第3章 剥されし仮面

プロローグ

 正義とダークの戦いが始まってから、三年の月日が流れた。

「ありがとうございました~」

 我らがヒーロー、ハロウィン仮面こと田中正義は、今日も元気にコンビニで接客をしていた!

「なあ、聞いたか田中君」

 店内に客がおらず、特に作業もない暇な時間、正義の隣に立っていた店長の男が暇つぶしに彼に話しかけてきた。この男はひょうきんで、誰もが気軽に話しかける事ができる親しみやすさを持っていた。暇を見つけては本当かどうか怪しい面白い話を一緒に働いているアルバイトによくしてくるのだった。

 だが、今回の話は少し違っていた。

「何をすか?」

「あいつだよ、あいつ。ほら、例の」

 ぎくり、と正義は思わず声に出しそうになる。

「あ、ああ、あいつっすね……また昨日も出たんですか?」

「ああ、らしいよ。まったく、近頃物騒だよなー」

「そ、そうですねー……」

「早く捕まってくれないかな。大体、全身タイツに靴下かぶってるって、気持ち悪すぎるよな」

 うわ~~~~~~~~! やっぱり俺の事だ~~~~~~~~~!

「ほ、ほんとっすよね~、ほんと、気持ち悪いっすよね~~~~」

 顔では笑いながら、しかし心では泣きながら、正義は自己を否定した。

 これまでに正義は数多くの邪身を倒してきた。それと比例するように、ハロウィン仮面の噂はどんどん広がっていき、それと反比例するように正義の社会的地位は危うくなってきていた。あ~~~~さっさとダークを倒して普通の高校生……じゃもうなかった、普通のフリーターになりて~~~~~……ってそれでも駄目だ、就職して~~~~~~。

 その時店のドアが開き客が入ってきたので、ふたりは慌てて背筋を伸ばした。

「いらっしゃいませ~」

 客の顔を見た瞬間、正義は凍った。彼のよく知っている人物だったからだ。

「あれ? 田中君? 君のバイト先ここだったのか」

 葉加瀬博士博士だった。彼にハロウィン・システムの力を授けた張本人、彼を不審者へと陥れた張本人である。

「え? 田中君の知り合いかい?」

 横の店長が尋ねてくる。しかし正義は全力で否定した。

「し、知らないっす!」

「何言ってるんだよ、田中君。しょっちゅう会ってるじゃないか」

「し、知らないっす!!」

「なあ、やっぱり君の知り合いなんだろ?」

「し、知らないっす!!!」

 すると彼の心拍に呼応するように、突然携帯邪身出現報知機が鳴った。

〈ジャシンダヨ! ジャシンダヨ!〉

「うおおびっくりしたあ!」

 店長が慌てる。

「邪身か! 行くぞ田中君!」

「ちっ! ああ!」

 正義は急いで店を出た。

「……トイレかい……?」

 ひとり残された店長はぼそりとつぶやいた。

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