Scene9   しかし、例外は常に存在する  sight of 女神









まえがきに代えた

  ダークで小難しい舞台裏なんて見たくないという人向き Scene9のあらすじ






 クリスを《転生》させた女神は人でないので、公正でしたが、非情に無情ひとでなしの支配者でした。


 それでも、今日も女神は、世界アルディを修復して管理して、世界を支えて修復のための魔法を平等に配っています。


 




注意事項




●人間社会は、‘私’でも‘貴方’でも、そして‘誰か’のためでもなく、その他大勢のために存在しますが、世界は‘誰か’や‘何か’のために存在するのではなく、‘誰か’や‘何か’とは世界の一部でしかありません。


●そして世界アルディにおいての造物主は、世界を好き勝手に改造するチートスキルを得た動物にんげんです。


●女神は、破壊は一切せずに、魔法で混沌化する世界アルディを補修する修理屋の精霊アペイロンです。


●《調整因子》とは、世界アルディの赤ん坊に異世界の知識データを移植した存在です。


●《ルール・オア・ラブ》の記憶は、造物主によって書き足されました。


●《フェーリス》は、知識データを移植するときの動物実験の産物です。


●《超越存在》は《フローレンス》です。


●《異界存在》は境夜です。




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Scene9

  しかし、例外は常に存在する  sight of 女神





phase0


 《改造者アルケー》の《調整因子クリス》への干渉を確認。


 一部の人間達には、造物主として崇められている《改造者アルケー》。


 その実、この世界アルディの調整や管理には関わっていないので、一部の人間達がいう悪魔のほうがその本質を表すには相応しい存在。


 時空を操るスキルを極限突破し、世界アルディに干渉して、この世界アルディ私物化わたくしする事を覚えた《知性体》。


 それが《改造者アルケー》。


 生命体もまた世界アルディの一部なので、《改造者》となった存在の多くは、生命の限界リミットとして存在する死を拒否して無限を得ようとする。


 その自我は無限の中で歪んでいき末期には世界アルディもてあそぶことにすら興味を失って自ら世界アルディの一部へと還元するか、自我を超越した存在アペイロンとして完成すテロスへいたる。


 スキルや魔術の本質は、世界の一部を混沌化して再編する事で、自然法則を歪める世界創造の魔法の残滓。


 原初の混沌から世界アルディを創造する過程で、世界を分解と再構成する混沌化システムを、完全には破棄せずに転用した世界の運営システム。


 故にだから不用意に、そして無制限に、使い続ければ世界アルディを自然法則が誕生する以前の生命も物質も、精神も情報も不確定あやふやな混沌へ還す。


 それを修正するのが《改造者アルケー》から世界アルディ基本設定スキルシステムへと変容した我等アペイロン


 それが、世界アルディ根本原理コンフィグシステム


 故にだから我等アペイロンは、《改造者アルケー》自体への干渉はできない。


 それが、世界アルディ摂理システム


 しかし、例外は常に存在する。


 《改造者アルケー》の行動はともかく、我等の作った《調整因子》や外界の《超越存在》に係わっているのは問題。


 故に、我等アペイロンは一部を分離して、一部の人間から女神と呼ばれる存在を生成する。


 生成完了。 自我意識をロード。


 



phase1


「まったく、この世界の維持管理をする我等アペイロンの身にもなってほしいものですね」


 受肉した《わたくし》は肉体の制御の不具合を確かめるために発声しました。


 動物実験という手間までかけたのに、《改造者アルケー》は、せっかく異なる世界の記憶データを人間の赤子にコピーした《調整因子クリス》に妙なゲーム記憶を書き加えて不良品だいなしにするし。


 《超越存在》は、世界アルディ基本設定スキルシステムを超越した干渉で《異界存在》をこの世界アルディに組み込んでしまう。


 更に《異界存在》の影響で《調整因子クリス》への補正までが、できなくなってしまいました。


 渾沌の影響が低いように、初期でのスキルを与えずに最高の肉体を構築して、抵抗値を高めた《調整因子クリス》でしたが、もう役に立たないようですね。


 辺境領域は、世界アルディの混沌による崩壊を阻止するための最前線だというのに、本当に、どうしたものやら。


 単なるデータでしかない記憶と違い、世界構造の一部で物質と不可分な《異界存在》を融合させることなく組み込むということは、別世界に世界アルディが侵食されるということ。


 混沌による侵蝕で生物が魔性化されるのとは違っても、世界アルディの管理システムへの負荷は同じです。


 しかも、魔性化した擬似生命のように単純な対処はできない厄介な存在です。


 《改造者アルケー》の干渉の補正で精一杯なのに、対処不能の《異界存在》が重なっては、どうすればいいのかさえも解りません。


 幸い、《異界存在》の影響で混沌化は抑制されているようです。


 《異界存在》が、《超越存在》の干渉である以上、世界混沌化の危機はないでしょう。


 《超越存在》は、目的意識や因果すら超越した理解不能の行動原理で行動しますが、世界を混沌化させるような存在ではありません。


 生命や物質が崩壊しても、世界アルディの管理システムである我等アペイロンが崩壊しても、そこまでで、再生不能レベルでの世界の混沌化は避けられるというデータが存在しますから。

 

 でも、言い換えるなら世界アルディ消滅の危機ではなくとも、世界アルディ崩壊の危機ではあります。

 

 世界アルディ基本設定スキルシステムを書き換える《異界存在》によって世界アルディ自体が変異するのは間違いないのですから。


 しかも、《異界存在》の行動原理も、生命の基本原理に近いので、肉食動物の行動原理を持つ現在の《改造者アルケー》との相性は最悪です。


 《改造者アルケー》の遊享あそび、人間の欲望を煽り操ったり生命を弄ぶような行為おこないは、満腹の肉食動物が獲物で遊ぶようなもの。


 対して《異界存在》は、生命を護り育てる事で共存していく、知性体が選ぶ生存戦略を基本としています。


 野生動物と人類の衝突が生存圏が重なることで起こるように、《改造者アルケー》と《異界存在》がぶつかるであろうことは、明らか。


 そして《改造者アルケー》が《異界存在》への直接干渉を行うことで、世界アルディ崩壊が起きる可能性は見過ごせない危険度です。


 《異界存在》は周囲に強い影響を与え、結果として《改造者アルケー》の思惑は外れたようです。


 推測ですが、《改造者アルケー》は、《アヤサ》で強い影響力を持つ《調整因子クリス》の嫉妬心や危機意識を煽って《異界存在》との対立を望んでいたようです。


 けれど、《異界存在》の影響で《改造者アルケー》の介入が妨げられたせいで失敗。


 《改造者アルケー》にできない事は、我等にもできませんから、唯一の対策手段として受肉しましたが……。


「とりあえず、情報収集ですね」


 まずは、この肉体に付与したスキルをチェックしましょう。


 《自己分析スキル起動スォームル・オーレン



名称 《199》


職称 女神

種族 人造生体

レベル 6561


プラーナ

 生気 20892 心気 68524


オーラ

 攻 撃 7974

 防 御 9292

 筋 力 5656

 敏 捷 6473

 知 力 8782

 魅 力 9494

 反応力 7071

 察知力 9646

 生命力 6514

 精神力 7264

 魔法力 8270

 器用度 4989

 幸運度 9071



スキル


《攻撃技術系》

 衝撃波 MAX

 斬撃波 MAX


《魔術系》

 魔術行使 MAX

 思考詠唱 MAX

 高速詠唱 MAX


《防御系》

 自動結界 MAX

 魔術抵抗 MAX


《武器操作系》

 剣術 MAX

 体術 MAX


《移動補助系》

 水中 MAX

 空中 MAX

 地中 MAX


《生成系》

 万物生成 MAX


《探査系》

 自己分析 MAX

 万象探査 MAX

 精神探査 MAX


《特殊魔法系》

 スキル強奪 MAX

 スキル付与 MAX



《特性系》

 魔法干渉無効 MAX

 魔法探査無効 MAX

 物理破壊無効 MAX

 生体異常無効 MAX



 そう。この肉体──《わたくし》は、女神と呼ばれています。


 アルファにしてオメガなどとも。


 やってる事は中間管理職ですけどね。


 管理するのが世界アルディなだけの。


 それでも、人間なら、やってられないと投げ出すような仕事です。


 そのためには肉体的スペックが問題となります。


 肉体生成に無駄なリソースはけませんが、破壊による再生成のリスクもあります。


 オーラによる能力増幅は、現在存在する《混沌化生物》の最高値の10倍程度。


 スキルは受肉時のデフォルトで生まれたこの肉体ですが、ベースは人造生体なので、生殖などの機能もなく生命とはいえない存在で寿命も最長で数ヶ月。


 使い捨ての肉体なので、初期異常のチェックは簡潔に済ましてと。

 

 チェック完了。


 早速、スキルが正常に働くかをねて、精神探査スキルを発動して、《アヤサ》を出て行った人間達の精神をスキャンしてみましょう。


 フィルタをかけて《異界存在》への印象をサルベージ。


 人間の印象というのは非論理的な感情データがノイズとして入りますね。


 動物的本能でしか動けないものは、行動の推測は容易ですし、データ価値が低い。


 なので、感情データ部分をノイズ補正して論理面に変換して破綻しないものを選択。


 要は、なんとなく気に入らないという部分やなんとなく好きという部分をカットして、思考を言語化する作業ですが、まともなものが少ないですね。


(気にいらねえ、ガキだったが。あいつなら辺境伯に一泡くらい吹かせてくれるだろう。だが手段を選んでるようじゃ、最後は貴族どもに喰われるだけだ。今のうちに逃げ出すのが正解だ) 


 どうも、群生動物のボス争い程度としか《異界存在》の行動を理解していないようですね。


 この種類の思考をカテゴライズしてフィルタリングで排除。


(他人を信じるという事は、自分自身の観察眼や生き方を信じられるかどうかということだ。結局、自分を信じられないやつや信じるべきものを持たない空っぽなやつに、他人を信じることなんてできはしない。でも、僕もそんなやつらと一緒だ。あいつは空っぽな人間には眩しすぎる。拒絶するか心酔してしまうしか、弱い人間にはできない。あいつから離れて、今よりマシな自分になれたら、あいつのそばに戻ろう)


 内省的で《異界存在》ではなく、そこから受けた自分自身の影響に思考がかれていますね。


 《異界存在》からの精神データを通じた霊体アストラルへの影響で、異界化が促進されています。


 《異界存在》は、渾沌を破壊するシステムとして作用するせいか、影響の強い生命体は、スキルの影響を受け難く探査が難しいのですが、だからこそ必要なデータともいえます。


 この種類の思考をカテゴライズしてフィルタリングで集積。



(アイツは、人間が好きなんだ)

(アイツは、人間を蔑まない)

(アイツは、信じられる人間だ)

(アイツは、無理をいわない)

(アイツは、厳しいくらいに優しい)

(アイツは、スキルを使えないのに凄い)


 様々なデータが集積していきますが、主観で語られる以上、誤差と矛盾は生じます。


 能動探査ではなく、あくまでも受動探査しかできないのが辛いところです。


 


 !? ……これは、《改造者アルケー》の世界介入!


 探査してるうちに、緊急警報が感知されました。


 世界の混沌化が加速されます。


 ああ、《異界存在》へ、本格的に干渉するつもりのようですね。


 人類も《改造者アルケー》も、こうして《わたくし》の仕事を増やすばかり。


 まったく、感謝などいりませんが、世話をかけないで欲しいものです。






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