第10話 自動発動と反撃と

「ベル君一日で随分と動きがよくなったわね、、筋がいいのかもね」

話しながら立ち上がる僕に手を差し出してくれるソフィアさん

「そうですか?」

スキルのおかげです、とは言えないので適当に相槌をうっておく

「うん、昨日は動きについてくるだけでいっぱいいっぱいって感じだったけど今日は反撃する余裕もできてるし、ちょっとびっくりしたわ」


「自分でもここまでやれるとは思ってませんでした」


「あはは、じゃあその感覚を忘れないうちに再開しましょ」


「はい」


僕が立ち上がって構えたところで訓練再開、さっきは自動迎撃を自分で発動させたが今回は自動発動するか確かめるために自分では発動しないでやってみよう、自動で発動するかわからないのでさっきのように上手くいくかはわからないが…。



先ほどと同じようにソフィアさんが踏み込む、攻撃は?

腹への突き、何とかナイフで反らしながら避けるがソフィアさんが反らされたナイフを跳ね上げて首を狙ってくる。


その瞬間ナイフの迫って来る速度が一気に落ちる。

発動した!即死じゃなくてもダメージ倍率の高いところへの攻撃に反応するようだ。


発動したのはいいが、ナイフがここまで迫っている状態では受けることも避けることもできない

いや、自分の身体能力で無理でも後ろに倒れれば避けられるかもしれない


どうせこのままじゃどうにもならないのだ、思い切ってやってしまえ!

体を後ろに倒すと意外なほどあっさりとソフィアさんのナイフを避けることができた、掠るくらいは覚悟していたのだが…。


このまま倒れたら速攻で追撃を食らうことは間違いないので背中を反らして床に手をつく、現実ではバク転なんてできないと思うがスキルのアクロバットと吸血鬼のステータスの高さを信じてやってみる。


アクロバットスキルの補正なのか体は思った通りに動いてくれ足がゆっくりと持ち上がっていく、その先にはソフィアさんのナイフを持った手、ついでに持ち上げた足でそのまま蹴り上げる。

ソフィアさんのことだからナイフを取り落とすことはないだろうが一瞬でも隙をつくることができればいい、そう思ったのだが蹴りはソフィアさんのナイフをその手から弾き飛ばす。


いける。


着地して体勢を立て直すと同時に今度は僕が踏み込む、ソフィアさんの首めがけてナイフを振る

その瞬間目が合ったソフィアさんはニヤリと笑っていた気がして背中に悪寒が走る。


もう手を引き戻すことも出来ないのでそのまま振りぬく、だがソフィアさんはさっきの僕と同じように後ろに倒れぎりぎりでナイフを躱す。

そこで自動迎撃の効果が切れる。

急に早くなった時間の流れに焦りながらも慌てて腕を引こうとするがソフィアさんの両足を腕に絡められそのまま横に倒れるようにして引き倒される。


そのあとは抵抗する間もなく関節を極められたままナイフを奪われて終わった。

今回も負けてしまったが自動迎撃が問題なく発動することが分かったので良しとしよう。

自動迎撃の効果が切れた直後の速度のギャップに慣れるのはこれからの課題になりそうだ。



「ベル君すごい!!まさかあそこで避けられるとは思わなかったわ、首を狙ったときの振りがもうす少しスマートだったら投げも避けられたんじゃないかな?大振りは隙が大きいからここぞというときほど気を付けないとね」

ソフィアさんは立ち上がるとすぐに褒めつつもアドバイスをしてくれる。

「はい気を付けます」



こうして途中に休憩をはさみつつ夕方まで訓練を続けた。





「ありがとうございました」


「ええ、私は当分ここで受付やってるから訓練がしたかったらいつでも来てね」


「はい、じゃあ明日も来ますね」


「あ、明日は時間的にログアウトしてるかな…1時間ほどでログインするから明後日はいると思うけど…」


「明後日ですか…それだとちょうど入れ替わりでログアウトしてるかもですね…」


「それならフレンド登録しておきましょうか、ログイン状況もわかるしメッセージで確認もできるから」


「そうですね、お願いします」


早速視界にポップしてきたフレンド登録のウィンドウの承認ボタンを押す。


「じゃあこれからもよろしくね」


「はい、よろしくお願いします、それじゃあ僕はこの辺で」

そういう訳で今更ソフィアさんとフレンドになったところで訓練所を辞去する。


この後の予定は決まっていないが取り敢えずロータスと会うことになっているので初日の待ち合わせ場所と同じ噴水のある広場へと向かう。



噴水広場の近くのベンチで座って待つこと10分

一応メッセージは送っておいたのだが返信が来ていないのでもしかしたらまだ何かしているのかもしれない


適当にその辺の店でも見て回ろうかと思って立ち上がった瞬間真横に何かが落ちてきてゴロゴロと転がる。


「いやぁ、ベル君お待たせ」

ロータスだった…。


「お前いまどっから来た?」


「その建物の屋根からだけど、まぁ取り敢えずそれは後で話すからさ、今日は何か成果はあったかい?」


「ああ、即死じゃなくても自動迎撃は発動するってことはわかった」


「おーそれは朗報だね!」


「それで、お前がそこの屋根から降ってきた理由は?」


「いやまぁ今日私がやってたことにも関係があるんだけどね、エクストラスキルにパルクールって言うのがあってさ」


「パルクール?」


「んーと、フリーランっていえばわかるかな?」


「あー、建物の間とか飛び越えたりするやつな」


「そうそう、掲示板に取得方法が上がってたから確認がてら取りに行ってみたんだ」


「それで?」


「見ての通り取得してきました」

うざいくらいのドヤ顔で胸を張るロータス

「取得してきたのはわかるけど屋根から飛び降りてくる理由にはならなくないか?」


「すいませんでした屋根の上走り回るのが楽しくて調子乗ってました」

なんとなく話を聞いてる途中でそうだろうとは思っていた。

なぜか謝罪するロータスを見つめているとがばっと顔を上げて言い訳をするように叫ぶ


「でもちゃんと取得できるか確認してきたんだよ!?すごくない!?すごいよね!?ほめろ!」

言い訳というかなんか最終的に開き直った…。

というか掲示板に書かれていた情報ならそれはロータスじゃなくてその情報を書いた人がすごいのでは?

「まぁよくわからないけどすごいんじゃないか?」

よくわからないので、適当に返しておく

「ベル君あんまりすごいと思ってないだろ…」


「あぁ」


「あのねベル君、エクストラスキルって言うのは取得するのがそこそこめんどくさいだけじゃなくて、掲示板に上がってる情報は偽情報だったり罠だったりもするんだよ?それをぼっちで調べてきた私の努力をもっとほめたたえてくれてもいいんじゃないかな?」


「なるほど、確かにそれはすごいな」


「でしょ?」


「あぁ」


「というわけで夕食の後はそのスキルを取りに行こう」


「ところでそのスキル取得の条件ってなんだ?」


「ん?NPCに教えてもらうだけだよ、訓練はちょっと面倒だけど2時間ほどあれば取得できるよ」


「それ掲示板にその情報が上がってるならみんなそのNPCの所に行くんじゃないのか?」


「さっき言ったろう?掲示板に上がってる情報はその質が保障されてるわけじゃないんだよ、だから今日明日その場所が混むってことはないと思うよ、私はベル君が取得するまで掲示板に情報を上げるつもりはないしね」

つまりわざわざ僕のために確認してきてくれたって事か…。


「そっか、ありがとな」


「え?あ、うん…まぁ私が取りたかったってのもあるんだけどね」

照れたように笑いながら言うロータス、普段からこうだったらかわいいんだけどな…。


「それじゃ取り敢えずご飯行こうか、っても食べるのは私だけだけど」


「ああ」


こうしてこの後の予定も決まったのでロータスの夕食を食べる店を決める為に街の中を二人でぶらぶらと歩きだした。

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