プロローグ
2×××年。
人々は、異能と共に生きている。
異能を得るのには、自分の一部を〝犠牲〟にしなければならない。
その為、異能を得た故に、
蟲を食べ、魂を食べ、
記憶が薄れ、感情を無くし、
視力を失い、腕などの体の一部を失って――
人は、それを、当然として生きていた。
中には何の力も持たない〝異端者〟と呼ばれる者たちがいた。
彼らはこの世界の〝異物〟とされ、
虐げられ、蔑まれ、哀れみ目で見られて、
時には足掻きながらこの世を生きている。
これは、そんな〝世界〟に住んでいる、探偵と怪盗と異端者の物語である――――。
● ● ●
銃声が鳴り響いた。
物陰に隠れた少年は、弾切れになったリボルバーに弾薬をつめると、それを構え辺りを警戒しながら息を潜める。
ここらにある工場から聞こえてくる不協和音以外、何の音も聞こえてこない。
「くそっ。なんだよ、アイツ。あんな能力があるなんて聞いてないぞ!」
少年は小声で悪態をつく。
「おかげで僕は死にそうになった。弾もあとこれしかないし」
『……すまない。今から増援を送る。少し待て。――だが弾切れを起したのはお前が油断していたからだ。いつも一発で仕留められると思うなよ』
小型のイヤホンから、落ち着いた男の声が聞こえてきた。その声音には飽きれも含まれている。イヤホンからの声に驚いた少年は思わず平常の声を出してしまう。物陰だからこそ響く声に、足音が重なるのを少年はイヤホンの声に集中していたため気づかなかった。
「えっ、あ、聞いていたんですか」
「そこにいたのですか」
透き通るような女性の声が、彼の背後から響いた。
「――っ!」
少年は慌てて振り向く。
一人の女性がいた。とても長いこげ茶色の髪の毛を月夜の下で靡かせ、黒いスーツを纏った彼女は、黒いサングラスで表情の読めない顔をこちらに向けている。
その姿にうすら寒さを覚えながらも、少年は平静を保ちながら女性を見つめ返す。
『どうした。そこに、誰かいるのか?』
「<ドラゴン>です」
問いに答える少年の声はどこか焦りが含まれている。男性が対立の邪魔をしないようにと無言になった。それがありがたいようで、だけど少年はイヤホンからの声が聞こえなくなり心細さを感じていた。
目の前にいる女性の口が笑みを刻み、ゆっくりと開く。
「何をブツブツ言っているのか聞きません。私は貴方が何者なのかを聞きたいのです」
「……僕が、それに答えるとでも」
挑発的に応えながらも、持っているリボルバーを女性に向けた。命を奪う重みに耐えながらも少年は一発で仕留められるように引き金に指をかける。
女性は恐れることなく一歩前に踏み出した。
余りにも堂々としたその姿に、少年は怯えて一歩後ろに下がってしまう。
「くっ、くるな! 撃つぞ!」
「……答えてくださらないのでしたら仕方がありません。貴方には――さっき見たことを忘れていただきます」
女性が一息に間合いをつめてきた。黒いサングラスが迫っている。
「なっ……」
とっさの出来事で何も反応ができない少年のリボルバーを持っている右手をつかむと、女性は自分のサングラスに手をかけた。どこか妖艶な笑い声が響く。
「さようなら。名も知らぬ人。私たちの秘密を探ろうとしなければよかったのですよ」
艶めく口が紡ぐ妖艶な言葉には、痛切ともとれる切なさが含まれているような気がした。
抵抗のできない少年の顔に、自分の顔を近づけた女性がサングラスを取る。
目の前が暗転する――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。