕は、僕は誰だっけ…。僕が、僕として意識を戻したのは偶然なのか必然だったのかはわからない、それでも僕は今目を覚ました。


 意識は浮遊感につつまれ、まるで余りの眠気で寝ぼけているようなきがする、まるで自分の半分がぬけ落ちてしまったようだ。


 僕の名前、名前はそうケイ、僕の名前はケイだ。


 少女の後ろから背後霊の様に、彼女の後ろから世界をみている。

 音や声は不具合があるのか、まだ完全に聞こえない。

 不完全、そんな感想があった。

 この子は魔方陣であった少女なのだろうか、なんとなくあの時より少しだけ身長と髪が伸びているようにみえる。


 ぼーっと只々彼女の日常を見るだけの日々が続く。


 学園に通っているようで、学園生活では仲のよい友達が2人ほどいるようだ

 基本は1人で、たまにその2人組みと一緒の3人で活動している。


 うまく、あたまが動かない、ほとんどなにも覚えれない、耳から聞こえる音も雑音がひどかった。

 ただ、彼女の後ろをついていくだけの日々、そんな毎日が続いていく。


 ある日のことだ、運動場と思わしき場所にて生徒同士が剣や槍に見立てた棒で試合のような事をしていた。


 この子の試合の順番が回ってきた。

 対戦相手の女の子はとても強く、ほかの子と比べ早く鋭く、そしてとても華があった。

 あっという間に、この子は負けてしまった。

 幾日か、授業と素振りと先ほどの試合みたいな毎日が続いていく、この子、僕がくいているこの女の子は誰とでも戦い、そしてすべてにおいてすぐに負けてしまっていた。

 

 ある日の事だ、又あの戦う姿が奇麗な子との試合が始まった。後ろからずっと見ていた僕は、試合内容をみながらここならこう。今ならこうするとシュミレーションを立てる。

後ろから見るだけなのでの観戦モードだ。


 決め手となる相手の剣が肩に当たりそうな所で、半身でよけ間を縫うように剣を振る姿をイメージした時に変化があった。

 僕がある意味憑いてるこの子がなんと僕が考えた通りに避け、対戦相手に一撃をいれることができのだ。

 当てた直後、とてもお互いに驚いた顔がとても印象的であった。今回こちらの子が先にあてたことで勝った事になったようだ。

 不思議に思いつつも結果に満足した僕は、急な眠気に襲われてまた眠りについた。


 この世界は、理不尽さ。

 この世界にとって悲劇なんてのは日常さ。

 この世界は、簡単に言えば中世の欧州のようさ。

 この世界は、科学は発達していない、魔法による代替技術が発達しているのさ。

 この世界は、王権政治、つまり王様が統治しているのさ。

 そして、この世界は、モンスターがいるにもかかわらず人と人の争いは終わらなかった、いや終われなかったんだ。


■データエラーチェックモード開始


「さぁ、リンにはこれを私から上げよう。」


 これは誰の夢なのだろうか?僕はまるで映画の中に吸い込まれ、俯瞰として皆を見ている。

ここは立派なお屋敷の応接間だろうか?映画で見るような調度品が見て取れる、地球儀に似たようなものもあることから世界は一周されているのだろうか。

部屋の中にはたくましいカイゼル髭のおじいちゃん、僕とあったあの子とその子に笑いかけている両親と思われる合計4人がいる。

カイゼル髭はあの子へペンダントを渡していた。ふと自分の視点があの子、少女の中へ移動する。そしてその時の彼女の記憶と思いがまるで流れてくるように僕は理解した。


 郷愁と悔恨、そして恐ろしい程の怒りと絶望と怨み。あまりの恐ろしさに僕はまるで固まったように思考が固まってしまったのだろう。



 ...私は今夢を見ている、だってもういないはずの懐かしい、そうとても懐かしいおじいちゃん。そして笑いかけてくれる両親がいるのだから当然だろう。

 これでこれが夢でなければ私も死んでしまい、死後の国というところにいるのだろう。だってこんなにもいましあわせなのだから。


 私の、私たちであったホエール家は海の船乗りの一族だ、東の帝国グウェランドの東海岸の半分を収める大貴族であった。

 海賊達や進行してくる海の魔物、隣の大陸からの貿易者たちとのトラブルの対応で毎日と騒がしい場所で、喧騒に包まれていたが今思うと充実した毎日を送っていたんだとおもう。


 私たちの一族も例にもれず船乗りが多く、多くの船を率いていた。

 当然荒くれ者が多く、帝国貴族の陰謀うずまく政治には関わらないようにしていたが、年々搾り取られていく利権や度重なる戦争による納税義務に対応できなくなり、暴力的な納税に反対し我が家は潰された。

 両親は殺され、おじいちゃんは死ぬ前に私や他の親戚たちにホエール家の宝具を渡し縁のあったあちこちへ国外へと逃がした。

 私が逃げるときには両親が海をわたった大陸の中央にの国セントラルのスタッカート家と親交がありそちらに頼る事となった。


 夢は連続性を失いながらも記憶に残る強い記憶順に続く、3年前の懐かしい思い出、クレアやルーフ達と出会い友達となって、そして...



 まだ日が上がっていない早朝の寮の寄宿舎で、僕は彼女の中で目を覚ました。

 二段ベッドの上では同じルームメイトのサラが安らかな寝息を立てていた。

 真っ暗な部屋は深夜であろうか、光源はないが右目側だけ夜目が利くようで問題なくすべてが見える。

 右目側だけ異様によくみえる様で少しふらついてしまう。

 手を見つめる、やわらかそうな手。なんとなくわかる。今僕は、彼女の体を動かしているのだろう。


 …さっきみた夢は、僕の夢ではないはずだ。

 夢を見たことによるものか、今の僕にはこの国地図や言語、文字の読み書きなど基本的な知識が自分の中にあった。

 学んだ覚えの無い知識が頭にあるなんて少し違和感があるが、おかしな状況なんていまさらだ、この知識は幸運だと思っておく。

 それに、自分の意識の中、いやどちらかというと意識の横、自分の隣にこの体の本体であろう俺の宿主リン=ホエールが眠っていることがわかる。

 どうやら僕は彼女の別意識、あるいは取り憑いているようなものだろうか。自分の中に自分と彼女がいるという感覚がある。

 所謂、二重人格か並行人格か、彼女がおきてみてからどうなるかが少し楽しみとなった。


 彼女の最近の記憶は自分から好きに見ることが出来るようで、記憶は自分にも共有されているようだ。昨日の授業内容が、チラッとみただけの本の内容が、一度見た事がす


べて一字一句鮮明に思い出すことが出来る。

 ただ、彼女の記憶は色々と抜けがあるのか、それともあまりにもプライベートな事には触れれないのか、僕と出会い手を伸ばしてくれたあの頃の記憶やさっきみた夢の内容


、僕がどのようにあの魔方陣みたいなものででこちらにきたのかは思い出すことが出来なかった。

いやおかしい、なぜだろう、1年以上前の彼女の記憶は読み取れない。あんなに最近の出来事は読み取ることができるのに。


それにしても、逆に僕のこういう記憶や過去の記憶も彼女に共有されるのだろうか?

意識の優先順位はやはり本体はあちらだからあちらにあると思うが。


ふとそんなことを考えているとあることに気づく。


あれ、僕の名前なんだっけ?


心臓が高鳴る、両手で顔をおさえ考える。

そうだ、僕の名前はケイちゃんってよばれていた。僕はケイだ。他の記憶がおもいだせない。僕は、僕は…何者なんだ?


自分の心音の音だけが聞こえる間ができる、おかしなものだとおもう。今この体は僕のものではないはずなのに僕の動揺にたいして体は正直に動くようだ。


しばらく体をだきしめておくと、すこしおちつけた。

そもそも何故こんな状況になったんだ。


今の状況を考えてこの先を考えたいたほうがほうがいい、もう、思い出すことは出来ないかもしれないけれども死ぬのはいやだ。そうだ、死ぬのはいやなんだ。


しにたくない。これからを考えないと。


僕の体、もとい本体であったあの水分たっぷりだったプルプルボディはどうなったんだろうか。

僕の体は彼女に吸い込まれ吸収されたか溶け込んでしまったのか。


まぁそのうち分離する方法などが分かるかもしれない。それに、何のしがらみのないこの世界での生きていく以外の目的も考えて行動したい。

流されること自体は嫌いじゃないけれどそれが原因で死ぬの、消えてしまうのは嫌だからね。


 ところで記憶によるとこの少女、名はリンという。記憶からみるに現在、年は13、セントラルという国のラズエル学園へと通っている。

学園というよりはこの国の兵士養成学校の意味合いが強いようだ。

 生きていくうえで強さは必要だろう、ちょうどいい気がする。


しか~しこの宿主リンの成績を考えみるとちょっとどころかかなり、心配の種がある。

落ちこぼれなのだ、リンは。


 学園生活ではあから様ないじめまで発展してはいない様だが、覇気もなく、成績も態度も落ちこぼれ街道驀進中であるようだ。

 座学も下の下で悪く、実技のほうはなんとダントツのドベという事だ。

 …ついこのあいだマグレで各上の相手に勝つことができて赤点をまぬがれているとの事だ。

 ため息をひとつ吐きだす、でもこんな彼女にもいいところはある。

 入学時での血液での魔力測定では平均より、いやかなり多めの魔力量を検出しており、この学園でも指折りとの事だ。


 なんにせよ彼女への干渉が可能ならば事態を少し良くすることは必要だろう、彼女が死ねば分離が出来ない現在、僕もきっと死ぬ気がする。


 さらに記憶を読み取る。


 学園生活、このラズエル学園とばれるここは、この国セントラルとやばれる軍事国家の兵員養成所だ。

 宿主、「リン」とよばれる彼女は魔術の要素があるため魔術攻撃が可能な魔術学科へと入っている。

 魔力量だけは平均より多めって事だけの彼女は「不完全」魔術攻撃に関しては忌避があるのか、まったく上手くできていない。


 ほかにも学科として魔法はサポートで抑え体術を鍛える騎士学科、主に後方支援や戦術考察や内政を行う官僚学科、魔法道具を作る魔道具学科があるようだ。

 さらに他の学校にも官僚学科や魔法具学科はあるようだ。この文明は科学と魔術によって発展を始めている欧州中世の世界観の国だろうか。


 学園生活ではクラスの中でのは成績クラス1位と3位の幼馴染であるクレアちゃんとルーフ君と仲が良い、この事でいい意味でも悪い意味でもクラスでの扱いが現状維持となって、いじめ自体がエスカレートしないですんでいるのだろう。

 それにこの学校の気風として実力主義のさっぱりとした印象を受けた、うん、いい点はっけこうあるな。


 授業内容では軍事学や歴史、簡単な算数(数学ではない)、そして木剣や槍を用いた戦闘術、そして今日は最後に魔法実学のテストがあるようだ。

 魔法実学では杖と呼ばれる、魔法道具を使用する。道具に仕込まれている魔法回路を用い魔力があれば誰でも使えるものをうまく使えるか試すようだ。

 今までは魔力はあるが魔法を発動できたりできなかったりした為、保留扱いになっていたが、そろそろ学科の変更すら念頭に置かれるだろう。最悪退学という道もあるみたいだ。

 体力なし、学もなし、退学後の縁故もなし。退学すると、じわりと幸先がわるくなるのがわかる。

 最近はルーフとクレアの二人が放課後付きっ切りで学習と訓練に付き合ってもらっているようだったけど、効果はあまり出ていない、というよりリンの態度に問題があるとしか思えない、気力が全くないようにしか見えない。


 ふと違和感が頭をよぎる。『魔法』か、学園で学ぶ魔法とは魔力を循環させ魔力によりつくりあげた回路に魔力を流すことでできる現象・・。でもこれは本当の意味での魔法ではない、授業でおこなっているこれは『魔術』だ。


 なぜだろう、『今の魔術は魔法と呼ばれている事』彼女すら知らない知識が頭によぎった。湖にいた時に俺の中でつぶやかれた声と関係があるのだろうか。

 それに今の俺、彼女を動かしている僕ならば湖でやっていたように水滴の操作などができるのだろうか?何となく出来るってきがするけど、それは魔術では決してない。

 それに、僕の隣の意識、リンがおきている時に僕はどうなっているかも確認しないと、今後やることがいっぱいだ。

しかしまあ本当に僕は、人間ではないんだなーっ人間ではなくなってしまったのかと気軽に考えていた。


 今の自分を見つめなおす、彼女、リンに寄生しているせいなのか、僕という意識のスペックによるものか彼女の記憶から読み取れる座学ではぶっちぎりでトップを取れるきがする。

記憶はなぜか軽く見るだけで覚えることができ、彼女の記憶を鮮明に読み出す事が出来るため聞いた事、見た事をすべて思い出すことができる。完全記憶みたいなものだろうか、さらに電卓が頭に入っているのか計算すら一瞬でできるようだ。


 ふふふ、半分ロボットに改造された気分だ。気分はどうかね?改造人間1号ってか。実際に改造もとい取り憑かれているのは彼女の方だと思うけど。

 実技の戦闘術のほうは今から体を動かすテストをして対策を考えないといけないかもしれない、僕が体を動かす事ができるならばあの程度の実技は何んとななりそうな気がする。さて、とりあえず体の運動スペックの確認をしてみるか。


 二段ベッドから上の住人、ルームメイトのサラを起こさないように僕はするすると抜けでる。

 無手で構え、軽くシャドーボクシング。

ヒュボっと風を切る音が聞こえすごい速さで腕が動く。記憶による記録では彼女にはこんな動きはむりだろう、むしろ記憶はあいまいだが、人間だった頃の僕でもむりと思う。

借物の立場故か、自分の考え以上に切れよく体が動く、さらにこの子の後ろからみていた、意識として自分を後ろからみるような俯瞰視点まで意識のすみで見えるように残っている。


 まったく僕という存在は一体どうなってしまったんだろう。自分の事なのに自分ではないまるでゲームのような感覚だ。


 ある一つの仮説での話を思い出す、長時間、意識を切り離し他の体を動かすようなことがあったら、その人の心は壊れ現実味が薄くなってしまうって奴だ。

 それは僕にとっては今がそうじゃないのだろうか。人間ですらない生物から、今では人に取り憑いている存在。

 人外にもほどがある上、現在は本体ですらない。元々がそういう存在じゃないうえ、現実感を失っていくのは仕方がないかもしれない。

 まぁいいや、なんとかなるだろう。いやいやこのまま流されるのは危険なのかもしれない。死ぬような危険がこの世界にはいっぱあるきがする。


 机の上の手鏡が目に入り自分の顔をみてみる、手鏡は形がおもったより歪で少し見にくいが何とか確認できた。

 髪は金髪、もともとロングヘアだったものはこの間切られてしまった様でショートヘアーになっている。

 問題が一つ浮上、記憶上の彼女、つまりリンの両目は茶色であったはずだ。

 現在の左目は茶色いが、右目が異なる。

 うっすら輝く碧眼。以前の僕の体と同じ青色、薄く発光している。

 僕が表にでている間はこうなるのだろうか?リンが主体でもこのままなのだろうか?

 僕が裏、リンが主となるときには戻ればいいのだけれども。

 この世界にカラーコンタクトというものはないと思うけどもしあるなら手に入れたほうがいいかもしれない。


 さて、見た目はもういい。体の動きを確認したい。

 うずうずとはやる気持ちを抑えずに体を思うように動かしたい衝動に従う。

 なぜか僕は2階の窓を開けると何も考えずにパジャマのまま窓から飛び降りる。

 そんなことは朝飯前、なぜかそんな気持ちが一緒に体が軽く感じる、まるで羽のようだ。


 全能感、ただそれだけが僕のなかにあったのだろう。口からはふふふとかわいらしい笑い声がもれていた。


 屈伸のみで地面に衝撃をそらしながら音もなく着地する、にやにやする顔が抑えれない。気分は忍者か、スーパーマンだ。いいや初代TV版スパイダーマンでもいいだろう。

 跳躍を試みると3,4m程飛ぶことができる、2階の部屋まで飛び移る形でもどれそうだ。

 もうだめだ自然と顔に笑みが広がるのを抑えれない。

 

 記憶の共有のためか宿主、いやこれからはわが主リンか。リンの記憶による最近の鬱屈とした気持ちが少なからず俺にも移っていたのだろう。鬱憤をはらすように全力で寮の横を走ってみる。


「あははっ」


 だめだ笑い声が思わずでる、早いなんてもんじゃない。心地よく風を切る音なんてものじゃないまるで暴風だ。

 ふと寮の曲がり角に人の気配を感じた時に時間の流れが遅くなる。

 白黒に変わった世界の中、僕は寮の壁へ飛びあがると音も無く壁をそのまま駆けのぼり屋上へとあがった。


「ん?何か変な音が聞こえたのだが、誰もいないな?」


 下を覗くと、黒髪のポニーテール姿の少女がジャージでジョギングをしていた。

 太陽はまだあがりきっていないこの時間に熱心な子だと思う、いやそれは僕もおなじか。

 しばらく周囲をキョロキョロとしたあと彼女はそのまま走り去っていった。キラリと首元が光ったので目を凝らすように目に力を入れると意識の別画面にズームされたウィンドウのようにペンダントを認識したのがわかった。


 すこし、右目が熱をもっている、体をつかいすぎたのか、もしくは今のズームの機能のせいなのか。

 まるで、いきなり力を得たヒーローの様だ。僕はわくわくする気持ちをおさえて、そろそろみながおきる時間なので部屋にもどり布団の中へと戻った。

 きっと寝ると意識が元にきりかわるだろう、あまり深く考えずにベッドへと戻る。


 体の主、リンが起きるのが楽しみになった。意思の疎通がとれたらいったい何から話していこうか?

 僕はゆっくりとまぶたを閉じ、意識を閉じるように暗闇の中へと眠りに落としていった。

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