第9話 減速と加速

自警団の訓練所に着くと同時に正午になったようでどこからか鐘の鳴る音が聞こえてきた。

訓練をする前に食事を済ませておいた方がいいだろう、訓練所の裏なら人通りも少ないので誰かに見られるということもないだろうしそこで血を飲むことにする。


獣の血、獣人の血と飲んだので今回は人血を飲む、血液の入った小瓶を開ければ果実のような甘い香りが広がる。

味や香りは桃その物だが甘さに対してのどが渇くような感覚はなくむしろスポーツドリンクを飲んだ時のような体に染み込むような感覚だ。


例えるなら獣の血が果汁の入っていない林檎ジュースで獣人の血は果汁100%の林檎ジュース、人血は桃味のスポーツドリンクといった感じだろうか

人血は全基礎ステータスに+2のボーナスがあるのもうれしいが値段的に普段飲むのは獣人の血になるだろう。

昼食も済ませたし訓練所に入ろう。




訓練場に入るとソフィアさんはすでに準備を済ませていたようで昨日訓練した時と同じ装備で待っていた。

早速受付で訓練費を払ってソフィアさんと訓練用のスペースに移動する。


そこでふと思ったことを口にする。

「そういえばプレイヤーも普通にこういう施設で働けるんですね」


「ええ、お給料も出るしロールプレイとか暇つぶしには結構いいわよ?」


「へぇ…って僕の訓練してたら給料ってどうなるんですか?」


「訓練官にも給料は出るしむしろ受付やってるよりも多いくらいだからその辺は心配ないわ」


「そうですか」

僕の訓練に付き合ってお金がもらえなくなっていたりしたらどうしようかと思っていたのでちょっとほっとする。


「そういえばベル君は随分と装備が変わってるけど訓練もその状態でするの?」


「ええ、実戦だとこの状態だと思うのでしようかと」


「なるほどね、じゃあ早速始めましょうか」


「お願いします」



基本の構え方等は昨日やったので今回は昨日と同じように省略して木製ナイフを使っての実戦形式で訓練をする。


昨日と違う点はまず装備だ、種族の基礎ステータスが高いからかあまり差は感じないがコートの内側の小型ナイフやレイピア、新調したブーツ等で重量はそこそこ増えているので昨日ほど素早くは動けないかもしれない…大した差ではないかもしれないが…。


そしてユニークスキルの自動迎撃、これ一つでソフィアさん相手にどこまで対抗できるかはわからないが効果はかなり期待できるだろう。

と言っても自動迎撃はまだ使ったことがないスキルだから不安要素がないわけでもない、自動迎撃の効果で一番強力なものは奇襲攻撃や致命的な攻撃に対しての自動発動だがロータスの話では致命的な攻撃に対しての自動発動は吸血鬼だと無効化されるかもしれないという。

理由は吸血鬼の種族特性で即死攻撃が無効化されるかららしい、厳密には吸血鬼であろうと即死攻撃が無効なわけではなく純粋に自分の体力以上のダメージを受ければ即死はあり得る。

だが他の種族と違い吸血鬼には四肢欠損無効化があるため頭部や首、心臓といった他種族ならたとえ体力が残っていっても攻撃による負傷で1撃での死亡があり得る場所への攻撃で死亡することがない(ダメージ倍率自体は他種族ほどではないが高い)そうだ。


つまりスキル効果の致命的な攻撃が1撃での死亡を指す場合相対している敵に対しては自動発動することがない、その場合訓練では木製ナイフを使うため例え他種族でも急所に攻撃を受けて発動することはないのだが、逆にこの訓練中に自動発動すれば吸血鬼でも効果があるということだ。


だが、まずは自分で発動して使用感をたしかめる方が先だ。




ソフィアさんが踏み込んで距離を詰めてくるのを確認して、それに合わせて自動迎撃を発動する。

二歩目と同時にソフィアさんがナイフを振りかぶった瞬間時間が止まったように感じる、だが完全に止まっているわけではないゆっくりとではあるがソフィアさんは動いている。


これならソフィアさんの動きに対応できる、そう思って動こうとするのだが自分の体の動きも服を着て水の中を進むかの様な速度でしか動かない、スキルで強化されるのは知覚だけだということか、だがこの状態なら種族としてのステータスの高さを限界まで活かすことができるだろう。


考えるのはこの辺にしてソフィアさんとの訓練に集中しよう。

ソフィアさんのナイフを持つ手は確実に僕の首を狙っている、この攻撃なら昨日は慌ててナイフで受けるか大きく飛び退いていたが、余裕のある今なら半歩下がるだけで躱すことが可能なはずだ。


ゆっくりと動く自分の体にもどかしさを感じながら半歩後ろに下がりナイフが目の前を通り過ぎるのを見届け今度は自分がソフィアさんの首に向けてナイフを振りぬく、ゆっくりとソフィアさんの顔に驚愕の色が浮かぶが直ぐに屈んで躱し僕のナイフ同じようにも空を切る。


屈んだソフィアさんは低い姿勢のまま腹にナイフを突き出してくる。

半身になってぎりぎりでナイフを躱し急いでナイフを逆手に持ち替えてソフィアさんの背中に振り下ろすがソフィアさんは躱された瞬間に僕を体当たりで吹き飛ばす。


僕の体がソフィアさんの体当たりによって浮き上がるのと自動迎撃の効果が切れるのは同時だった。

ゆっくりと浮き上がったと思った瞬間発動中とのギャップで対応が間に合わず受け身を取ることも出来ずに地面にゴロゴロと転がる。


そこで一度仕切り直しとなった。

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