第3話 街を駆ける攻防

 正義がスーパーの外に出た時、バッタ男は手下の黒ずくめたちとジープのようなオープンカーに乗り込み逃亡を図っていた。

「何をやってる田中君! 奴ら逃げてしまうぞ!」

 葉加瀬が正義に駆け寄ってきて言った。

「わかってるよ! 早く追わねーと……!」

 正義は急いで自分の原付のもとへ走り出そうとした。果たして原付で車に追いつけるかは甚だ疑問だが、他に手段がない。

「君もマシンを呼ぶんだ! 田中君!」

 葉加瀬の言葉に彼は足を止めた。

「マシン!? そんなものがあるのか!?」

「ああ! 君が呼べばどこにでもやって来る!」

「よ~し、カモーン! ハロウィン・マシン!」

 正義は大声でマシンを呼び寄せた。しかし、何も起こらない。パニックとなった周囲の人々の喧騒が聞こえるだけだった。

「……何も来ねーじゃねーか!」

「もう少し待て! ……来たぞ!」

「え?」

 よーく耳を澄ますと、喧騒の中にわずかにエンジン音が聞き取れた。徐々に徐々にこちらに近づいてきているのがわかる。

「……この音は!」

 すると突然何かがふたりの前に吹っ飛んできた。そのまま地面に落ちて道を滑っていく。

 中年の男だった。

 そしてその直後に颯爽とバイクが現れふたりの前でキキッと止まった。

「来た! これがハロウィン仮面のマシン、スズ○のハヤブ○だ!」

「そこは自主制作じゃないのかよ! っていうか今の吹っ飛んできたおっさん、絶対こいつに轢かれたよな!」

「知らん! それより早く乗れ! ハヤブ○の時速は最高397kmだ!」

「原付免許しか持ってねーよ!」

「……」

「……」

「だったらさっさと自分の原付で追え!」

 と、葉加瀬はぶっきらぼうに言い放った。怒っているようだった。

「何でキレてんの!? お前ぜってーぶん殴る!」

 複雑な気持ちで正義は原付にまたがり敵を追った。


 逃走中の車上で、バッタ邪身ヘッドは治療を受けていた。

「ヘッド様、大丈夫ですか?」

 酸素マスクを彼の口に当てながら一般戦闘員テシータのひとりが気遣うように言った。

「ぐっ……苦しい……! おのれテ○ロン加工め……回復をしたら今度こそ……!」

神○シェン○ン仮面です、ヘッド様」

「ハロウィン仮面だっつってんだろ!」

「! な! お前は!」

 車の横に付き原付で並行走行していたのはハロウィン仮面だった。彼はあっさり邪身たちに追い付く事ができたのである。

「何で原付に追い付かれてるんだよ! アホか!」

 と、誰もが思う疑問を彼は代弁した。

「貴様はギロチン仮面! おのれえぇぇ!」

 ヘッドは立ち上がろうとするがすぐにふらついた。まだ回復は十分ではなかった。

「ヘッド様! そのお体ではまだ戦えません! おい! スピードを上げろ!」

 彼の治療をしていた戦闘員が運転手の戦闘員に呼びかけた。車はぐんと加速した。どんどん正義から離れていく。

「あっ! おい待ちやがれ!」

 正義もスピードを上げた。

 走行中、通り過ぎる人々が次々と悲鳴を上げているのが彼には聞こえていた。それはそうだ。バッタのような出で立ちの怪物と全身黒ずくめの男たち。それを見て怖がらない訳がない。

 と、思っていたが。

「変態よ! 変態がいるわあっ!」

「ぜ! 全身タイツに靴下かぶってる! きもっ!」

 人々はそんな連中よりもハロウィン仮面の方を気持ち悪がっていた。

 うわ~~~~~~~~! 俺のことだ~~~~~~~~~~! 否定できない自分が空しい!

 正義の今の格好は、誰がどう見ても不審者以外の何者でもなかったのである。

 視界が不明瞭になってきた。あれ、泣いてる……?

 だが、前方に急カーブがあることは確認できた。見たところ、邪身たちが乗っている車は一切減速をせずにカーブに入ろうとしているように見える。

「あれ? あいつらバカか?」

 逃げる事に必死になりすぎていたのか、正義の予想通り車はカーブを曲がりきれずにそのまま住宅に突っ込んでいった。

 ここだ! 正義は勝機を見出したように目つきをとがらせた。チャンスは今だ! ハンドルから両手を離し、上手くバランスをとりながらシートの上に立つ。

「正義流原付サーフィン!」

 説明しよう! 正義流原付サーフィンとは、田中正義が生み出した、走行中の原付のシートの上に立ち、さながらサーフィンのように風を感じる危険な行為である! よい子は絶対にマネをしてはいけない! ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

「ハロウィン・ジャンプ!」

 続けて彼はその場で跳んだ。ハロウィン仮面の攻撃力が上がった! 空中で標的を定める。大破した壁の奥に邪身の姿が見えた。

「必殺! ハロウィーン……」

 ハロウィン・キックの構えをとる。跳び蹴りはヘッドの体に命中した。

「ぐはあっ!」

「スタンピング・キーック!」

 説明しよう! ハロウィン・スタンピング・キックとは、まずハロウィン・キックをくらわせた後、相手が離れる前に左足でもう一度蹴り、さらに再び右足で蹴り……というように、片足のキックを連続でスタンプを押すように相手にくらわせていく、ハロウィン仮面の必殺技である! ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

 その後正義は蹴った反動で後方へ跳び、上手く着地をすることができた。

「決まった!」

「ぐっ! お、のれ、きゃろらいんちゃろんぷろっぷぱみゅぱみゅ仮面め……!」

 ヘッドはまだ立ち上がる。そのもとへ戦闘員たちが集まってきていた。

「ヘッド様! ここは退きましょう!」

 彼らはヘッドの肩を担ぎ逃げようとするが、そこへ速度を落とした正義の原付が突っ込んでいった。

「う、うわああああああ!」

 原付は彼らに激突し、その後は特撮ヒーローお約束の爆発が起こる。

 バッタ邪身ヘッドとその手下たちは倒された。

「……ってうわあああ! よく考えると原付なくなっちまったじゃねーかあああ! しかもあれには夜飯の材料が入ってたああああ!」

 完全に勢いで事を成してしまったことを後悔する正義。そして彼の変身は解けた。服装は元の制服に戻り、顔に着用していた靴下も消えた。

「……5分50秒経ったのか……あー気持ち悪かった……」

 その時彼のもとへ見知らぬ男がやって来た。

「君! 大丈夫かい? ケガは?」

「え? ああ、大丈夫です。原付は壊れちゃったけど……」

 でもあのおっさんがハヤブ○持ってたよな。何とかして、もらうかな。免許持ってねーけど。

「よかった。ところで、全身茶色のタイツを着て、顔には靴下をかぶってた不審な男を見なかったかい?」

「え?」

 正義はどきりとした。その不審な男が街を救ったんですけど……家は壊したけど。

「し、知らないです」

 自分です、とは言える空気ではない。

「そうか……もし見つけたら、警察まで通報してくれるかな?」

「は、はい、わかりました……」

「気味が悪いよなあ。早く捕まってくれるといいんだけど」

 社会って理不尽だよなあ、と思った正義は、死んだ魚のような目をしていた。


 続く!

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