第5話 罠と箱

『見るからに怪しいですね』


「怪しいですね」

怪しいのだが罠は確認できない…スキルの説明で隠蔽された罠は発見できないことがあると書いていたのでスキルに頼りきるのはいけないかもしれない…。


そう思いつつ隠蔽された罠がないか箱の周囲をじっくり観察する吸血鬼とグール…傍から見ると別の意味で怪しそうだ。


箱の周囲には何もないことを確認してからゆっくりと箱のふたを開ける、少し持ち上げたところでナイフを差し込んで何もないか確かめる、ゆっくりと動かしていくと案の定何かに引っかかる。


グールに箱のふたを持ってもらって隙間をのぞき込むと罠につながっているであろう糸が見えた。

罠を確認した瞬間今まで感じていた違和感がなくなり箱の端の方に罠がある事が感覚でわかる。


一度確認すると隠してあってもスキルが有効になるようだ。

どやら糸を切ったらそれで解除できるようなのでもう一度ナイフを差し込み糸を引っ張らないようにナイフを滑らせて糸を切断する。


他に罠がないかそのままナイフを横に動かして何もひかっからないことを確認してからふたを開ける。


ふたを開けると箱が爆発する、なんてことはなく箱に仕掛けられていたのはさっき解除した罠だけだったようだ。


グールと中身を確認すると白金貨5枚…白金貨は金貨10枚で1枚なので金貨50枚分だ…が入った袋とよくわからない液体の入った注射器3本、それに小さな箱が一つ。


「白金貨5枚ってかなりの額じゃないか…こんなところになんでこんなに…」


『まぁ普通あの数の罠を全部解除できる人なんてなかなかいませんからねぇ…ここに隠した人もそれで安心してたんじゃないですかね…あ、硬貨は全部持って行ってください、ここには私たちだけでは来ることはできませんでしたし、私たちには人間の金は役に立たないので』


「いいんですか?これだけの金があれば薬とか武器とか結構買えると思いますけど」


『そもそも街に入ることができないですから…持っててもあまり意味がありません』


「なら僕が代わりに何か買って来ますよ」


『そうですねそれなら確かに…でもまぁ今はあなたからもらった薬以外は私たちには必要ありません、それにここまで来たのも罠を解除したのもあなたですからこの箱の中身は全てあなたの物です』


「ではまた何か必要になったら言ってください」


『わかりました、ありがとうございます』

というわけでプレイ1日目にしてとんでもない額の金を手に入れた…。


「それにしてもこの注射器はなんなんでしょう…」

ポーチの中に小銭袋をしまってアイテムウィンドウの所持金額が増えたことを確認しつつグールに尋ねる。


『なんでしょうね…街の薬師ならわかるんじゃないですか?』


「そうですね、街で調べた方がよさそうですね」

アイテム名も謎の注射器と書いてあるだけで詳細にも謎の液体が入った注射器としか書かれていない、謎だ…。


「残ったのは箱の中身は…!?」

言いながら箱の中から残った小さな箱を取った瞬間、スキルが反応して罠があったことに気付く。

直後バシュッっという音とともに小さな箱の置いてあった場所から煙が噴き出てくる毒ガスか何かの類だろう。

クソッ最後の最後で油断した、慌てて横で呆けているグールを抱えて跳ぶように箱から離れる。

だが煙の広がりが速く、逃げようと走り出す前に周囲が煙に包まれる。


すぐに息を止めて逃げ出そうとするがグールに止められる。

何を…と言い居たいのを抑えて呼吸を止めたままグールを見るとあろうことかグールは目の前で大きく息を吸う。


『やっぱり…ベルさんこの煙は吸っても問題ないです』

グールに言われて半信半疑で息を吸うが確かに何ともない…。

「これは一体…」


『これはたぶんダチュラの毒でしょう、人間には猛毒ですけどアンデットポーションの原料に使われるくらいなので私たちには害はないです』


「どうしてそんなことが?」


『匂いです、アンデットポーションと似たようなにおいがしたので…』

言われてみると確かに煙からは薄らと花のにおいがする。


「なるほど、そういうことか」


『まぁ煙が出てきたときはさすがに驚きましたけど使われていた毒がこれでよかったです、それよりその箱の中身を確かめてみましょう』


「え、えぇ」

やけに切り替えの早いグールにちょっと戸惑いつつ箱の中身を確認する。

これだけ大量の仕掛けに守られていたのだからきっとそれなりのものが入っているはずだと淡い期待を込めて箱のふたを開ける。


そこに入っていたのは

「これは…指輪、だな…」


『指輪ですね』

指輪だった、大きな宝石が付いているわけでもなく、凝った装飾があるわけでもなく、ただの銀色の輪っか、結婚指輪か何かかと思って内側を見てみるが文字が彫られているわけでもない。


「なんですかねこれ」


『なんでしょう…まぁ売れば多少のお金になるんじゃないですかね?』


「そうですね…」

あれだけの仕掛けに守られていたものがなんの変哲もない指輪だということが分かりちょっとがっかりする。


『戻りましょうか』


「はい」


取り敢えずこれ以上は何もないようなのでもと来た道を戻って、洞窟の奥でグール・ロードに挨拶を済ませた後報告のために街に戻ることにする。


だいぶ時間を食って日の出も近いのでできるだけ急いで街に戻った方がいいだろう。

所持金にも余裕があるので遮光ジェルを買えばロータスと一緒に昼に外を出歩くこともできるだろうがナイフの扱いにはまだまだ不安が残る、もう何日かは自警団の訓練所でナイフの訓練をする方がいいかもしれない、なんにせよ朝になれば一度ロータスと会うことになっているのだからその時に決めればいいか

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