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「ああ、あの話ねぇ、聞きたい?」
「一応。話の途中だったんで気になります」
「そうー、でも、言わない方がいいかしらね」
「ちょ、青山さん。もったいぶらないでくださいよ、俺も今日から深夜帯の一員ですよ」
「聞いたら怖くなるわよー」
「大丈夫ですよ、俺別に怖くないんで」
「んー、でも言わないわやっぱり。知らない方が良いこともあるのよ」
おい。
結局言わないんかい。
「もー、そんな顔しないのお」
そう言って頬をつんと突かれて。一瞬で俺の首筋からその下へ鳥肌が立つ。
ああ、幽霊よりもっと恐ろしそうなのが目の前にいた……。
「そんなに知りたいんだったら今度竹中くんに直接訊いたら?」
「竹中、さん……?同じ深夜の……」
「そうよ。彼、無愛想だけどかなりのイケメンよ、あたし袴田くんみたいなチョイ悪系も嫌いじゃないけど、竹中くんは清楚なイケメンって感じで乙女心がキュンキュンするのぉ」
乙女心……。
ははは。心の工事はもう済んでるってことですね青山さん。
「年は袴田くんより一つ上ね、本当にあんまり喋らないんだけどいい子よ」
喋らないのかあ。人見知りしがちな俺と合うだろうか、少し心配になる。
「大丈夫よぉ、仲良くなればそれなりに喋れるようになるわ」
「だといいんですけど」
無愛想って聞いちゃうと、ちょっと怖いな。
「うふふ、頑張ってね応援してる」
「はい。あ、平井さんって人はどんな人ですか?」
さっきも言ってたけど。ここの夜勤は青山さんと竹中さんと、平井さんを中心に回してるって言ってたよな。
残る平井さんはどんな人なんだろう。この際だからついでに聞いておきたい。
「平井さんはー……、そうね、一言で括ると“不思議ちゃん”ってところかしら」
「不思議ちゃん!?」
「うん、別にいい子なのよその子も、でも、どこで覚えたのか変な言葉を使って話すのよねえあの子、本当、あたしは深く突っ込まないんだけど。おかしな言葉使うの」
「へー……」
なんなんだろう。
変な言葉って。宇宙と交信してるとかいう電波ちゃんなんだろうか……。
まさかなあ。
話だけ聞いて印象付けてしまうのは良くないけど。
ここの夜勤メンバーはどこよりも個性派が揃っている気がして、幽霊がうんぬんの前に、ちゃんと他の人達とやっていけるか俺は気掛かりで仕方なかった。
◆◆◆
「じゃあゴミ捨て行ってきてくれる?あ、ゴミ捨て場ってこの直ぐ裏にあるから」
青山さんにそう言われて、俺は中と外にあるゴミを纏めてコンビニの裏手へ。青山さんの行った通り、コンビニの直ぐ裏にゴミ捨て場はあった。
辺りはしんと静まり返り、むしむしした空気が立ち込める。
雑木林の中の暗闇は濃くて、見つめていたら吸い込まれてしまいそう。
本当に此処で人が死んでいるのか……。
良くテレビとかの話で出てくる、首を吊ったりとか、車の中で練炭吸って死ぬ人とかもいるのだろうか。
幽霊は見えないし、寧ろ信じていないから雑木林を見つめただけで全くなんとも思わないんだけど、この向こうで首を吊っている人間がいるかもしれないと想像したら急に背筋が少し寒くなってきた。
……早く帰ろう。
「――げっ!」
うわ最悪。
ゴミ捨て場に近づくと、他のゴミ袋に集っていた数十匹のゴキブリがわぁっと一瞬にして散っていった。
背中がテカテカした黒くてデカいやつ。今の時季、珍しいことじゃないけどそれにしたって、あれ、デカすぎだろ気持ち悪い。
食べ残しのチキンとか弁当とかに集るんだな。こんな場所でもゴキブリにとっては天国か。やだなあ、巣とか出来上がってんじゃないのあれ。これって絶対。遺伝子レベルの拒絶反応。
身を震わせ、そんなことを思いながら、来た道を引き返し、暗闇の中、
「戻りましたー」
自動ドアを潜って、カウンターに戻る。店内を見回すと案の定客は来ていないようだった。
そして。
「青山さん?」
青山さんもいなかった。
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