第8話 砂
あれから、俺がこうして歩けるまで回復するのに十分ほどかかった。
涼子は軽いノリで「こめんごめーん」と笑っていやがったので、いつかみてろと恨みの篭った視線を送る。
「お? その熱視線はなんだ? アタシに惚れたか?」
「お前の頭はお花畑だな」
皮肉を言うが涼子はニシシとわらっただけで、全く通じていない。もういい、相手にするのも面倒だ。
すると、もう一人の加害者、小守が疲れたように愚痴をこぼす。
「なあ、いったいいつまで歩き続ければいいのだ? わたしはもう疲れたぞ」
見ると、確かに小守は疲れた表情をしていた。
「そっか、小守っちは屋敷に行ったことなかったんだな。子供サイズの小守っちではあの距離歩くのはチトきついかもな」
ここで、お前もあんまり変わらないけどななどと言ったら奴は鬼神の如く暴れまわるので迂闊なことは言わないでおく。
「智香の屋敷はな、もうちょっと先にある山の中にあるんだよ」
「具体的に、あとどれだけ歩けばいいのだ」
小守は不機嫌そうに聞き返す。
「そうだな、あと二十分くらい」
「そん、なに歩くのか」
ちょっと驚愕、みたいな顔をしているが二十分くらいなんともないだろう。
「おい大助」
「なんだよ」
「――わたしを背負って行ってくれ」
「そんなことだろうと思ったよ」
そういうわけで、小守を背負い智香の屋敷を目指す。
「では智香とやらの屋敷に着いたら起こしてくれ」
「は?お前人に背負ってもらっている分際でよく寝ようとか思えるな」
「五月蝿い、それではな。くー、くー」
「ああ、小守っちガチで眠っちゃてるぜ」
「ウソだろオイ?」
意識のない人を運ぶのは非常に面倒なもので、というのも、小守の方から掴まってくれないものだからコッチがしっかり持ってやらないと落ちてしまわないかとひやひやさせられる。
そんな様子を見てか、涼子がニシシと笑う。
「あン? なんだよ」
「いや、別に大したことじゃないんだが、そうしてると歳の離れた兄妹みたいだなと思ってな」
「こんな妹がいるとか、人生詰んでるようなもんなんだが……」
「いいじゃねーか、一度は地獄から救い上げたんだ、そのまま最後まで面倒みろよ」
「多分おそらく俺の方が先に死ぬと思うんだが?」
「おお? アタシは『最後』を『小守っちが自立できるようになるまで』と考えての発言だったのだが? 大ちゃんは『添い遂げてから死ぬまで』をお考えになられたので?」
ニヤニヤと涼子は笑っている。いつもニシシと笑っている涼子にしては珍しい。
「そうか、別になにも死ぬまで面倒を見ないといけなくはないのか。ハハ、そうか、言われてみれば確かにそうだな。涼子、お前のおかげで気が付けたよ。ありがとう」
「――――どーいたしまして」
涼子はつまらなそうに言い返した。
いつの間にか道はコンクリートから土に変わっていて山間を歩いていた。左右には木々が茂っており、此処はもう鳳凰堂家の私有地になるそうだ。
「いつの間にか結構歩いたな。小守が寝てからどれくらいだ?」
「十五分くらいだとおもうぜ、しかし大ちゃん、そういえば小守っちをずっと背負っているけど、疲れないか?」
「確かに憑かれている状態だと思うが、こいつ自身あんまり重くないからなぁ。流石に背負っただけで何キロ台だとかまでは分からんがな」
「やっぱ人間じゃないからなのかねぇ、小守っちは。あ」
ここで涼子は何かに気づいたように声を出した。
「ん? どうしたん――ぶえ」
「上から砂が降ってくるから気を付けてと言おうと思ったが、もう遅かったか」
今現在起こったことをいうなれば、いきなり砂が降ってきた。そして涼子は砂が降ってくる前に四歩分後方に一瞬で退避していた。
「ペッペッ、口ン中に砂が入ったぞクソ」
幸いにもと咄嗟に目はつぶったものの、喋っている途中だったため口はガードできずに砂が入ってしまった。それに、
「おい馬鹿、これはどういうことだ」
背中にいる三白眼が俺のことを睨んでいる。まあ当然起きるよなあ。
「知らん、いきなり砂が降ってきたんだ。俺のせいじゃねぇ!」
「ナニィ? また新手か」
小守が背中から跳び下りる。ボサボサの長い髪に砂がかかっていてとても可哀想に見える。いつの間にかなっていた折角の紅い目もなんだかかっこよくはない感じだ。
「チッ、もう妖力は感じないな」
そういって小守は目を閉じた。再び瞼が開いた時にはもういつもの黒い目に戻っていた。
「んー、一撃離脱ってやつだね」
涼子が腕を組む。
「敵はおそらく砂かけ婆だろう。次に見つけたらただじゃおかない。と、いうか……ここどこだ?」
「ここはもう鳳凰堂家の敷地内だ。あと少しで屋敷までつくぞ」
「おお! もうそんなところまで歩いたのか!」
「歩いたのはお前じゃなくて主に俺だけどな」
一応突っ込んでおく。
「では、残りの道をさっさと歩いて行くとするぞ」
小守は片腕を上げてズンズンと歩いてゆく。その前に頭の上の砂落とせよ。
「急にテイション高くなりやがって、これだからガキは分からん」
「そうか? アタシは何となくわかるけど」
「そりゃお前がガキだからだろ」
「あ?」
「お?」
「「…………」」
無言で睨みあう俺と涼子。このまま殴り合いになったら俺が普通に負けるだろうが、ここは意地でも引かない。そしてそれに特に意味はない。
「何をやっているのだ、早くいくぞバカ共!」
小守がいつの間にか結構進んでいた。涼子との睨みあいもあるが、今のところはまあ殴りあう雰囲気でもなくなったな。
「はいはい、今行くよ」
「小守っち早すぎ~」
俺と涼子は一緒のタイミングでため息を吐き、そして小守の後を追うのだった。
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