第6話 天界には「お金」という概念がない
えへへ。
とにっこり少女は微笑みました。
どう?どう?私の書いた小説は。
起きてそうそう、人が死ぬ、殺されるという内容を読まされた私は驚きました。
いえ、しかし、それこそが、この少女の狙いだったのでしょうな。
はい、とてもびっくりしましたよ。
意表を突く展開でした。
そうでしょう?
ここ天界では、人が「死ぬ」なんて事はまず起こらないのよ。
だからきっとみんな驚きます。
私、そう思って、一生懸命考えました。
まぁ、こんな平和なところでは殺人事件などまず起こらないでしょう。
私がそう言うと、少女は不思議そうな目をしました。
ふむ、なるほど。よく考えてみると、死ぬってことも怖いけど、これから死ぬってわかることこそが、恐怖の本質かもしれないですね。
あら、そこまで深く考えていなかったわ。
でも、そうやって本能のままに書いたほうが、あれこれ難しく考えるより物事の本質を捉えるのかもしれませんね。とても面白い内容だと思いましたよ。他の皆さんの感想も楽しみですね。
ありがとう!私もすごく楽しみなの。
それじゃ、朝ご飯用意しているから、着替えたら下へ降りてきて下さいね。
着替えはこちらに置いておきます。
ありがとうございます。何から何まで。
私はお辞儀をしました。
ところで、いつまでもお世話になるわけにはいきませんね。
何か仕事を頂いて、私も自分で稼ぐようにしなければ。
あら、「稼ぐ」ってなんですの?
天界ではなんでも望めば手に入るから、「稼ぐ」とか「買う」っていうのは現実にはありませんの。ファンタジーの世界ならありますけど。
そういうのって、すごく憧れるわ。
そういうものですか。地上では誰もが働いてお金を得ることが当たり前でしたから、むしろ私のほうこそ驚きです。
あれ、そうなの?
是非教えて。「働く」って何をするの?
そうですねぇ、じゃあ朝食を頂きながら、お話ししましょう。
わかったわ。
私は着物に着替えると、いそいそと階下へ降りていき、こちらかな、という戸を開けてみると、料理の並べられた居間でした。
そこにはおりんちゃんと、その御両親かと思われるお二人が座っていまして、まぁ見るからに親切そうな顔をした方々でした。
座布団が敷いてあったので、そのうえによっこらせと腰を下ろしますと、目の前には料亭のような豪華な品揃え。いやぁ、いかにも客人が来たからもてなしましょう、と意気の感じられる有り難い食事です。刺身、アサリ汁、お米、煮物、天麩羅、朝から豪勢ですな。
おはようございます。よく眠れましたか。
ご夫婦は私の目がすっかり料理の出来映えに満足しているのを見取ってから、面白可笑しそうに挨拶をしてくれました。
どうも、おはようございます。このように素晴らしいおもてなしを受けて感激です。こんな豪華な朝食を用意されるのは、大変でしたでしょう?
いえいえ、私たちが作ったわけじゃありませんよ。何もしなくたって注文したら、届くんです。私たちがしたことと言えば、何を食べるか選ぶくらいのことです。
はぁ、なるほど。地上の人間には仕組みがよく飲み込めませんが、それはすごいシステムですね。
「システム」ですって。面白い言葉を使いますね。
うふふと、おりんちゃんは笑いました。
さぁ、何にせよご飯を頂きましょう。ね?
さっそく私は刺身に醤油をつけてぺろりと頬張ってみました。
ひんやりとして、とろけて、魚の旨味と醤油のしょっぱさが広がります。磯の香りが漂ってくるよう。うーん、これで満足しないということがありましょうか。
大変、おいしゅうございます。
私がそういうと、おりんちゃんも、ご夫婦もどっと笑いました。みんなも嬉しそうにぱくぱくと食べます。
地上では何をするにも「お金」がいるのですよ。働いて、「お金」をもらって、その「お金」と引き換えに、何かを手に入れたり、何かをしてもらったりするのです。
私は「お金」の説明をしました。
それって、不思議な概念ね。「お金」ってどんな姿をしているの?
母上が私に質問をしました。
「お金」はただの紙です。その紙に、いくらの価値があるか書かれているのです。
まぁ、でしたら自分で紙に書いたらよろしいじゃありませんか。何か欲しいものがあれば好きな値を書けばいいのですわ。
いいえ、それは「犯罪」と言いまして、地上ではやってはいけないことなのです。「お金」は「政府」が発行したもの以外は認められません。それに、簡単には真似できないように、非常に複雑な模様も描かれているのです。
まぁ!
皆さん、目を丸くして私の話を聞いています。
面白い!面白い!まるでファンタジーの世界ね!「セイフ」って何?とてもカッコいい響きだわ。きっと、とても偉い人のことよね。天界にはそういう人っていないから、すごく興味があるわ。
おりんちゃんの発言に今度は私が目を丸くします。
え、天界には「偉い人」がいないんですか?
そうですよ。ここでは、誰かが他の誰かよりも偉いなんてことはありません。
それに「犯罪」なんてものもありません。ここでは何をしたっていいんですよ。
父上が言いました。
ふーむ、それでよく秩序が保たれるものです。
秩序?はて、秩序などありましょうか。ここは渾沌としていますよ、むしろ。そうでなけれは、天界とは言えませんな。ここでは「何でもアリ」なのです。ははは。
父上の仰ることは、何だか意味深に聞こえましたが、まだここへ来て日の浅い私は、まだあまり深く考えないことに致しました。
さて、食事を終えると、またあの温泉に出掛けてみることにしましたよ。
また集まりましょうと、昨晩約束をしましたからね。
次回は「天界温泉カクヨム祭り」です。
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