放課後youkaiバスターズ
水瀬潮
第1話 『瑞希』
元は誰かが寄り添ってくれた人がいたのか、それとも
〝その時〝から一人だったのか。
それは
記憶がなかったのだ。何故だか。
「――あ――!」
口を開いて叫んでみる。問題なく声は出た。
やけに女のような、可愛いとすら感じるような声だけ
れど
少なくとも、自分は失語症という訳ではないらしい
し、きちんと声を出す事は出来る。
『可愛い』という言葉が浮かぶから、全ての事柄を
忘れた訳ではない。
では、何を覚えているのかと考え、自分の名は、年
は、と自問する。
「僕の名前は
自問するのも悪い事ではないな、と
ちくりちくりと微かな痛みが襲っては来たが、少なくと
も収穫は十分にあった。
でも、それ以外の事は思い出せない。家も、家族も、友達
も。行くべき場所さえも分からない。
ここにはいたくない。でも、行く場所なんてない。
「……っ」
不安そうな気持ちだけが押し寄せて来て、
と
「――泣いているの?」
唐突に声が聞こえた。耳をくすぐるような、甘い少女の声。
かぁっ、と
「……泣いてない」
「くすくす、嘘はおよしよ。泣いていたじゃないか、ぼうや
は」
ぼうやだって!?
確かに自分は子供かもしれない。でも、明らかに自分より年下
と思われる少女に言われる筋合いなんかない。
泣きそうになった所を見られた気恥ずかしさも手伝って、
ふいと視線をそらすように
それにしても、変な少女だ。長いつやつやとした黒髪と黒々
とした瞳はお人形さんのように愛くるしいが、やけに赤い唇と
笑う仕草がかなり
暗い赤の蝶々の着物を身に
小柄な体と、可愛らしい見た目。なのに妙な色香があり、口調も
およそ子供らしくはない。
「お前、誰だよ……」
さっきまでいたのに!?とぎょっとして周りを見回していると、
ふぅっ、と耳に吐息が吹きかけられた。
「ひゃ……っ!?」
びくん、となり身を
のが見えるのが腹立たしい。
不意打ちと笑われたのとくすぐったさで、
なった。
自分でも、顔が熱を持っているのが分かるのだから相当に赤い
のだろう。
「あたしは
「僕と……会った事あるの……?」
知り合いだったのだろうか。すがりつくように聞いたけれど、
少女――
「いいえ、あたしとあなたは初対面。第一、あなたはあたしの事
を知らないでしょう?」
「……ぅ」
かねたのだ。
でも、引き込まれてしまいそうな瞳を見ていると、話してもよ
さそうな気がした。
「――僕、記憶喪失で何も分からない……。自分の名前とか、言葉
とか大事な事は忘れてないみたいだけど、それ以外は何にも……」
「おや……」
さすがに失言だったと思ったらしく、
無表情が崩れたので、こんな時なのに少し可愛いかも、と
思った。
「だから行くところはない。あんたは、何で僕に会いに来たの?」
「あなたが、凄い
ぴりぴりさせるほどのね」
「はらい……?」
あたしと来ない?と
星空のような綺麗な目に引き込まれたように、
なる。
それほどまでに、彼女は魅力的に見えた。
だから、
だけだった――。
放課後youkaiバスターズ 水瀬潮 @minaseusio
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