第10話 終末への光

 ふたりは銀行を飛び出した後、とにかく走り続けた。どこに向かうのかはふたりにもわからない。とにかく、現場からできるだけ離れる事が大事だった。

「なっ、何か、殺人事件を起こした後の犯人みたいな説明をされそうな状況なんだけど!」

 息を切らしながら正義は言った。

「よし! ここまで逃げれば大丈夫だろう!」

 葉加瀬の言葉を聞き、彼は足を止めた。

「はあ、はあ、何で、敵を倒した後に逃げないといけないんだ……!」

「しょうがないだろう! はあ、はあ、今の君は不審者なんだから! はあ、はあ、恨むんなら正義のヒーローをそう仕立てる現代社会を恨め!」

「そうか、社会か……って、それよりも設計したあんたを恨むわ! 今さらっと刷り込まれるところだったわ!」

「それにしても、これで残りは7体だな……」

「そうか、108体いた邪身も、もうあと7体か……!」

「田中君、もう少しのふんばりだ」

「ああ……!」

 三年間ダークと戦ってきた。その戦いがいつ終わるのかなんて考えもしてこなかったが、たった今、正義の目にはその終末への光が見え始めていた。

「さてと、じゃあ俺はバイトに戻るよ」

「! ああ、そうだったな。大丈夫かい? 勤務中に抜け出して」

「大丈夫だろ。あの店長なら大目に見てくれそうだし」

「そうか、ならいいんだが」

「んじゃ、またな、おっさん」

 正義は歩き出した。バイト先のコンビニとは逆方向に来てしまったため、道を引き返す。

「田中君!」

「?」

 それを葉加瀬が呼び止めた。

「……君には本当にすまない事をしたと思っている。邪身との戦いのせいで大学受験に集中させられず、結果君はフリーターとなってしまった……」

「……」

 正義は目を閉じて考えた。もしあの時自分がハロウィン・システムを起動しなかったらどうなっていたのだろう。俺は普通の高校生活を送り、普通に大学受験をして、合格し、今頃は普通に大学に通っているのかもしれない。もしかしたら、彼女なんかもできていたりして。

 ……だが、やめようと思えばいつでもやめられたはずだ。そんなもん知るかよって言って。でも、結局こうしてダークと戦い続けてきた。俺はこのおっさんに色々と文句を言ってるけれど、つまるところ、俺は……。

「いいよ。俺が自分の意志でやってきたんだ」

 そういう事なのだ。

「……」

 葉加瀬は黙っていた。しかし、何を考えているのかは正義にはわかる。もう三年間もこの男と付き合っているのだ。

「じゃあ君の自己責任って事で。この件に関して私に一切責任はない。あーよかった」

 うん、やっぱり大人なんて大嫌いだ。


 そして正義はバイト先のコンビニへ戻ってきた。

「いや~店長すみません。実はめちゃくちゃ腹がいたくなっちゃって……はははは」

「お前クビ。帰っていいぞ」

「社会って理不尽!」


 続く!

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