Scene8 死んでも明日はやってくる sight of クリス
まえがきに代えた
オリジナリティなんてないほうが、判りやすくて面白いよねという人向き Scene8のあらすじ
CAST
《クリス》 《咲夜》
私小説系少女向けファンタジー風です
境夜は普通に暮らしていた。
でも、日本の普通に慣れた《アヤサ》は
クリスは休暇を終えて咲夜の女磨きをしようと決める。
注意事項
●歴史社会学的には、血統主義を基本とする封建社会では男女平等は社会構造的に実現できないとされています。
●同様に、奴隷制度を残すような差別制度がある場合も男女平等はあり得ず、最後まで残る差別が、マイノリティ差別と男女差別です。
●これは、マイノリティ差別が“ 弱者差別を必要とする階級制度 ”を原因として、男女差別が“ 政略結婚による利権確保を必要とする血統主義 ”を原因としているためです。
●
●この世界も私達の住む世界と同じで、名称を必要とするのは知性体のみです。
●クリスは甘さと優しさ、厳しさと残酷さを違うものと考えています。
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Scene8
死んでも明日はやってくる sight of クリス
文明に浸ってるうちに、《アヤサ》が、ラスボス色に染まっていた。
「くっ……これが孔明の罠」
思わず、訳の判らない事をつぶやいてしまう。
それくらい周囲が《芳桜院 境夜》の影響で変わってしまっていた。
別に境夜を教祖とした宗教結社のようになったわけでも、日本の文化が《アヤサ》に広められたわけでもない。
境夜自身が、人の上に立つのではなく、誰もを対等の友人として見るので、上意下達の人間関係は、それを周囲が望んでも生まれないのだ。
ただ、《アヤサ》の人間全てが、何かしらの影響を受けて、様々な方向に変わっていた。
様々とは言っても、ラスボスが君臨した《芳桜院学園》のように、《芳桜院 境夜》を中心にした変化なんだけど。
《極東の剣》も含めた一部の男どもは、おまえら、ホモなんじゃないのといいたくなるくらいで、境夜さんのためなら死ねるとか暑苦しく吠えてるような状態だし。
老害としか言えない様な長老連中なんかが、あんな孫が欲しかったなんてつぶやいてるし。
男に媚びるのを仕事とするような計算高い娘達でさえ、境夜さまのために働けて嬉しいなんて、演技じゃなく口にしている。
そして、極一部の人間だけが、境夜を見る目を憎しみに滾らせていた。
そいつらは、《アヤサ》の嫌われ者や鼻つまみ者の集まりというわけではなく、貴族に取り入って出世するためなら、《アヤサ》を犠牲にする事など平気でやりそうな連中と、村でうまく立ち回ってはいたが性根が腐ってると以前から密かに注意していたどうしようもないやつらだった。
嫌われ者や鼻つまみ者は、村八分だったのが境夜のおかげで《アヤサ》に受け入れられるものもいれば、今でも嫌われ者だが境夜にだけは一目置くもの、《アヤサ》から出て行ったものと多様だが、みんな、境夜の影響を受けて生き方を変えていた。
ゲームなら、常識外れの世界は、面白いで済むんだけど、現実、特にこの
簡単に説明できないけど、要はスキルに対する価値観や常識が一番変わったのが問題なのだ。
この《アヤサ》にいる人間は、わたしやキリトなどの一部を例外として、技能は持っていてもスキルを持っていない人間がほとんどで。
技能とスキルの違いはと言えば、技能は失敗があるがスキルにはないということだけなのだけれど。
ただ、それだけのことが、大きな差なのは間違いない。
どんな達人でも体調やアクシデントで、技を万全の状態で
けれど、スキルにはそれがない。
それに、技能から昇華した場合、スキルはその技能と同レベルになるし、ステータス補正のような不思議な力に補助されるのだ。
だから、スキル持ちとそうでない者では、自然と待遇に格差が生まれるのがこの世界なのだ。
それだけなら別に問題はないと思うだろうけど、スキルというのは金銭で買えるというのが前提だとどうだろう?
そう、自らを貴族と呼ぶ権力者達が、スキルを集めていくのだ。
この
けれど、発現したスキルを強奪するスキルを持つ者がいて、スキルを他の人間に移せる魔道具があるのだから、スキルは単なる富にすぎない。
女神によれば、表だっては行われていないが、
個人の研鑽や努力までもを、掠め獲る商人と奪い取る貴族。
そういったやつらの様々な誤魔化しの大本が、境夜が来た事で揺らぎ。
《アヤサ》の人間は、その様々な誤魔化しに気づかされたのだ。
後は人それぞれだが、悪事を働いて貴族社会でのしあがろうとかくだらない事を考えてる連中は、境夜が貴族社会には危険な存在と感じ、一方的に敵視しているという流れなのだろう。
自分に実害がなくても、“ 人から何かを掠め獲り奪い取る努力や能力が、
だから、そういう連中は、理由がなければ無理に創ってでも、出る杭を打とうとする。
つまり、無意識に《アヤサ》は、貴族社会という
普通なら、どんな強い力を持っていても圧倒的多数の人間の常識に個人が精神的に抗うことはできず、周囲に無意識に媚を売って生きるしかない。
常識からはみだした犯罪者やチンピラや、ひどい時にはただ弱い立場の者を、“ 肉体や精神への暴力 ”で捻じ伏せて、優越感にひたることで、自分は周りのやつとは違うと自分を誤魔化すのがせいぜいだ。
実際、女神に聞いたところでは、ここに連れてこられた人間のほとんどは、新しく貰ったスキルという力に依存してしまうらしい。
この
けれど、大量エネルギーの消費を前提とした科学の発達による期間限定の物質文明に匹敵する贅沢を、この
だから、
その中には、スキルとして
けれど、スキルの
次元が違うとは、こういう事をいうのだろう。
力の桁が違うのではなく、決まった枠組みを自分好みに造り替えるのでもなく。
まったく別の力で、別の枠組み自体を創造するのがラスボス《芳桜院 境夜》のカリスマだったのだ。
考えてみれば、《芳桜院学園》の外では普通に日本の常識がある世界だったのだから、《芳桜院学園》の支配者であるラスボスが《ルール・オア・ラブ》の世界観を創りあげたと考えるのは自然なことだ。
(ゲームでも、政治家の息子の攻略キャラが、世俗の権力が通じないから《芳桜院学園》に入学したとヒロインに上流階級の孤独を訴えるあざとい演出があったしね)
そして、二つの価値観がぶつかったときには、力づくで決着をつける。
そういった獣じみた方法が貴族社会の理屈で、獣の原理で人の真理を踏みにじれると信じるやつらの生き方なのだ。
だから《アヤサ》の現状を知られれば、そういった
重税でもかけてくるか、あるいは間接的な暴力で自分達の常識に従えと言ってくるか……。
「……世界を分岐させる稀人か。意味が解らなかったけど、甘く考えすぎていたのかもね」
「ぼさぼさの頭にパジャマ姿でゲームをしながら言っても、しまりませんよ」
いきなり、声をかけられて、びくんと跳びあがった。
「な、な、さ、咲夜!? ……びっくりさせないでよ」
「でも、貴方はもともと、この世界の女性差別をなくしたいと思っていたのでしょう? 奴隷制度や貴族制度をなくした後でないと、それは無理ですよ」
そんなわたしの様子などなかったかのように、咲夜はわたしの独り言に突っ込んでくる。
「聞いてたの…………うーん、それはそうなんだけどね」
「もとの世界の娯楽や安楽な生活に触れて、気が変わりましたか?」
心のどこかにあった想いを突きつけられて、また心臓がとくんと跳ねた。
確かにこの《アヤサ》の変化は、わたしが望んだ
わたしが知らない間に変わっていたってだけで、境夜を利用したわたしの方が、それに
「……言うわね。あなたって、そんな性格だった?」
けれど、そんな自分を認められずに、ついつい嫌味が口から出た。
「言うべきことを言わないのは、言わずに済む事を口にするよりも、害悪になりやすいと、境夜さんに教わりましたから」
「そう言えって境夜に言わ……違うわね」
あのラスボスがそんなに甘いわけがない。
友情を
無償で救いの手を伸ばしても強欲を許さないし、理想を守っても綺麗事を振りかざさない。
安寧は求めても怠惰を
自分を信じても自分だけが正しいとは思わないし、
優しくて厳しい《ルール・オア・ラブ》最凶のラスボスだ。
神に与えられた借り物の力で、借りものの正義を振りかざすどこかの正義の味方きどりが、まるっきり他人事でわたしに言った対等の相手に言うのなら価値のある台詞。
ふんぞり返って「自分の意志で戦わないものを助ける気はない。あんた達が自ら立ち上がりあがくのなら、手を貸してやろう」なんて、残酷な優越感丸出しの台詞を、《芳桜院 境夜》は決して言わない。
そんな器の小さな相手ならラスボスなどとは呼ばれない。
世界はいつだってその他大勢のためにあると《芳桜院 境夜》は言ってのける。
対等である事になど何の価値も見出していない心の裏が透けて見えるようなやつらと違い、誰も彼もが対等だと思っているから、《芳桜院 境夜》は対等の立場で手助けをしようとするのだ。
そして、一度、自分の意志でわたしのすることを手伝うと決めた以上、わたしが利用しようとしても突っぱねたりはしないし、わたしが少しくらい怠けても、わたし以上にわたしの意志をくんで動いてくれる。
けれど、わたしが、わたし自身の
人の意志を誰よりも尊重している境夜は、煽動や叱咤激励をしない。
それでいいのかを問い、考える事をうながし、選ぶことは求めても。
一時で消えてしまうような感情に訴えて人の意志を誘導したり、勝手な正義を押しつけて切り捨てたりもしない。
ただ夢を失ったものも、そういう生き方を選んだのだと、そのひとの意志をあるがままに受け入れるのだ。
係わった
そうして、取り残された人間は、ある者は自分の居場所を取られたと彼を
それを全て解った上で、受け入れる器の大きさと、とり残された人間の悲しみに共感していても、一時の感情より“ 取り残された者が大切にしたいと想っていた意志 ”を優先して進み続けるのだ。
例え、「俺を残して先に行け」と言われなくても、「置いて行かないでくれ」と懇願されても。
残された誰かを切り捨てるのではなく、いつか後を追いかけてくる事を信じて、泣きながら進む。
だから、《芳桜院 境夜》は最凶のラスボスなのだ。
現にわずか一月に満たない時間で、かつてのわたしの居場所は大きく変わってしまった。
わたしがいなくても地球は回る。
わたしが死んでも明日はやってくる。
自分がいなくても世界が続く。
それは、とても哀しいことだと、わたしは思う。
でも、それは、素晴らしいことだと、良くも悪くも、世界が人々の意志が続いていくことなのだからと、人の醜い面を知り尽くしたうえで、本気で言えるのが《芳桜院 境夜》だ。
だから、このままだと、わたしが望んだ場所にわたしの居場所がないなんて、笑えない事が起きるのは確実だろう。
《アヤサ》を中心に
甘やかしてグズってるわたしの手を引いたり、叱りつけて無理やりにでも奮起させようともせず、ただわたしの代わりにわたし以上の成果を上げる。
優しく厳しいラスボスが、そういった存在なのは《ルール・オア・ラブ》の
攻略キャラを好きだったはずなのに、意志の数値や愛情の数値が少ないせいで、
けれど、共通しているのは
それでいいのかと彼女は言っているのだ。
ラスボスが決してしない甘い対応だけれど、《ルール・オア・ラブ》でも信頼できる友人の忠告を
過去にそういった
人を遥かに超える神様以上の存在だったくせに、わたしをこの世界に転生させたまま放置しているあの女神とは違うようだ。
「だとしたら、あなたの意志か……高みから人を見てるだけなのが神様じゃなかったの?」
「神というのは人が創ったフィクションですよ。そして、わたしはこの
咲夜は、まるで境夜のような事を言って、真っ直ぐにわたしを見た。
その瞳に見える真摯さは、自分も他人も誤魔化さずに生きる《芳桜院 境夜》流そのもので、わたしにも自分を誤魔化さずに、はぐらかしたりせず答えろと言っていた。
一番、《芳桜院 境夜》に染まっているのは彼女なのだろう。
「そう。 だったら遠慮なく言うけど、わたしをなめないで、咲夜。 そろそろ休暇にも飽きたとこだったのよ。しょせん男どもに女のホントの気持ちなんて解らないわ」
わたしは、咲夜を見つめながら、その向こうにいる《芳桜院 境夜》の
「わたしは、この
そうやって空元気でもダメな自分を叱咤して、自分の
そうね、さしあたっては、この女未満のもと超越者を何とかしよう。
「それに咲夜、あなたも女でしょう? 境夜にべったりじゃなくて、女を磨きなさい。 こんな
そう言って、わたしは立ち上がった。
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あとがきに代えた
次回予告
《わたくし》は、女神と呼ばれています。
アルファにしてオメガなどとも。
やってる事は中間管理職ですけどね。
管理するのが
そう。人間なら、やってられないと投げ出すような仕事です。
人間も造物主も《わたくし》の仕事を増やすばかり。
感謝などいりませんが、世話をかけないで欲しいものです。
次回
Scene9
しかし、例外は常に存在する sight of 女神
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