No.2 優子

優子 その一

 友人から結婚式の知らせが届いた。

 共通の友人二人が結婚するということもあり、素直に喜んだ。これは本当。

 同時に、なんとも言えない虚しさに襲われる。


「もう一緒に居られない。ごめん」

 そう言って先日彼氏と別れたばかりの私は、週末の自分のアパートで一人、夕飯を作っていた。ついこの前まで彼氏と楽しく一緒に料理を作っていたのになぁ。

 別れた理由はと問われれば、特にない。只一緒にいるのが苦痛になった。

 何となく結婚を意識しはじめて、「この人と一生一緒にいるのかな」と考えたら、もう駄目だった。

 他人と生涯一緒に暮らすなんて。考えただけでもゾッとする。

 弟からはつい昨日、「両親と縁を切りたい」とメールがきた。自分だけ縁を切ると姉である私にすべての負担がくるから、そこだけは悩んでいるとのこと。口裏を合わせて一緒に親から逃げようと誘われた。

 作ったパスタとスープをテーブルに運び、食べながら考える。

 両親が私に寄りかかってくるというならそれは確かにごめんだ。

 折角逃げるように遠方への就職を決めて、実家から逃げ出したのに。

 それにより弟には負担をかけた。そこは非常に申し訳ないと思っている。

 両親は決して良い人とは言えない。母は金遣いが荒いし、父は血の気が多くてトラブルばかり起こす。おかげで私と弟は結託し、助け合って生きてきた。弟の学費も多少援助してきた。

 弟は社会人になったら親と縁を切る、ねーちゃんもそしたら心置きなく縁を切られるだろ、とずっと言っていた。

 だけど、あんな親でも親なのだ。すっぱりと切り捨てることも憚られる。

 かといってあの親たちの面倒を見ろと言われるとそれは断りたい。

 パスタをフォークに巻き付けながら私は嘆く。

「血の繋がった家族さえ面倒事が耐えないのに、他人とずっと一緒に居られるわけがない」

 正直に言ってしまえば、私は両親のようにはならないと自信を持って言うことはできない。年を取っていくなかで、家族と喧嘩が耐えないとか、配偶者や子どもに辛く当たるとか、そういう姿が安易に想像できる。むしろそういう姿しか想像できない。

 外面だけは良いけれど、自我も自意識もプライドも高いと自覚している。あまり共感性が高いとも思えない。そんな私に幸せな結婚生活が訪れるとは思えない。

 世の中の人はどうやって結婚相手を決めるのだろう。何を持って「この人とならうまくやれる」と確信するのか。それともそんなこと考えないのか。私には、わからない。

 別に結婚願望がないわけじゃない。このままずっと独りで生きていくのかと思うとそれはそれで凄く不安だ。

 そう思って合コンなんかにも出てみるのだが。

 スープを飲み干すと、スマホが鳴る。見てみると、今まさに思い出していた相手からのメッセージが届いていた。

『ほんとに優子ちゃんてば天然だよな~。今度教えてやるから一緒に行こうぜ』

「うるさい」

『あれ?違ったかー。うん、そのうち行こうね』

 私は本音を口に出してから、メッセージを返信してスマホを置いた。

 会話の流れは忘れたし見返す気もないが、私の知らないちょっとしたことを、自慢げに話して、私がちょっと勘違いしたんだと思う。

 内面の荒さと共感性の無さを隠して振る舞った結果、どうやら私は少し内気に見えるらしい。その上時々会話が噛み合わないから、天然の扱いを受けることも多々ある。

 まぁ、要は最近の巷の言葉でいう、コミュ障というやつなんだろう。それを頑張って取り繕っているだけなのだ。

 世の中の男の多くはどうやらちょっと馬鹿な女が好きらしい。そして大抵優位に立ちたがる。

 悲しいかな、そんな男性陣からはそこそこモテてしまう。

 はっきり言う。うざい。

 ちょっとお馬鹿なのは…認めなくはないけど、持ち前のプライドの高さで人前でそれを認めたりはしない。

 人と関わらずに生きていけたら良いのに。

 でも関わらなければ虚しくて辛いんだろうな。

 ままならない人生だな、なんて思いながら私は食器を洗った。

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