第4話 カクヨムが天界入り


ねぇ、地上では今どんな遊びが流行っているの?


目をキラキラさせながら、おりんちゃんは言いました。

この少女が一番に知りたいのは、どうもそういうことのようです。

はて、しかし何と答えたものでしょう?


そうですね、つい今しがた流行り出したのは、みんなで小説を書いて、それを見せ合いっこするという遊びですね。

いや、中には遊びじゃない、という方もいるかもしれませんがね、それでも私は遊び心が必要だと思ってます、はい。

小説ってのはね、面白くないといけません。楽しそうで、ワクワクして、みんながつい読んじゃうような、そういうものを作らないと読んでもらえませんし、そうやって誰が一番人気を得られるのか競うのがまた、参加する人も、傍で見ている人も、わいわいと面白いんですな。ちょっとしたお祭りのようなものですよ。


へぇ、面白そうね!

どんな作品が人気あるの?


おりんちゃんは、うきうきしながら尋ねてきます。


いやぁ、私も最近はじめたばかりで実はよくわからないのです。

でも、意表を突くタイトル、可愛い女の子、壮大なファンタジー世界、そういったものが人気あるようだ、と私は思いました。

それで、私も何かそういうものを書いてみようと思ったのですが、さっぱり思いつきませんな。いやはや、お恥ずかしいかぎりで。


あらあら、見せ合いっこするのは何だか恥ずかしいけど、面白そうねぇ。

天界でもやってみましょうよ。


と、後ろで湯に浸かっていた、女性の一人が言いました。

こんな軽いノリで、皆さんすぐに賛同するのだから、天界の人々は時間を持て余しているようです。

私が小説を投稿しているのはカクヨムというサイトだったので、天界で開かれるお祭りの名前も「カクヨム祭り」ということに決まりました。へんてこりんな名前ですね。


ということで、次の日までに一人一つずつ短編小説を書いて、またこの温泉に集まりましょう、というお話になりました。

さて、天界の人々はどんな小説を書くのでしょうね。


そんなこんなの話をしているうちに、あっという間に私は酔いが回って、意識が遠のいてきました。


ちょっと、まだちっとも話をしていないでしょう?もうおねむなの?


と、おりんちゃんに体を揺すられます。


いや、どうも今日は疲れてしまったようです。すみません。どこか休める所はありませんか?

あと、私には着る服がありません。


すると、おりんちゃんは、ぷくっと頬を膨らませて言いました。


仕方ないわね。今晩は私の家に泊まるといいわ。

殿方用の浴衣も貰ってきてあげるね。


それで、酔った私は、おりんちゃんと親切な女性たちに連れられて、浴衣を羽織り、温泉の外へと出ていきました。


美しい月が空に輝いていて、すっかり夜になっておりました。

夜風が肌を心地よく撫でてゆきます。


天界というのは、雲の上にあるのです。

だから綿のような雲が地面なんですな。

でも、その上には古びた民家が並んでいて、ちょっとした田舎の温泉街といった風情なのでございます。


少し歩いた所に、おりんちゃんの家がありまして、私は酔っていたからよく覚えていないのですが、二階の客間に布団を敷いて、そこで寝かせて頂いたようですな。

ふかふかのお布団で、そりゃあもう、深く深く眠りに落ちていきましたよ。

ぐっすり眠る、

というのは、なんとも贅沢な気が致しますね。

たとえたくさん財産を持っていても、人間安心して眠れるとは限りませんからな。

むしろ平和で、よく食べ物があって、親切な人がいて、ここに居ていいよ、と言ってくれる。

景色はきれいだし、明日には楽しみなことがあって、おりんちゃんのような可愛い女の子もいて・・・。

いや、私は満足ですよ。ここは極楽です。

暮らすならこういうところが最高ではないかと。

そう思いますね。


翌日、丸い窓の障子から朝日が差込みまして、さっそくおりんちゃんが私を起こしにきてくれました。


ねぇねぇ、私ね、短編小説を書いたのよ。早く読んで。


起きるなり、元気なこの女の子は、紙に書いた物語を布団の上にぽんと置いたのです。私はまだ寝ぼけ眼だったのですが、何だか頑張って書いたようなたくさんの可愛らしい文字に胸を打たれてしまいました。その内容というのは・・・


次回にしましょうかね。

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