第8話 早朝の買い物1~2
宿屋を出てロータスと街を歩き幾つかの店を回る。
最初に寄った薬屋では遮光ジェルを幾つかと食料用に人血とアンデットポーション数本を購入した。
店を出たところで朝食をとっていないことを思い出してアイテムパックに買ったものを仕舞うついでに獣人の血を取り出す。
「なにそれ」
取り出した血液の入った小瓶を不思議そうに見るロータス
「獣人の血、朝食べてなかったから」
「なるほど、てかさっきの人血もそうだけど完全にただの血だよね」
「まぁ、実際血だしな」
言いながら小瓶の蓋を開けて中身を一気に飲み干す、獣の血とあまり変わらないが獣人の血の方が少しさっぱりしてて飲みやすい気がする。
「うっわ生臭いよベル君、本当にただの血だよそれ」
そういいながら顔をしかめるロータス、自分には甘い匂いしか感じないのだがそれは吸血鬼だからなのだろう、これからは人前では血を飲むのは控えよう。
「それで次はどこへ行くんだ?」
「服屋かな、初期の服ってただの布だし防御力ほとんどないから早めに買い換えた方がいいからね」
ということでロータスの案内で服屋へ、まだ日が出てから大した時間がたってないこともあり閉まっている店も幾つかあるのだが目的の店は開いていたようだ。
大量の服や布が棚に大量に並べられているがどれがいいとかはさっぱりわからない、そもそもこのゲームにおいて服の防御力や耐久値は数値化されていないのでフレーバーテキストが頼りなのだ、そのフレーバーテキストもいまいちピンとこないのだが…。
一人でフレーバーテキストを見ては頭に疑問符を浮かべてを繰り返しているとロータスに呼ばれる。
「ベル君、この辺のやつが防刃素材でできてるからこの辺から選ぶといいよ」
「防塵?ガス対策?」
「違う違う、そっちの防塵じゃなくて刃を通さない方の防刃、刃物とかの攻撃をある程度防いでくれるの、まぁ刺突とかに対してはあんまり意味ないけどね」
「あぁ、なるほど、そんなのがあるってことは防弾素材も?」
「あるにはあるけどゲームの時代設定的に繊維の防弾素材はないから全身を覆うものだと相当重装備になるよ、まぁ防弾用の防具を急所とか手足に着けるのはいいかもね、気になるんなら後で防具屋にも行ってみるかい?」
「そうだなちょっと見てみたいかな」
「じゃあ武器屋行った後で行こうか」
話しながら地味な色の物を探していると真っ黒のコートが目に留まる。
フードもついているので昼に外を歩くのにも困らなさそうだ。
詳細のフレーバーテキストを見ると防刃効果と遮光効果があるようなことが書いてある、はっきりとあると書いてくれればいいのにと思いつつもまぁそういうものだと無理やり納得して買うことにする。
「ベル君またそんな真っ黒なの買って、もうちょっとこう明るい色のとか選びなよ」
そう言ってロータスが手に持っているのは真っ白なコート
「やだよそんな悪目立ちしそうなの、てかそれ女物じゃん」
指摘した瞬間すごく残念そうな顔をするロータス、絶対着ないからな?そんな悲しそうな顔をしてもだめです。
「真っ黒っていうのも逆に目立つと思うんだけどなぁ…」
ロータスの残念そうな呟きは無視して自分の選んだコートを購入してさっそく着替える。
今まで着ていたコートは何かに使うかもしれないので取り敢えずアイテムパックに入れておく、というかアイテムパックのサイズ的に絶対に入らないと思うのだがなぜかすんなり入ってしまう、謎だ。
結局ロータスが選んだコートは自分で購入したようでロータスも購入したものにさっそく着替えたようだ。
同じデザインの色違いなので並んで立つと微妙な気分になるのだが、まぁそんなことを口にすると揶揄われるのはわかりきっているので黙っておく、それに気にしてもしょうがない。
他に買う物もないので店を出ると見知った人と遭遇する。
「あら、ベル君奇遇ね、そっちは彼女さん?」
「え?ソフィアさん、違います違います!!こいつは全然そんなんじゃ」
「そんなに必死に否定しなくてもいいだろ!!」
揶揄うように言うソフィアさんの言葉を否定すると急に怒り出すロータス
「別に必死ってわけじゃないけど…」
そんな僕とロータスのやり取りを見てクスクスと笑うソフィアさん
あぁ面倒なことになりそうだ…そんな予感に自然とため息が漏れるのも仕方がないと思う。
数分ほど横でロータスがギャーギャーと騒ぎそれに対して適当な返しをする僕とそれを見てクスクスと笑うソフィアさんという謎の組み合わせで歩いていたのだがロータスが急に落ち着く
基本的にロータスは勝手に騒いで勝手に鎮静化するから面倒と言えば面倒だが特に何もしなくても勝手に収まるのだから扱いに困るわけでもないそういう奴だ。
「で?この人は?」
急に落ち着いたロータスが少し真面目な顔で問いかけてくる。
「自警団の訓練所でナイフの訓練してくれたソフィアさん」
「ベル君、君NPCに訓練してもらったって言わなかったっけ?」
「ん?だからそのNPCがソフィアさん」
「ベル君…この人はプレイヤーだよ?」
「え?」
そんなまさかと思ってソフィアさんを見るが不思議そうな顔をしてこっちを見てるだけだ。
「訓練所のNPCが訓練所の外を出歩くわけないだろ!!」
なるほど!!…でも訓練所での会話はこの世界の住人そのものという感じだったのだが…。
「あー、訓練所の受付してるときはロールプレイでそれっぽく振る舞ってたんだけど…まさかNPCに間違われるとは思ってなくて…」
本当にプレイヤーだったぁあ!!
「ほんとすいません、あまりにも違和感がなかったもので…」
「いいわよ、初心者をだませるくらいには役にはまってたって事でしょう?」
そう言って笑顔で許してくれるソフィアさん
「そりゃもう、もともとこの世界にいた人みたいでした」
「まぁ、ベータテストからやってるからね、それより今日はナイフの訓練は?」
「今日も訓練所に行くつもりです」
「そう、私は昼からまた受付の仕事してるから私でよかったらまた声かけてね」
「はい、今日もお願いします」
「じゃあ私は買いたいものがあるからまたお昼にね」
「ええ、またお昼に」
ソフィアさんを別れた後ロータスが妙に静かなのに気付く
「どうした?」
「ベータテスターのソフィア…しかもナイフ使い…」
「おーい?」
「あぁ、いや何でもないよ、次の店行こうか」
そう言って歩き出すのだがそのまま次の店に着くまでロータスはどこかぼーっとしたままだった。
「あ…ごめんちょっと行きすぎっちゃった」
そう言って来た道を引き返すロータス、これで三度目だ。
ソフィアさんと別れてからというものずっとこの調子なので少し気にはなるのだが聞いても答えないので(声をかけたこと自体に気付いてない可能性もあるが)自分から言うまでは放っておくしかない。
そうしてどこか上の空なロータスの案内で何とか武器屋に到着する。
武器屋と言ってもたいていの店に置いている物は一般市民向けの護身用の物が殆どで品揃えはよくはないらしい、というわけで今着ているのは自警団や軍に武器を納入している店らしいのだが他の店と比べると少し値段が高いようだ。
ロータスも店に入って数分ほど経ったところで立ち直ったのか考えることをやめたのかは分からないつも通りの雰囲気に戻って鼻歌交じりに武器の陳列された棚を眺めている。
まぁよくわからないが普段通りに戻ってくれたならそれで良しとしよう。
今持っているナイフはまだまだ使えそうではあるのだが昨日の野犬との戦闘の一撃だけで刃が欠けてしまっている、初期装備だけあって耐久度はそこまでないのだろう、できるだけ長く使えるように丈夫そうなものを選ぼうとは思うのだが服同様に武器のステータスも数値化されていないのでフレーバーテキストが頼りだ。
だがやっぱりこのフレーバーテキストという物はいまいちピンとこない言い回しが多い、ナントカの材料でできているとかどういう作りだとかそんな文章の後に一言「割と丈夫」とか「そこそこ丈夫とか」付け加えられているだけなのだ、なんだよそこそこ丈夫って、割と丈夫とどう違うんだよ…。
一人で悩んでいる間にロータスは必要なものを買い終わったらしく声をかけてくる。
「何かいいのあった?」
「いや、フレーバーテキストだけじゃいまいちピンとこなくてさ」
「まぁあんまりあてにならないからねぇ、実際に持ってみて重さとかバランスとかそういうので選べば問題ないと思うよ」
「そういうもんか」
要するにリアルで道具を選ぶのと同じ感覚で選べって事か?だがナイフなんて普段使わないものを選ぶ基準というのがよくわからない。
考えてもきりがなさそうなので実際にもってしっくりきた物でいいか…。
そういう訳で適当に幾つかのナイフを手に持ってみて一番しっくり来たナイフを買うことにしたのだが、選んだナイフのお値段なんと金貨8枚、他のナイフが平均金貨2枚前後なのを考えるといくらなんでも高すぎる。
気になってフレーバーテキストを見てみる
ダマスカスナイフ:
一部の地方でのみ生産されるダマスカス鋼で作られたナイフ、非常に強靭で薄い金属板程度なら簡単に切り裂ける。
なんか聞いたことある単語が出てきた、ダマスカス鋼って生産方法が途絶えて再現できなくなったんだっけ?
そんなことより今までのナイフのフレーバーテキストはそこそこ丈夫とかだったのが非常に強靭って表現になっているあたり耐久度はかなり期待できるんじゃないだろうか、値は少し…というかかなり張るがこれにしよう。
ロータスは買うときに払った金額を見て一瞬驚いたようだがナイフのフレーバーテキスト見たら納得したようで何も言わずに頷いたのでどうやら値段に見合うだけの物ではあるようだ。
早速新しく買ったナイフを腰のシースに差して今まで使っていたナイフは店のNPCがおまけだと言ってくれたブーツ用のシースに差す。
ついでに買った投げナイフ用のナイフ入れをコートの内側に着けて洞窟で拾った小型ナイフを差せば見事に全身ナイフだらけだ。
投げナイフは外から見えないからパッと見だとそうでもないか…?
こうなってくるとナイフ以外使わない気がしてくる、洞窟で拾ったレイピアと槍は売ってしまおう。
この店は買取もしているみたいなのでちょうどいい、ロータスがそのくらいの間合いの武器もあった方がいいというのでレイピアを1本だけ残して槍とレイピアを売りレイピアの鞘を買う。
レイピアはそこまで高くなかったが槍はあまり出回っていない武器ということでそこそこの値段で買い取ってもらえて合計で白金貨1枚と銀貨5枚、ここでの買い物の支出と合わせて考えれば金貨1枚プラスだ。
買い物しに来たのに結果的に所持金が増えてるっていうのは不思議な感覚だ、ゲームショップで古いゲームをまとめて売って新しいゲームを買うときの感覚に近いかもしれない…というか全く同じだな。
取り敢えずこの店でやることはもうないので防具屋へと移動する。
入った店は防具屋といったものの実際は金物屋で防具のみを売っているわけではないようだ。
ゲームの設定では防具屋という物はなくこういう防具も扱っている店をプレイヤーがまとめて防具屋と呼んでいるらしい。
店に入ってロータスの先導で鍋やら包丁やらが並んだ棚を通り過ぎて、籠手や胸当てが並んだ棚の前へ
「ベル君は近接武器しか持ってないからこの辺の軽いやつの方がいいかな」
そう言ってロータスが差した棚の防具は確かに軽そうなものが多い、この中から選ぶとしよう。
胸当てはコートの内側のナイフを取るときに邪魔になりそうなので着けない方がいいか…というかナイフ入れとそこに入ったナイフである程度の攻撃なら防げそうではある。
籠手は買っておくべきだろう、脛当ては重そうなので金属板のついたブーツにしておく、腰に着ける装甲もあったがレイピアを装備するなら邪魔になりそうなのでこれもパス
買ったのは籠手とブーツでこれも早速装備する、これから訓練だからレイピアを腰に提げているのは邪魔かもと思ったが「実戦で使うなら常に提げてるんだから訓練中も装備してた方がいいんじゃない?」とロータスに言われたのでレイピアも装備する。
店を出た後はロータスはやることがあるというのでその場で別れ、僕は自警団の訓練場へと向かう。
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