1章 紅をまとう獣

1.異変

 大城おおき山――そこは、「カミ」と「アヤカシ」が存在する山。

 現代になってもなお昔からの信仰が根強く残り、人ならぬモノたちが跋扈ばっこするところである。この山を総べる「カミ」は「アヤカシ」と「ヒト」の共存を図り、平静を守っていた。



 異変は、はるか遠く北の方角からやってきた。複数の影と、大きな焔をまとった犬神である。

 山の中腹にいくつもの影が飛来し、赤い焔とぶつかり合う。力と力の衝突は大きな渦を生み出し、地をえぐる。戦いは次第に激しさを増し、様々なものを破壊していく。


 この山に住まう者たちは、異変を遠巻きにして見守っていた。山のものに危害を加えられない限り、外からきた者たち同士の戦いには決して手を出さない。それがこの山の掟だったからだ。


 やがて、ひときわ大きな衝撃が走り、すべての音がやむ。

 戦いに勝利したのは、影たちのほうだった。影たちは地に伏す犬神を取り囲み、大きな力を持った「何か」を奪った。


 役目を終えた影たちは、もと来た方角へと去って行く。

 後に残されたのは、血だまりの中に倒れ伏す、一匹の犬神だった。


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