第2話 初めての変身

 激しい光が正義の体を覆う。それと同時に今まで体験した事がない感覚が彼を襲った。締め付けられているような、包み込まれているような、刺激されているような、護られているような。その内に彼は、力が込み上げてくるような感覚を見出した。

 そして、光が消えた。正義にとっては数十秒続いていた気がしたが、きっと実際には一瞬であったに違いなかった。

 そこに田中正義はもういなかった。

「……何かわからんが、力が込み上げてくるような気がする。これで俺は変身ができたのか? これで俺は、って嫌あああああああああああああっ!?」

 自分の体を見て正義は驚愕した。信じられない映像がその目に飛び込んできた。

「ぜ、全身タイツウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」

 思わず声を裏返してしまった。そう、正義は気がつくと茶色の全身タイツを着用していたのだ。

「う、うわあああああっ! こんな……こんな! こんなこんなうわあああああああ!」

 気持ち悪い。何で俺こんな格好してんだよ!

 とその時、その姿を見ていた葉加瀬が声を漏らす。

「ださっ!」

「いや設計したのあんただろ!」

 負けじと正義もつっこむ。

「はっ……気をつけろ田中君! そのシステムの稼働時間には制限がある! 1mlで1秒間変身できるから、350mlだと350秒、つまり5分50秒しか稼働できない! それがそのシステムの限界活動時間だ!」

「なっ、何だよそれ! 早く言えよ!」

 もう起動してから三十秒ほど経っている気がする。

「田中君! まだ装甲は完璧じゃない! 仮面を着けろ!」

「え、仮面?」

 自分の体をよく見ると腰にポーチが付いていた。

「ここに入ってるのか?」

 ポーチを開ける。しかし中に入っていたのは仮面などではなく茶色い靴下であった。

「……靴下しか入ってねーけど!」

「あるじゃないか! 早くそれを着けるんだ!」

「いやだからどっからどう見ても靴下ですけど!? 何!? これをかぶれと!?」

 そこで正義ははっとする。もしかして、ただの靴下に見えるけど、実はものすごい装甲の靴下だったりして……!

「よ、よし!」

 急いで靴下をかぶる。早くしないと時間を消費する一方だ。

 靴下の着用具合はすばらしかった。心地よく肌にフィットし、通気性もいい。これなら顔がむれる心配もなさそうだ。そして、視界を確保するための穴もふたつ開いていた。

「……あかんこれ強盗や!」

 自分につっこむ。正義はノリつっこみを覚えた。

「やる気あるのか!」

 葉加瀬が意味不明に怒鳴ってきた。だからあんたが設計したんだろうが!

「何だあっ! 貴様はっ!」

 葉加瀬の後方から声が聞こえた。謎の生物たちがそこに立っていた。彼らが通ってきた道にあった建物などはことごとく破壊しつくされていた。

「げっ! 気付かれた!」

「よし田中君! 決めゼリフと決めポーズだ! 攻撃力が上がる!」

「えぇっ!? ほんとにっ!?」

「ああ! ついでに言うと技名を叫んでも上がる! それがハロウィン・システムの全貌だ!」

「何かよくわかんねーシステム! よーし、決めゼリフと決めポーズだな? えーと、えーと……」

 正義は懸命に考えた。どうせならちょっとかっこよく決めたいものだ。

「お、俺の名はハロウィン仮面!」

 と叫び右手の親指で自分の顔を指す。

「ト、トリック・オア・トリート!?」

 続いて両腕を広げた後、右腕を前方へ伸ばし、謎の生物たちを指差す。と、ここまでが彼が考え出した一連の決めゼリフと決めポーズであった。ちなみに説明すると、トリック・オア・トリートとはハロウィンの日に子供たちがお菓子欲しさに言う言葉で、お菓子をくれないといたずらするぞ、という意味である。彼はこれを自分なりにアレンジし、降伏をしなければ制裁を下す、としたのである。ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

「何? カフェイン仮面だと……? 何者かはわからんが、邪魔をするのなら倒すだけだ!」

 しかし、残念ながら正義の名乗りは正確に謎の生物に伝わっていなかった。

「上手く聞き取られていないぞ田中君! もうちょっと滑舌を鍛えておけよ! ヒーローに名乗りは付き物だぞ!」

ずっ!」

 ハロウィン仮面は落ち込んだ!

「ちくしょー……パンプ!」

 続いて正義は勢いよくジャンプをした。ちなみに説明すると、パンプとは正義が考え出した掛け声である。やあ! とお! といったものと同じ類である。ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

「いいぞ田中君! その調子で工夫して戦っていくんだ!」

 そこで未だ滞空中の正義はすかさず叫んだ。

「ハロウィン・ジャーンプ!」

 ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

「それはちょっとせこいぞ! たかがジャンプに!」

 葉加瀬がつっこむ。

「うるせー! 戦法と呼べ! 行くぞ! 必殺! ハロウィン・キーック!」

 説明しよう。ハロウィン・キックとは空中で右足を突き出し、両腕でカボチャのように弧を描いたまま繰り出すキックである! ハロウィン仮面の攻撃力が上がった!

 正義の足はそのまま謎の生物の胸部に当たった。バッタ男はそのまま蹴り飛ばされた。

「ぐはあ!」

「よっしゃ!」

「ぐっ……! くそっ!」

 バッタ男は四つん這いになる。

「この俺が人間ごときに……! テシータ共! 手を出すなよ! こいつは俺の獲物だ!」

 そしてそのまま両手両足をしならせ始めた。まるでバネが縮んでいるかのようだ。

「な……! まさか!」

「行くぞ! ヘロイン仮面!」

 そう言って彼の姿が突然消えた。

「人を麻薬中毒者みたいに言うな! ……どこだ!? どこへ行った!?」

 慌てて正義は真上を見る。何かが急速に落下してくるのが確認できた。

「ちょっ、はやっ……!」

 次の瞬間正義の視界をバッタの腹部が覆った。そのまま彼は地面に叩きつけられた。

「うわあああっ!」

「田中君! 上がるのは攻撃力だけでその他のステータスは一切上がらないぞ! もちろん装着前よりは格段に上がっているが!」

「わ、わかってるよ……! ええい!」

 バッタ男の腹を蹴り飛ばす。彼はたいしてダメージを受けずに上手く着地した。

「はっはっは! どうだ!」

「くっ……!」

 正義はとっさにスーパーへと入っていく。

「逃がすか! ヒロイン仮面!」

 バッタ男も彼を追い店内へと入ってきた。

「誰がヒロインか! 俺はヒーローだ!」

 よし、好都合だ。

 そしてあれ・・が売ってある場所へと来た。あとはここにあいつが来れば……。

「BLOWI'N仮面!」

 来た!

「いい加減名前覚えやがれええええええええ!」

 正義はその場にあった殺虫剤を手に取り全力でトリガーを引いた。白い霧がバッタ男を包んだ。

「ぐわああああああああああああああ!」

「どうだ! 虫ならこれだろ!」

「くっ! くそ!」

 バッタ男は苦しみながら店の外へと走っていった。

「逃がすかよ!」

 その姿を見失わぬように正義は彼を追った。


 続く!

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