3

 四人がバラバラに返事を返して、やばい乗り遅れるって、どたばたしながら霊園を後にする。


 車椅子ごと運ばれて、体を色んな方向に揺らされながら。俺はそこで振り返った。



 日向――。


 まだ線香の煙が立ち上る、日向家の墓を、遠ざかっていくそこを、じっと見つめる。

 日向の姿はどこにもない。

 あるのは線香の煙と花束……。

 日向は、もういない。


 墓場は相変わらずがらんとして、落ち葉が風で舞っている。

 それを見て、少しだけ心細くなってしまう俺を一際強い追い風が呑み込んだ。

 それがあいつからの激励みたいに思えてきて。後ろ髪引かれる思いを胸にしまい。俺もこれから、この瞬間から新たな道へと旅立つのだと、自身に言い聞かせ。


「あばよ、日向」


 ゆっくり顔を前に戻して呟いたら。





 ――あばよ、先輩――。





 そう、どこからか聞こえたような。


 気がした。


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