第6話『生徒会長と銀の手錠』
そんな王ヶ城と撫琴。男の知を超えた戦いが展開した後。
俺は王ヶ城から「杏樹くんの部屋が見たいな」と言われ、自分の部屋に案内し、撫琴は部屋に戻っていった。
俺の部屋は八畳ほどの、至って普通な男の部屋と言った感じで、ベットに勉強用机、本棚など以外に変わった物といえば、趣味で作っているプラモしかない。
王ヶ城は、そのプラモをジロジロと物珍しそうに眺めている。お嬢様だからあんまり馴染みがないのか?
「いっぱいプラモがあるね……。杏樹くんって、こういうの好きなんだ?」
「まあな。物によっちゃ安いし、いい趣味だぞ」
プラモを飾る用の棚には、ロボットはもちろん車や建造物など、興味を持った物は無造作に置いてある。時間もかなり潰れるし、楽しいしで、言う事なしだ。
「部屋の隅にいっぱい箱が積まれてるね……」
と、王ヶ城は部屋の片隅、ベットの足元へ視線をやった。
そこにはまだ作れていない詰みプラモがたくさんある。
「まあ、時間がかかるんだよ。規模にもよるけどな。適当な場所に座ってくれ」
そう言うと、王ヶ城は部屋の真ん中ほどに腰を下ろし、またキョロキョロと部屋を観察する。そんなに珍しいか?
俺も王ヶ城の前に腰を下ろす。
「さっきは晩飯ありがとよ。ごちそうさん」
「う、うん。でも、撫琴ちゃんには気に入ってもらえなかったみたいだし」
「ああ、まあ……」
本当は大分気に入ってたと思うが……。
あんまり言ってもなんかさっきの作戦をポロっと喋りそうだ。
「そういえば、私男の子の部屋って、初めてだな……」
うっとりと目をうるませ、手を組む王ヶ城。まるで神様に祈っているようなポーズだ。大袈裟すぎる。
「へぇー。そうなんだ」
俺の返事が気に入らなかったのか、王ヶ城はなぜかジト目を向けてくる。普通に返事しただけなのに、なぜ。
「……杏樹くんって、部屋に女の子入れたことあるの?」
「あるぞ?」
そりゃ、この歳まで生きてりゃ一回くらいはあるだろう。
「……彼女?」
王ヶ城の目から光が消えた。これは、キレる一歩手前という感じだ。
なんで彼女でもない王ヶ城にそういう詮索をされなきゃならんのか、と思わなくもなかったが、しかしまた警棒でぶっ叩かれるのもごめんである。
「違う違う。友達だよ」
「……名前は?」
まだ光が戻ってこない。
なんでだよ! 彼女じゃないって言ってるじゃん、友達もダメか!
「覚えてねーよ。何年前の話だか、自分でもわかんねえくらいだしな」
ぶっきらぼうにそう言うと、王ヶ城はそれで納得したのか、目に光が戻ってきた。
警棒が飛び出す五秒前ってくらいギリギリだった気がする。
「じゃ、明確に覚えてるのは私が初めて、ってことだよね?」
「まあ、そうだな」
頷くと、彼女は「えへへ……」と照れくさそうに笑っていた。
よくわからんが……まあ、嬉しそうなら別にいいか。
俺達はその後、二時間ほど他愛のない話をして、王ヶ城は門限だからと帰っていった。
なんだか普通に仲良くなってきてしまっているような気がする……。
ま、いいか。特に問題もねーし。問題が出てきてから対処すればいい。
俺は積んでいたプラモの一つを取り出し、それを作ることにした。
■
翌日。プラモ作りに熱中してしまい、寝不足に陥って、授業がまともに受けられそうにない状況で登校する事になってしまった。
「せんぱぁぁぁいッ!!」
「え」
学校の廊下を教室に向かって歩いていると、突然大声が響いてきた。
デジャヴュ――というより、以前あったことの焼き直しだ。俺はキョロキョロと辺りを見回し、後方から走ってくる香坂を発見した。距離は一〇メートルほど。回避行動を取ろうと一歩踏み出した瞬間。やつは一瞬で俺の懐に飛び込んできた。
「なにぃ!? ――うげっ!」
回避行動が間に合わず、香坂は俺の腹に頭から突っ込んできた。しかも再び鳩尾にクリティカル。
「お……おぉぉ……っ!」
登場でいきなり俺の腹に飛び込んでくるのをやめてほしい。
俺はなんとか苦しみつつ、香坂を体から引き剥がす。
「お、お前……いい加減その登場やめろ……」
「えー。驚きとエンターテイメントに富んだ登場だと思うんですよー」
「なんで驚きとエンターテイメントを求めるんだよ! お前は変身ヒーローか何かか!?」
大体生まれてるのは驚きと痛みなんだけど。
ちっくしょう。目が覚めちゃったよ。授業中寝ようと思ってたのに。
「ま、いいじゃないですか別に! それより先輩、今日放課後遊びましょう!」
「やだ。昨日から作ってるプラモが途中なんだよ。早く作ってやらないと可哀想だろ?」
「先輩、そんなこと言ってると、いざ彼女欲しいって時には誰も付き合ってくれなくなりますよ?」
「でもお前はやだ」
「なんでですか!?」
「腹に飛び込んでくる癖を治してくれないと、デートの度痛い目見そう」
もっと根本的に、騒がしい子が苦手という理由もあるのだが。
まあそれを言ってもしょうがないだろう。三つ子の魂百までと言うし、こいつの性格が変化するとは思えん。
「ぬぐっ……。個人的にはやめたくないんですが……そう言われると……」
「それに目立つんだよ。お前の大声と、その行動は」
今は落ち着いたが、さっき飛び込んできた辺りは、周囲の人間が皆見ていた。香坂だとわかった瞬間、「なんだこいつか」と言わんばかりに目を逸らしたが。
お前もしかして、いっつも目立つことばっかやってんじゃねえだろうな。
「ちなみに訊きたいんだけど」
「ああ、Eカップですよ!」
「誰がカップ数答えろっつったよ!!」
つーか間違いなくそんなにない。多めに見てCくらいだろう。
「じゃなくて。お前ってもしかして、相当な問題児なんじゃねえの?」
「えー。別に普通の女子高生ですけどねー。確かに廊下走り回ったり、学校で焼肉したり、爆竹暴発させたりとかはありましたけどー。問題児ってほどじゃないですよ?」
「よく退学にならねえな、お前」
それ問題児っつーか、常識知らずだろ既に。
総一が灰色の髪許されてたり、王ヶ城が警棒持ち歩いてるのにお咎め無しだったり、この学校は微妙に校則がおかしい。
「ま、結構がっつり怒られましたけどねー。生徒会長に」
「そういうのは教師の仕事じゃねえのか?」
「先生が近づいてきたら逃げますもん。呼び出しにも応じないしー」
「思考が犯罪者その物だな……」
「今度からは生徒会長からも逃げなきゃですよ。あーあー。敵が多いなー」
「自業自得だけどな。――じゃ、俺は教室に」
「待ってくださいよ先輩! もうちょっといいじゃないですかー」
立ち去ろうとしたのだが、腕を引っ掴まれて阻まれてしまった。
「眠いっつーかダルいんだよ。お前のテンションに朝からついてくのは」
「私以外の人が言われたら自殺しちゃうような酷いこと言わないでくださいよー!」
「そこまで酷いこと言ってねえよな俺! 確かに傷つくかもしれんけど!」
香坂相手だと、どうしても大声になるので、朝は遠慮したい。俺は低血圧ってほどじゃあないが、だからって高血圧ってもんでもないので、やっぱりめんどいのだ。
「俺は眠い。教室で寝たい。欲望の赴くままに行動してそうなお前には、わかると思うぞこの気持ち」
「ういっす! わかります!」
「そーかそーか。じゃあ離してくれるな?」
「はいっ!」
離してもらえたので、俺はその開放された手を挙げ、「じゃあな香坂。夢には出演させてやるよ」
「はーい。新婚役でお願いしまーす」
「おう。ご祝儀は弾むぜ」
「先輩は新郎役でおねがいしますよ!」
「無理。夢の中とはいえ結婚するのはまだ先にしたいからな」
そう言って、俺達は手を振って別れた。
くるりと踵を返し、教室に向かって歩き出そうとしたのだが
「――って、ちょっとマッチ先輩!」
「ぐぇッ!?」
今度は背後からタックルされて、俺はぶっ倒れた。
「い、いたた……」
背中に乗る香坂が重たい。鼻も打ったぞ。鼻血が出てないのは幸いだが、勘弁しろよマジで。
俺はなんとか香坂の腕から逃れ、立ち上がり、埃で汚れた制服を叩く。なんか、腰がビキって言った気がするんだけど……。この歳でギックリは嫌だぞ。
「で、なんだよ。つーか、いくら俺がお前に素っ気ないとはいえ、さすがに呼ばれたら振り返るし止まるんで普通に呼び止めてねマジで」
「次から気をつけるだけにしまーす」
「行動に移せバカ!」
目の前で唇を尖らせる香坂を怒鳴った。さすがに痛みでイラっときていたらしい。ちょっと本気で怒鳴ってしまって、罪悪感が湧いたのだが、しかし香坂は変わらない様子で「はーい」と手を挙げた。その変わらなさ具合は少しうらやましい反面、叱っている身としてはやっぱりカチンと来ますね。
「で……。なんだよ、用があるから引き止めたんだろ?」
「そうそう! 私のことは、歩風でいいですからね!」
「ああ? 名前で呼べと?」
俺が名前で呼んでる女子なんて、妹の撫琴しかいないのだが。
まあよかろう。名前で呼ばない限り開放もされなさそうだし。
「歩風な、わかったよ」
「それじゃ、私もクラスに帰ってなこちーでもからかうとしますよ! じゃっ!」
そう言って、彼女はまた超特急を彷彿とするダッシュで俺の前から消え去る。
俺も教室に行って寝よう。
俺のクラスまではもう目と鼻と先まで来ていたので、ガラリと扉を開けた。
「ういーっす」
「お、来たなー色男ーあれなんとかしろー」
と、俺の挨拶に返事を返してきたのは、優作だった。教室の端で総一と話していたらしいやつが、教室のど真ん中辺りを指差す。
そこには、どす黒いオーラを背負いながら警棒を磨く王ヶ城がいた。
「な、なにあれ」
俺はこっそりと二人の元へ近寄り、震える声でそう尋ねた。
「さっき、香坂と廊下でコントぶちかましてたろ」
答えてくれたのは総一だ。頷く俺。コントって言うには、身体の節々が痛すぎる。
「あれに王ヶ城がご立腹なんだよ。さっきから不穏な事呟いてる」
「……なんだよ不穏なことって」
そう言うと、総一はiPhoneを取り出し、録音したらしい音声ファイルを再生する。
『殺す……あの女絶対殺す……撲殺っていう物がどういう物か、その身をもって思い知らせてやる……そういえば、家に日本刀があったっけ……あれで人間パズル作ってやるのも殺害方法としてはありだわ……』
悲鳴を上げることさえできなくなり、俺は泣き出しそうだった。
「こわい……」
「隣の席のヤツとか最悪だろうな。見ろ、王ヶ城の隣になれて先月幸せのピークにいた小嶋の姿を。浮気がバレて、マジで殺られる五秒前みたいな顔してるから」
小嶋くんの顔はこっちから見えないが、確実に泣いていると思えるほど、生まれたての子鹿みたいに震えている。そりゃ、隣の席の子が殺害予告呟きながら警棒磨いてたら泣き出すだろうな。
「小嶋……王ヶ城から消しゴムを借りたり教科書借りたりするんだ……って自慢してた小嶋……」
戦死者を尊ぶように、空へと視線を彷徨わせる優作。っていうか目標小さい。せめて友達になるくらいは言おうぜ。
「まさか、あの言葉が死亡フラグになってたとはな……。現実のフラグ立ては厳しい」
むむむ、と腕を組んで唸る総一。
「現実にはフラグ立てなんて作業ねーけどな」
小島くんへの追悼で忙しいらしく、二人への俺のツッコミは、虚しく空を切った。
「つか、よく録音なんてできたな?」
「近寄るだけなら楽勝だからな。お前に現実の辛さを教えてやろうと思って、録音してきた」
「せめてその努力を、俺が来る前に王ヶ城をなんとかするって方向で使ってほしかったんだけど」
ぐいっと、総一の顎を掴み、頬を寄せてタコ唇を作らせる。
「いや、一応したんだぞ?」
喋っても何を言っているかわからなくなるだろう総一に代わり、庇うようなタイミングで優作が割って入ってきた。
「隣に座ってる小嶋くんに、クラス総出で「隣なんだからなんとかしろ」って」
「小嶋くんをあまり使わないであげようぜ!?」
かわいそうすぎるだろ。針のむしろって言葉が似合うあの状況で、あれ以上何かしろというのは厳しい。ガンジーとか連れて来ても厳しそう。
「でもな、小嶋くんには厳しかったんだ。王ヶ城のひと睨みで、ビビる小嶋というアダ名を頂戴した」
「あれでビビらない人間はいないと思うが……」
教室のど真ん中に殺人鬼がいるようなもんだ。
そう言う意味では、異能かミステリ系ライトノベルっぽいな。絶対に行きたくない世界観ではあるが。
「あれを何とかできるのは、王ヶ城のハートをゲットしたアンジーだけだろ!」
と、優作が俺の肩をバシンと叩いた。いてーよ。
「ゲットした覚えはねえんだけど」
「事実だよ。お前のアイテム欄に入ってる。多分どっかの敵倒した時にドロップしたんだろ」
と、総一が弁当でもつつきながらするバカ話をしだす。この状況でそんなこと言うかお前。
「ゲームじゃねえんだぞ。っていうか、誰かぶっ倒しただけで手に入るハートって安すぎるだろ」
「ハートの価値はプライスレス、と……」
「深いな……」
優作と総一が、なぜかうんうんと頷きあっている。
「さっきから歩風といい、なんで深い事言おうとしてるんだよお前ら。流行ってんの?」
「……歩風? 歩風、って。香坂か? いつの間に名前で呼ぶように――」
優作の疑問がすべて発せられる前に、王ヶ城が静かに机から立ち上がった。
クラスが一瞬鎮まり、王ヶ城は警棒を引きずりながら、ふらふらと教室の扉へと向かっていった。
「……香坂歩風……殺す……」
「待って王ヶ城さん!!」
ダメだって殺傷沙汰は!!
俺は王ヶ城の腰に抱きついて、なんとか前進を止める。
「殺すなんて物騒な事言っちゃダメだって!」
「なら、言う前に殺るから……!」
「いや、殺すってのがダメなんだって!」
「じゃあ半殺しで……」
「だから殺すって文字が入っちゃダメなんだってば!!」
ヤンキーじゃねえんだから、そんな殺す殺すって言わないで。
「名前が意味を持たない様にしてやる……」
「遠回しになっただけで意味は変わってねえ!!」
どんだけ暴力振るおうとしてるんだよ。
いや、確かに香坂は逃げ切れそうだし、仮に捕まっても警棒を防げそうだが。しかしだからと言って、さすがに王ヶ城が罪人になるのは勘弁したい。証人喚問とかで俺呼ばれそうだし。っつーか、俺が原因で歩風が死んじゃ寝れない。
死んだら枕元に立ってラブソングとか熱唱しそうだし。
「アイツ邪魔なの、殺したいの」
「邪魔だからって殺してちゃ、日本の人口激減だよ!? お願い止まろう! その警棒を下ろして、邪魔者だろうと敵だろうと手を取り合おうじゃないか! その為の協力なら俺、なんでもするから!!」
「……いま、なんでもするって言った?」
ピタリ。王ヶ城の動きが止まる。
俺は確実にマズイ事を言った。だって、教室がざわついたもん。
「今の王ヶ城相手に、なんでもするとは……」
「勇気あるんだかないんだか。とんでもねー男って事は間違いないな」
という総一と優作の声が後ろから聞こえてくる。
いや、つーか、王ヶ城の腰に抱きついて「なんでもする」ってすごい情けない状況である。
「じゃあ、私も雨梨って名前で呼んで」
「え……そんなことでいいの?」
頷く王ヶ城。
なんだ、てっきり婚姻届に判を押せとか、手足引きちぎって地下室で永遠に私に飼われてとか言われるかと思った。
いや、それは絶対に断るけど。
「んじゃ、雨梨」
「うん……もう一回……」
「雨梨」
「も、もう一回だけ……」
「雨梨ー」
「ぐへへへ……」
顔を緩め、まるで世界一甘ったるい砂糖でも食べたような顔をする王ヶ城――じゃなくて、雨梨。
「も、もう一回だけ!」
「もうやだよ!!」
何回名前呼ばせんだ。
こういうバカップルのノリ俺嫌いなんだよ!
「はあ……。頼むから、バイオレンスなノリはよしてくれ」
「うん、ごめんね。杏樹くん」
そう言って、警棒をたたんでポケットにしまい、王ヶ城は自分の席に戻った。
俺も、優作と総一の輪に帰還した。
「なあ、この写真、よく撮れてるだろ」
総一は、先ほど俺が王ヶ城の腰に抱きついている写真が写ったiPhoneを差し出してくる。
「消せ!!」
渋々総一が写真を消したのを確認した所で、先生が教室に入ってきた。
……全然寝れなかった……。
■
で、俺は結局、その後の授業は全部寝て過ごした。
いや、プラモ作って学業を疎かにするのってどうなんだろうと思わなくもないのだが、しかし普通の高校生ってそんなもんだよな?
「う、んあー……あ……」
起きて、席に座ったまま伸びをする。
「いやあ、寝たなー」
朝の精神的疲れから、妙に深く寝てしまって、夢さえ見なかった。
「はい、杏樹くん。今日のお弁当」
いつの間にか俺の隣に立っていた雨梨が、いつもの弁当箱を差し出してくる。
「おー、サンキュー雨梨」
受け取ると、雨梨が俺の前に腰を下ろした。総一と優作が、遠くの席で手を振っている。今日は助けてくれないようだ。
ま、たまには男友達から離れて、雨梨と一緒にっつーのも悪くねーか。
俺達が弁当の包みを開いていると、校内放送のスピーカーからチャイムの音が聞こえてくる。
「ん?」
思わずスピーカーを見る。見なくてもいいのに、何故か音の発生源と見ちゃうよな。
『王ヶ城雨梨さん、香坂歩風さん、深澄杏樹くん。至急、生徒会室に来てください』
それだけ言って、ぶつりとスピーカーが切れる。
「俺と、雨梨と、歩風? なんだろう?」
「さあ……」
突然の呼び出しに戸惑った顔を見せ合い、俺達は弁当を中断し、立ち上がった。
そこに駆け寄ってきたのは、総一と優作の二人。
「おいおい、今の声、会長だろ? なにやったんだお前ら」
優作が心配そうな顔をするので、思わず不安に駆られてしまう。
「な、なんだよ。会長ってそんな有名なのか?」
「有名だぞ。規則に厳しい、死刑執行人みたいな女だって」
なんだよ、死刑執行人みたいな女って。
思わず、秘密結社メンバーとか魔女裁判の拷問官みたいなのを想像しちまう。頭巾で頭を隠してる感じの。
「公正させたヤンキーは数知れずと言われてる……」
「数知れない程ヤンキーがいる学校ってのが、そもそも問題じゃね?」
総一の言葉にツッコミを入れる俺。っていうか、ここは至って普通の公立高校なので、更生させなきゃいけないほどのヤンキーは居ないはずだが。
まあちょっと心がグラっと来たが、それでも行かないわけにはいかない。
二人との会話を打ち切り、俺と雨梨は生徒会室へと向かった。
■
「失礼しまーす」
分厚い扉を開き、生徒会室に足を踏み入れる。
初めて入ったそこは、なんだかどこかの社長室を思わせる。長机の先に、ものすごく重たそうな木製の机があり、そこに一人の女子生徒が座っている。
「ようこそ、生徒会室へ」
その女性は、一言で言えばとても気品がある容姿をしていた。
三つ編みの黒髪を背中に落とし、水晶のような目。老若男女が振り向くであろう、見栄えのするスタイルで、制服をかっこ良く着こなしていた。
「……ぎんちゃん」
隣に立っている雨梨が、おそらく生徒会長のアダ名を呟いた。
「雨梨、ちょっと目立ちすぎよ。恋愛にお熱になるのはいいけど、学校内で警棒振り回したりはやめなさい」
と、会長は親しげな様子で雨梨と話しながら、くるくると人差し指で手錠を回している。
物騒なアイテムから分かる通り、間違いなく二人は友達だ。
「一応、先生から注意しておくよう言われてね。これで、注意一よ」
「わかった、気をつける」
頷く王ヶ城。会長とはどういう関係なんだろうなー。
……って、そうなると、なんで俺呼ばれたんだろう? 首を傾げていたら、それが会長の目に止まったのか、会長は微笑みを俺に飛ばした。
「久しぶりね、杏樹」
「は?」
久しぶり? 会ったことねーよ。顔だって初めて見たし。朝礼とかめんどくせーからいっつも教室で寝てるもん。表彰とかされない限り、関係ないしね。
「……」俺はジッと会長の顔を見つめた。
でも確かに、さっきからどこかで会ったことあるような気がしていた。
どこだっけ? 大分昔――ほんと、物心つく頃だったと――。
「――あっ!!」
悪寒と同時に、俺の古い記憶が蘇ってきて、身体が震えた。
「ぎ、
その、生徒会長は――
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