エピローグ
コウモリ邪身アイの姿が消えても、正義の震えは止まらなかった。
「……!」
「田中君、大丈夫か!」
葉加瀬が心配そうに駆け寄ってくる。それほど今の正義は尋常ではない様子だった。
「あ……あ……おっさん……俺……!」
「ああ、邪身を倒した。さすがだ田中君」
なだめるように葉加瀬は言った。何とか正義を落ち着かせようとしていた。
やがてハロウィン・システムは稼働終了し、正義は元の姿に戻った。
「田中」
爆発から間一髪で逃れてきた鈴木が正義の名を呼んだ。彼も変身を解いた。
「……鈴木」
「見事な刺殺だった。おかげで助かった」
「し! しさ……!」
正義の心にぐさりと鋭い刃が突き刺さった。
「こ、こら英雄!」
独田がすかさず正義のフォローに回る。
「た、田中君。あれは邪身だったのだ。落ち着け。別に君は人殺しなんかじゃあない」
「そ、そうだよな……じゃ、邪身だったもんな……」
しかし、正義の心はまだ動揺している。
「田中」
「……何だよ」
「お前との決着はダークを倒した後だ」
「……え?」
「だからそれまでは殺さずにいてやる」
「……はあ」
「英雄」
独田は驚いたように鈴木の顔を見た。
「……いや、俺も素直じゃねーな」
鈴木はふっと笑った後に続けた。
「認めたくねーが、お前は俺のライバルだ」
「……ライバル?」
急に何言い出すんだ? と正義は思った。
「ああ。俺の能力を瞬時に理解した洞察力、そしてそれ以上のかっこよさ。悔しいがお前をライバルと認めざるを得ない」
「……お、おう……」
勝手にライバルになっちゃった、と心でつぶやく。
「だが勘違いするな。英雄はひとりでいい。その考えは変わらねー。だから、ダークを倒した後にどっちが本当の英雄か、決着をつけようじゃねーか」
「……あ、ああ、そうだな」
そん時はソッコーで英雄の座を譲ってやろう。めんどくさいのはごめんだし、何より英雄なんて興味ないし。
「だからそれまで死ぬんじゃねーぞ」
そう言って鈴木は何処へと歩き始めた。
「はは、私の言ったとおりだろ? 田中君。君たちは必ずわかり合えるとね」
「……」
正義は独田の言葉に何も返さなかった。
「では、また」
独田もまた、鈴木の後を追い去っていく。
「……行ってしまったな……」
葉加瀬は静かにふたりの後ろ姿を見送っていた。
「……鈴木、英雄……か」
正義は意味もなく彼の名を言葉にした。
何だかんだで、俺たち、友達になったのかな。
と、衝突を終えた後の友情の芽生えに少し少年漫画のような汗臭さとむずがゆさを正義は感じた。が。
いやいやあんな変態と友達になっちまったよ! 最悪だ!
と即座に嫌悪感を抱くのだった。
クリスマスク、鈴木英雄。彼の事を忘れないでほしい。ハロウィン仮面だけでなく、彼もまたどこかでダークと戦いを続けているのだ。そして、忘れないでほしい。葉加瀬夫妻の離婚調停も、まだ続いているのだ!
第2章 新たなる英雄 缶
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