第10話 出た

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 小動物の断末魔に似たような高い声で俺は鳴いた。

 心臓の辺りが痛い。

 目の前が白黒して、頭の隅からひやーっと意識が遠のく感じ。


 あ、やばい、……これ、気を失うんじゃ。

 ならばそっちの方が楽なのかもしれないと。


 俺はぐらぐら揺れる意識に身を任せようと思った。

 その時。


「――おい!おいおいおいおい!!頼むから気絶すんな!流石に二回もされたら堪らんわ!!」


 髪を垂らした女……。と思っていた奴がいきなり声を出してテーブルに身を乗り出してきた。


 今にも吹っ飛びそうな俺の意識を掴んで踏み留まらせるように、目の前に現れたそいつは、自身の前髪を乱暴に掻きわけてこう言った。


「っ、俺だ……!あんちゃん!覚えとるやろ昨日の……!」


 持ち上げられた前髪、俺の前に晒け出されたのは、厳つい吊り目に額に傷のある。

 目も当てられぬ程に酷い、血みどろの顔。


「あ……ひ、……い」


 顔面の穴という穴をおっぴろげ、限界突破する――俺。


「ぎぃいあぁぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 深夜零時過ぎ。

 俺の悲鳴は、オンボロアパート全体に響き渡った。


 壮大な絶叫。半端無いビブラート。


 赤いペンキでも被ってきたのかとも思えるそいつは、前髪を持ち上げたポーズのまま、叫び声を上げ続ける俺を、口を半開きにしたまま、あちゃーという顔で見ている。


「あ……ぁ、あ、ああ、あ……ッ」


 何十秒か叫び続けて、駄目だ流石にもう声が出ない。


 声が出ない上に恐怖で体も動かない。


 心臓は破裂したっておかしくないくらいなのに。


 どうして肝心な時に気絶できないんだ!!

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