第22話 ハロウィン仮面よ永遠に
「ふ~っ」
正義は缶の中身を飲み干した。不思議と気持ちは落ち着いていた。思えば今まで何度これを味わってきただろう。その度に、何度悪と戦ってきただろう。
しかし、今度こそ本当に、最後だ。最後の変身だ。
「ジャーク!」
目の前にいる、最後にして最強の敵に呼びかける。
「今度こそ終わらせる! 鈴木も含めて、お前に殺されていった人達のために! おっさんのために! 世界の平和のために!」
「ぬうっ……!」
ジャークはぎろりと彼を睨みつけた。
「いくぞ! へん! しん!」
田中君……最後の戦いに臨む少年を見て、葉加瀬は思った。この5年の間で、君は強く成長した。だけど、だけど……5年経ってもやっぱり、そのポーズはださいぞ、と。
激しい光の中から現れたのは、今までのハロウィン仮面とは少し違っていた。胸の辺りに一本、線が入っている。
「俺の名はハロウィン仮面
説明しよう! 田中正義はコ○・コーラ社の自販機で当たりを出す事によって手に入るセットアップ・カンの中身を飲み干す事によって、ハロウィン・システムを起動する事ができるのだ! 彼はハロウィン仮面Mk-Ⅱへと変身した! また、ハロウィン仮面Mk-Ⅱは決めゼリフや技名を叫んだり、決めポーズをとったりする事によって攻撃力が上がるのだ! ハロウィン仮面Mk-Ⅱの攻撃力が上がった!
「……マーク・ツーだと……? 名前と見た目が変わっただけで……!」
「いくぞ! ジャーク! この6分で終わらせる!」
「ふっふっ……よかろう! ならばこれからの6分間、貴様の攻撃に耐えられたら私の勝ちという事だ!」
正義が先制攻撃を仕掛けにいく。
「ハロウィン・パンチ・インフィニティー!」
説明しよう! ハロウィン・パンチ・インフィニティーとは、ただの連続パンチである! ハロウィン仮面Mk-Ⅱの攻撃力が上がった!
「無駄無駄無駄無駄ァ!」
しかし、ジャークはその攻撃を全て体で受け止める。
「効かんと言っているだろう!」
そう言って正義の腕を掴み、ぐるりと回して持ち上げ投げ飛ばす。
「くっ!」
彼は空中で体勢を整えた。
「今度はこちらからいくぞ!」
ジャークはジャンプして向かってくる。正義は天井に足を着き、迎え撃つ構えを取る。
タスケテ。
「!」
まただ。また声が聞こえた。先ほどジャークの中から聞こえた声と同じ声だ。
ボクヲタスケテ。
正義にはもう声の正体がわかっていた。これは……ウイルスに体を奪われる前の、正義のロボットJの心の声だ。世界平和のために、みんなの幸せを守るために活躍しようとしていた……。
助けるよ、俺が。
「ジャァァァァク!」
彼は天井を蹴って再びジャークに向かう。
空中で攻撃の応酬が始まった。何とかスキを見つけなければ……そうすれば、
ふたりはそのまま床へと落下し、すぐさま互いに反対の壁に退いた。
「うおおおおおおお!」
すると今度はどちらも壁を蹴り向かい合っていく。正義の拳をジャークが受け止めた。
「くっ!」
「ジャーク・ショック」
電流が正義の体内を流れる。
「うわああああああ!」
彼は急いでジャークの体を蹴って離れた。今何分くらい経ったのだろう……二分くらいか?
「よく離れられたな。新しい装甲のおかげか?」
すると、ジャークの目の前に突然何かが現れた。次の瞬間彼は顔に回し蹴りをくらい倒れてしまった。
「ぐっ!」
「忘れんじゃねえよ」
「貴様は……!」
そこに立っていたのは鈴木英雄だった。
「ヒーローはもうひとりいるんだよ」
「鈴木!」
友の姿に思わず正義は叫んだ。
「お前……生きてたのか!」
「勝手に殺すな! 言っただろ!? 俺は英雄になるって! それまで死ねるか!」
「所詮貴様はもう、ただの人間だ!」
ジャークの魔の手が迫る。ジャーク・ショックをする気だ。
「やべっ!」
「英雄!」
「えっ!?」
その時横から出てきた独田によって、英雄は突き飛ばされた。
「ドクター!?」
次の瞬間独田はジャークの手に掴まれた。
「ドクター!」
「クズがどれだけ出て来ようと……!」
「ぐあああああっ!」
独田ががくがくと震える。電流を流されてしまっているのだ。
「ドクタァァァァァッ!」
五秒ほどで彼の揺れが止まった。
「むっ!」
ジャークは不審に思った。まだ電気は残っているはずだ。
おのれ……Jめ!
「よくもドクターをぉぉぉぉぉっ!」
彼は即座に独田を手放し跳び込んできた英雄の蹴りを防ぐ。だが直後に頭部に音が響いた。
「くっ……!」
背後から葉加瀬が鉄の棒を振り下ろしていたのだ。ここに来る途中に拾ってきたものだろう。
「クズ共があああああっ!」
怒りと共にふたりを払い飛ばす。
「鈴木! おっさん!」
「ハロウィン仮面の前に、邪魔な貴様らから……!」
「待て! みんなにはもう手を出すな!」
だが、またしてもジャークの動きが止まった。
「ぐぅっ! ……おのれJめ! 貴様はとっくにこの私が……!」
やはりそうだ、と正義は思った。ウイルスに回路を乗っ取られてしまったJの本来の心が、ジャークの体内でウイルスに抵抗しているのだ。
「今がチャンスだ!」
彼は最後の力を振り絞る。
「ジャークゥゥゥゥッ!」
反撃の瞬間を与えないようにラッシュを続ける。
「ぐ……ぐううううっ!」
しかし、さすが最強の盾。反撃はできないまでも全ての攻撃に耐えている。スキが全く生まれない。
このまま、このまま……! ジャークは必死にハロウィン仮面Mk-Ⅱの攻撃に耐えながら考えていた。このまま奴のタイムリミットまで耐え続ける……! 反撃はできなくてもいい……! もう五分は経っているはずだ。あと数十秒、あと数十秒だけ耐える事ができたら、その時は、その時こそ……私の時代が始まるのだ! 彼は頭の中で時間を計り始めた。おそらく、あと三十秒が限界……!
そして、刻一刻とその時は近付いていた…………よし……あと十秒……九……八……七……六……五……四……三……二……一……!
……ゼロ……!
ハロウィン仮面Mk-Ⅱの攻撃が止まった。
「ふふ……ふふふふふふふふ……!」
ジャークは喜びのあまり、ついつい笑い声を漏らしてしまう。
「ふふふふ……は~っはっはっはっはっはっ!」
勝った! 勝ったのだ! 五分五十秒、私は耐えたのだ!
「私の勝ちだ! ハロウィン仮面! ……何!?」
しかし、正義の姿を見て彼はぞっとした。信じられない事に、正義の変身はまだ解けていない。
「……どうした? ジャークさん」
正義は余裕の笑みを浮かべて言った。
「なっ……なぜ……! なぜまだ変身が解けていない! もう5分50秒経ったはずだ!」
「ああ……確かに経ったな……5分50秒……」
「……ならばなぜ……!」
「あそこにある、さっき俺が飲み干した缶をよーく見てみな」
「……な……まさか、あれは……!」
「これを……」
少し前、葉加瀬から差し出されたセットアップ・カンを見て、正義は目を丸くした。
「なっ……これは……!」
今までのものと少し違う。少しだけ長い。
「新開発した増量500ml缶だ。効果は今までのものと変わらない。つまり……」
「500秒……稼働できるって事か……!」
「それと、ハロウィン・ソードを改造して、先端にワクチンを仕込んでおいた」
「ワクチン?」
「ああ、ハロウィン・システムと並行して開発していた、アンチウイルスソフトウェアだ」
「……! じゃあ、それを上手くあいつの体内に入れられれば……!」
「わかったかジャーク! 俺の言葉に騙されたな!」
「謀ったな! ハロウィン仮面!」
「そう! 今の俺は6分間ヒーローじゃなくて、8分間ヒーローなんだよ! んで今のお前……」
正義はハロウィン・ソードを手に取る。
「スキだらけだぜっ!」
「しまった!」
ハロウィン・ソードはジャークの腹部にぶすりと突き刺さった。この奥に、彼の核となる部分が存在する。赤く光っていた、あれだ。
「なっ! 何だこれは!」
直後、ジャークは苦しみ始めた。
「うっ! これはっ……! ぐっ……! 田中正義ぃぃぃぃ!」
それでも彼は正義の首を掴んでくる。
「なっ! こいつっ……!」
「貴様あああああっ!」
「滅べっ! ジャーク! お前の支配はもう終わりだ!」
「なぜだ! 私が支配する事で世界から戦争がなくなる! この世の一切の争いはなくなり、世界が平和になるのだぞ!」
「違う! そんなの平和じゃない! 恐怖にひれ伏した状態が平和であってたまるか! 本当の平和は、誰もが何物にも怯える事のない世界! 恐怖も脅威もない世界だ!」
「そんなものおおおおおっ! 不可能だっ! それは秩序の否定ではないのか! 混沌の一歩手前ではないのか!」
「んなもん知るか! きっとみんなが望む平和はそういうものなんだ! そんな世界を作りたいんだ!」
「ぬおおおおおおっ! この、私が、こんな所で、死んでなるものかあああ! 私は、世界を支配する存在だ! そして、そしてええええええ……!」
ジャークの手から徐々に力が抜けていく。
アリガトウ。
え? 確かに、Jの声が聞こえた。
アリガトウ、ボクヲタスケテクレテ。キミミタイニ、ダレモガダレカヲエガオニデキル。ソンナセカイヲ、ボクモツクリタカッタ。
「……! Jェェェェェェ!」
やがて、ロボットJは完全に活動を停止した。
続く!
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