第17話 コンビニアローン
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「突然で悪かったね、じゃ、体に気をつけて」
「おう」
「決めるのはマサだからさ、もし引き受けてもいいかなって思ったら知らせてよ、あいつらも喜ぶから」
「ああ」
「なんかあったら、いつでも電話してこいよ。待ってるからさ」
見えなくなるまで手を振る木下と駅前で別れ、俺は仮眠を取るべく自宅に戻った。
監督、か……。
俺が監督ね……。
はっきり言って無理だろ。俺なんかがチーム一つ背負えるわけない。あの純粋な目をした中学生達の期待を裏切るのは非常に心苦しいが、俺も俺で今は他に気を回せるほど余裕がない。別のことで気を紛らわせるくらいなら、俺は、あのコンビニで自分の過ちについてのケリをつけたいのだ。
ケリをつけないまま、別の場所に行くことは……。多分きっと、逃げることと同義だ。
俺は、まだ向き合えていない。日向の死因が俺だとわかっても、この世に留まり神出鬼没に現れる日向とはまだ一度も向き合っていない。
怨んでいることは知っている、俺から歩み寄ればとり殺されるかもしれない。だとしても――。あいつを、ちゃんと成仏させてやらなければならない。
竹中さんでも、平井さんでもない。それは、俺がやるべきこと、俺の役目だ。
◆◆◆
今日も夜勤は店長と二人。の、はずだったのだが……。
入店してからどれだけ時間が経っても店長は現れない、おかしいな、なんて夕勤の長瀬さんと話していたら、店に電話が掛かってきて。どうやら店長、車が故障したとかどうとかで少しばかり遅れてくるらしい。
「なんかタイヤがパンクしちゃったらしいよ、出発直後に気がついたみたいで」
「へー、パンクってそんな簡単に気づけるものなんすね」
「これが結構違和感あるんだよ、車体傾くし、ハンドル切りにくいし。あ、そっか袴田君いつもバイクだしね」
「ええ、あんま車乗る機会なくて」
「そうそうパンクってないから、たぶん悪戯かなー。自分でするにしても業者手配するにしても、時間結構かかるだろうし、これじゃあ店長もすぐにこれないだろうなぁ、お気の毒に」
どうせここから先は客が来ても両の指におさまるかおさまらないかだ。一人だろうが二人だろうがあまり変わらない。
在庫整理や発注に関しては別だが、接客には問題は生じない。数時間すれば店長も来るだろう。
俺がこの前体調を崩したことを知っていた長瀬さんは心配してか、店長が来るまで残ろうかと提案してくれたが、俺はそれを丁重に断り、長瀬さんには時間きっかりに上がってもらった。
それから三十分――。
カウンター内で大きく伸びをする。
案の定、客なんて一人もきやしない。
いるとすれば、雑誌コーナーのガラス張りのところに突っ立って、今日も俺をじろじろ眺めているボロ服女が一人ぐらい。
竹中さんとヤグラのお陰で女は外から店の中に入ってくることも、この店に出入りする人間にも干渉できないようになっているから、前みたいになにかされることはないのだけれど。
……。マジでそんな見つめるよな。
別の方を向いていても視線だけは真横から刺さってくる。
一人じゃないならここまで気にすることはないのにな、店長、早く来いよくそ。
あんたのバーコード頭で気でも紛らわさないと、視線で俺の頭に穴が空きそうだ。
「フー……」
竹中さんは今頃実家でのんびりしているんだろうな。他の二人も、今どうしているだろうか。
平井さんはまた薄い本とか描いたりしてんのかな。青山さんは……、つか、あの人プライベートでなにやってんだ。想像つかない。
深夜帯に流れるクラシックだけが店内に虚しく繰り返される。今夜は雲が分厚く覆って月も無い。車も通らない道路。樹海の木々が折り重なって作り出す、どこまでも広がって果てのみえない闇。
今まで一人で入ったことなんてなかったけど、ここのコンビニってほんと真っ暗で、静かすぎる場所にぽつんと建ってるんだなぁと、今更ながら思った。
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