第14話
「おかしい」
やはりある日の出来事だ、いつものように柳さんの所からのバイト帰りで適度に疲れてきたところに、玄関前で腕を組み仁王立ちで出待ちしてた。
「何のことか知らんがお前の方がおかしい」
「わたしよりお前の方がおかしい」
さも当たり前のようにお互いを罵り合う。俺らの関係はこんなものだ。
「で、わざわざ俺をディスるために出待ちしてた訳じゃないだろう? 何がおかしいって」
靴を脱いで
「うむ、よく聞いてくれた。お前は前に妖怪がでてからどれくらい日にちがたったかわかるか?」
「くぁー、よっこいしょ。疲れた。日にち? んー、えっと、二週間前くらいだったか?」
前回の妖怪といえば、何をするわけでもない
「もう二十日前だ。お前の日にち感覚がオカシイのはもう諦めるとして、もう二十日も妖怪に遭ってないのだ、ピーク時は一日二体も出遭っていたのだ。これは明らかにおかしいと思わんか?」
「俺らが出遭わなくとも、
「あの人外人間どもには昨日のうちに聞いておいた、そしたらやっぱり最近は出遭っていないようだ」
「あと電話を使って
「お前電話が使えるようになったのか」
「お前ちょいちょいバカにするのやめろよ。まあ、電話は砂糖にしてもらったんだがな」
「まあ、そうだろうな」
ぶっちゃけると小守は電話を掛けることができない。機械音痴なのか、番号が覚えられないのかあるいはその両方なのか、原因点は全く分からないがとにかく掛けられないのだ。もしかすると機械とは
(ああ、単純にこいつの努力不足か)
「なんだその目は、喧嘩売ってるのか」
「お前いつも考え方が物騒だな」
「盛大なブーメランだぞそれ」
「俺もちょっとそうかもしれないと思ったとこだった」
「話が進まん。とにかく、だ。また何かおかしなことがこの町で起こるかもしれない、気を付けてくれという話だ」
「――――なぁんだ、お前俺のこと心配してたのかよ」
「フン、まあ、一応は命の恩人だしな。それに、お前がいないとわたしは安全に暮らしていけないだろ」
「ま、そういうことにしておいてやるよ」
「な、なんだその顔は!」
「――――んまあ、そういうことだ。お前らも気を付けてくれと
翌日、学校も終わりみんなが帰るところを見計らって、クラスメイトの
「妖怪が現れないのはいいことなんじゃないのか?」
「ああ、その辺俺も気になってな、小守に聞いてみた。そもそも、小守自身が一つの怪異、『小守の周辺に妖怪怪異を呼び起こす』という能力がある。まあ、これは今は俺やその周辺関係者に強く影響が出るようにはなっているんだが、そうなっていると妖怪を呼ぶ能力はあるのに実際に妖怪に出遭っていないのは何かしらの原因があるからと考えているみたいだ」
「戦場くん、それは、妖怪が湧いていないという可能性はないのですか?」
今度は妹の白蓮が聞く。
「確かに、小守のその能力のは明確なタイミングで妖怪と出遭う訳ではないから、偶然二十日間妖怪が現れなかったという可能性も否定できない。けど、そんな偶然なんてまあないだろうな」
「となると、やはり『妖怪湧きを防いでいる何かがある可能性』もしくは、『湧いた妖怪がいなくなっている可能性』が考えられますね」
「えっと、私あんまりわからないんだけど、つまり、どういうこと?」
「つまり、何者かが何か工作をしている可能性が出てきたということです」
「何者って、つまり、小守ちゃんを消そうとしてる人達ってこと!?」
「あくまで可能性なので、そんな人物がいるとは断言できませんが、そして狙いが小守ちゃんにあるかも現時点では不明、その可能性が強いとだけしか言えませんね」
「――わかったよ戦場、忠告ありがとう、俺らも気を付ける。俺の方で何かわかったりしたらお前にも伝えるよ。オヤジにも報告しておく」
「といっても、私達はあまり関わりたくないので、
蓮浄兄妹は言った。
「いや、情報元は多いに越したことはないからな、助かるよ」
俺はお礼を言う。正直、こんな話に巻き込むことになってしまい二人には申し訳ないと思っている。だけど、この二人を巻き込まなければ今ここ――ではなくあのボロアパートに小守は存在しないのだから。
蓮浄兄妹は別に、なにか特別な力は持ち合わせていない(けど、妹の白蓮の方は涼子に負けず劣らずの実力の持ち主だが)、重要なのは二人の父親の方だ。
世界には様々な怪異があり、国ごとに(ここら辺ちょっと複雑なので俺もよく分かってはいないのだけど)怪異対策の組織があるみたいで、日本では『影の会』と呼ばれている組織がそれに当たる。
蓮浄兄妹の親父はその組織の実力ナンバー4で、上位三名は条件がそろって初めて実力が出せるタイプの人らしく、実質蓮浄兄妹の親父さんが『影の会』のナンバーワンなんだそうだ。
俺はこの人に直接小守を狙うのをやめろと直談判しに行くために蓮浄兄妹の力を借りた、まあ、紆余曲折あって小守は今日も元気にしているわけだが。
「では、私達はこれで。家でやらなければならないことがあるので」
白蓮がそう言うと、二人は教室から出ていこうとする。
「わざわざ呼び止めて悪かったな」
「いえ、情報は時に命を左右しますからね、私たちの場合は特に。まあ、兄さんにはもしもの時のために少しでも生存力を上げるための訓練をしている所ですが」
「おい白蓮!」
「いいではありませんか、こうやって周りにも知ってもらえれば兄さんが安易にやめてしまうことはなくなると私は考えます」
「和紀は何かしているのか?」
「……オヤジの部屋にあった本を使って、術の練習をしている」
和紀は言うか少し迷った素振りをしたが、口を開いてくれた。
「お父さんができるので兄さんにできない道理はないと思い、現在試している所です。これでもし兄さんが少しでも力をつけてくれれば、敵や妖怪を相手にするときに多少なりとも心配が減ります」
「術か、砂糖さんも小守もなんか魔法っぽいの使えたな。俺はそういうの分からないから少しうらやましいな。でも確かにそういうのがあると戦いのときに便利そうだな」
「むしろ私や涼子さんのような力がないのに一番遭遇率が高いアナタが少しおかしいのですけどね」
同級生におかしいとか言われた、地味にショックである。
「と、とにかく俺らはもう帰るぞ! いくぞ、白蓮」
「はい、兄さん。それでは二人とも、ごきげんよう」
「あ、ごきげんよう」
終始会話について行けなかった智香は挨拶だけはちゃんとしようとする。というか、ごきげんようって挨拶はどうなのか。智香はいいところの生まれが災いして制服なのにスカートのすそを少し持ち上げるような、そんな感じの挨拶をする。とにかく、二人は教室を出て行った。
「さて智香、話は分かったか? 最悪、タヌキに言っておこうか?」
「もう、詳しくは分からないけど、だいたいの事情は分かったわ、大丈夫。
智香はカバンについている小さい尻尾のストラップを見る。一見するとただのストラップにしか見えないが、これは、
「だといいけど。おいタヌキ、もし智香がなんだか怪しい奴に絡まれたら自分の身をもって智香を守るんだぞ」
ストラップは何も答えない。その代わりにシッポがパタリと、少しだけ動いた。学校など正体がバレそうなところでは喋ることは禁止してたから多分これが返事なんだろう。
「よし、まあ智香、そういうことだから念のためにしばらく登下校はキチメイドに送ってもらうことにしてくれ」
「うん、仕方ないもんね……」
少し残念そうに智香は言う。送り迎えとか自分で歩かなくていいから本当はうれしいはずなんだけどな、まあ、智香がズレた感性なのは昔からだけど。
「あ、ねえ大助くん、もしよければ、その、家まで送って行こうか?」
「あー、提案はうれしいけど俺まだやることあるから」
「そ、そう」
本当の所はやることなんてないのだが、またあのキチメイドに絡まれるのを避けるためには仕方がないと割り切る。
「ほら、早く車を呼べよ、俺はもう行くから」
「うん、また明日ね、大助くん」
「おう、また明日な」
俺は智香を教室に置いて出てゆく。後ろから智香の「もしもし」って声が聞こえるので早速迎えの車を呼んでるのだろう。ほんの少しの名残惜しさを感じつつも俺は教室を後にするのだった。
「さてとー」
特にやることはないが智香に嘘つくのは良心的にアレなので、無理にでも何かしておきたいのだが、正直学校に残っていると何故か目を付けられているガラの悪い感じの人達やどうしてか目を付けられている風紀委員に絡まれそうなので学校以外での用事を思いついてみようと思う。
そういえば、今日は柳さん、バイトに来なくてもいいと言っていたけど、挨拶がてら行ってみるというのはどうだろうか、小守の言ってた話もしたいし。
「いや」
柳さんのことだ、行ったら何かしら手伝わされるだろう。あの人の性格からして、その分もきちんと出してくれるだろうけど、恩人に余計な手間を取らせたくはないな。そういうことで柳さんの所は無し。というか、手伝いが面倒!
「しかしそうなると本当にやることがないな」
思えばこの地に引っ越してきてから、普段は学校とバイト先、自宅のボロアパートを往復するだけの日常だった、学校が終わってバイトもなければ、もうそれ以外の関わりがある人がいるわけがない。
ましてや学校での評判の悪さもあってか友達と呼べるのは涼子と智香くらいだ(蓮浄兄妹については、普段の暮らしを全く知らず、友達とはカウントできない)。
「――仕方がない、適当にぶらついて帰るか」
まだ行ったことのない場所を歩いてみるのもいいかもしれない、そんなことを思いながら俺は帰るのだった。
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