Scene3 そう、まさに女の敵は女! sight of クリス
まえがきに代えた
ややこしい状況のシーンは読まない人向き Scene3のあらすじ
CAST
《クリス》 《マユスィー》 《芳桜院 境夜》 《咲夜》 《キリト》
スラップスティックコメディ風です。
クリスが前世でハマっていた乙女ゲーム《ルール・オア・ラブ》は、めんどくさい設定とシステムのゲームだった。
その
そして、咲夜はナイチンゲールからつけられた自らの名を告げ。
クリスは、女の敵は女と看破して。
境夜は自らを高らかにニートであると宣言する。
注意事項
●《ルール・オア・ラブ》は実在する乙女ゲームを元にしてはいません。
●《ルール・オア・ラブ》は国外でも発売されています。
●《芳桜院学園》は、序章Scene2で触れた境夜の母校です。
●狂気のマッドサイエンティストの呼称は、《ルール・オア・ラブ》ではなく、クリスの知人の脳内設定です。
●ある種の都市伝説が、“ 事実の一面を誇張したものである可能性 ”は否定はできません。
●クリスの貴族観は、物語ではなく中世までの封建貴族の実在の歴史に残る所業を基にしていて、異世界でもそういった本質は変わらないという設定です。
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Scene3
そう、まさに女の敵は女! sight of クリス
「ふぇーっ! なんかキラッと光ってるよ!?」
マユスィーが、
メガネのテンプル部分──黒いカーボンの端──にデザインされた金色の一文字は、右が芳で左が桜。
「な、なんで乙女ゲーのラスボスが、こんなとこにっ!?」
思わず、声が漏れる。
マユスィーに名前を聞いた時から、まさかとは思ってたけど、その男は間違いなく、通算1億を超える大ヒットシミュレーション系乙女ゲーム《ルール・オア・ラブ》を象徴する非攻略キャラにして、バッドエンドキャラ。
最悪のラスボスといわれた《芳桜院学園》生徒会長兼オーナー理事長だった。
ヒロインの攻略を邪魔するキャラといえば、通常はライバルの女性キャラ一人というのが普通なのだけれど、《ルール・オア・ラブ》は様々なキャラや状況が、ヒロインと攻略キャラの邪魔をしてくれた。
ライバルの女性キャラだけでも、アイドルや売れっ子小説家からキャバ嬢に義理の美人母といった変わりダネまで多種多彩。
加えて個別のシナリオに入ると他の攻略キャラに迫られたりするし、ホストやヤクザから医者に弁護士にパイロットといったヒロインを誘惑するサブキャラも現れてバッドエンドへと誘ってくれるのだ。
その中でも全てのシナリオで現れるのが、最凶のラスボス《芳桜院 境夜》だった。
他の誘惑キャラは、解り難くても選択肢を間違えなければ撃退できるのだけれど、《芳桜院 境夜》だけは、まるで魔性か何かのように《意志》のステータスが低ければ自動的にバッドエンドに誘われ。
《学力》が低いと補習に強制連行されたり、《コミュ力》が低いと生徒会下部組織の執行委員に強制加入させられたりして攻略フラグを潰され。
《一途さ》が低いとメロメロにされて、攻略キャラなんかどうでもよくなったり《SM気質》が高いとお仕置きで矯正エンドにされたりと。
他の攻略妨害キャラにない選択肢無視の強制バッドエンドをもたらしてくれるうえに、ランダム出現して、スゴク難解なバッドエンド直行選択肢フラグを、実にさり気なく立ててくれるという最凶ぶり。
しかも、攻略を邪魔する理由が“ ヒロインが真の愛を持っているのかを試す ”というもので、各攻略キャラのトゥルールートへの伏線になっているので、《芳桜院 境夜》抜きのイージーモードもあったけど、それでは真のエンディングを見られないというファン泣かせで。
ついた仇名が《ルール・オア・ラブ》最凶のラスボス。
その最凶ぶりは、腐った同人誌に《芳桜院 境夜》を描こうとした作家が、夢でメチャメチャ調教されて描くのを断念したとか、コスプレしようとしたら呪われただとか。
《芳桜院 境夜》のキャラグッズが出ないのは、メーカーに黒服の男達が現れて脅迫したからだとか。
あげくの果てには、ランダム出現を含めた《芳桜院 境夜》のバッドエンドをコンプリートすると、ホンモノの《芳桜院 境夜》が家に訪ねてきて、その人が望むバッドエンドを与えてくれるというような都市伝説が、まことしやかに語られていた。
そのバッドエンドだが、秘書として一生仕えるとか、メイドとして仕えるとかいう比較的マトモなものもあるが、変態性欲に目覚めてマゾ奴隷志願するとか、ヤンデレ化して殺人未遂で刑務所に行くとかの性格変貌ものや破滅的人生を送るものが多く。
《S陥としの究極S》とか、《無自覚人格破壊者》とか、《運命災害》とかの多くの二つ名で、一部のファンを虜にしていたことから生まれたもので、《芳桜院 境夜》が実在するなんて、少なくとも前世のあたしは信じていなかった。
けれど、この世界に転生させられた今となっては、《芳桜院 境夜》のコスプレをした男が現れたというより、本人が現れたというほうが自然に思える。
《芳桜院 境夜》は
中二病の知人が白衣を着たら何故か高笑いをして、自分を“ 狂気のマッドサイエンティスト《芳桜院 境夜》(笑) ”と名乗っていたから記憶に間違いはない。
「初めまして。キリトくんにはもう名乗ったけど、ボクは、
《芳桜院 境夜》役の声優の声は忘れてしまったけど、背筋にビンビンくる声優並のセクシー声で、境夜は真っ直ぐ、あたしを見つめて笑みを浮かべた。
笑わなければクールな美形なのに、人懐っこい笑顔って、どーなのっ!?
マズイ! どストライクだ!
唯でさえ、久しぶりの日本を感じさせる相手に緩みがちな心への染み入るような柔らかな笑顔の攻めに、クラクラしてしまう。
そう、実は一部の《芳桜院 境夜》ファンに、あたしも入っていたりしたのだ。
《ルール・オア・ラブ》の《芳桜院 境夜》も、最凶のラスボスなどと言われてるけれど、決して悪人ではない。
ええ、色々と欠けたところの多いけど天才的な一面を持つ攻略キャラと比べても、ズバ抜けた存在で、ヒロインが攻略キャラの才能に恋したのじゃないと示すための攻略キャラ以上の能力を示すキャラなのよね。
だから、超一流の天才的キャラ以上の能力を幾つも持つ超人キャラという意味のラスボスで。
最凶というのも、《運命災害》の二つ名通りで、結果的にそうなってしまうというヒロインの自爆によるものだ。
いつでも、境夜自身は善意で動く優しい人なのだ。
そう、だから……ええ……いくら《芳桜院学園》
「それで、彼女は
……って、咲夜?
そこで、あたしは初めて境夜の横に一人の女が立っているのに気づいた。
一目で“ 女の敵が女だと全ての女性に理解させるタイプの女 ”だった。
言っておくけど“ イケメン爆発しろなんていうような馬鹿な男の情けなくてくだらない嫉妬 ”とは違うわよ。
確かに女のあたしから見ても完璧な美貌とスタイルだけど、あたしが女の敵と断言できたのは、咲夜が“ いわゆる貴族の理想の淑女 ”と同じ雰囲気を持っていたからだ。
優しく美しくて心が強く、何時でも夫や子供の事を考えていて、そのために自分達を犠牲にする事を
教育というよりは洗脳に近い強制的に刻み付けられた価値観を疑わない“ 特権を持つ男達が創った男のための社会を支える生贄 ”だ。
自分達が生贄である事に幸せと喜びを感じ、他の女にもソレを押し付けようとする“ 血統による階級社会の狂信的守護者 ”。
そう、まさに女の敵は女!
その象徴のような美女だ。
「はじめまして。咲夜です。 咲花の女神と“ 夜に鳴く鶯 ”という意味を持つ名は、境夜さんにつけてもらいました。 あなたの御名前を
咲夜は、意味深にも思える笑みを浮かべて、自分の名づけを境夜が行ったと告げる。
境夜と同年代に見える咲夜の名づけ親が境夜とは思えないから、改名したという事なんだろうか?
そういえば、《ルール・オア・ラブ》でもヒロインが生まれ変わるという意味で別名を名乗るイベントがあった。
ということは……いや、確かあの時の名は《恋華》だった。
咲夜はヒロインではないだろう。
第一、“ 自分では中の上と思っている磨けば光る容姿 ”どころか、咲夜は絶世の美女といっていいレベルの容姿だ。
どちらかといえば、改名したライバルキャラの誰かと考えたほうがいい。
わざわざ、そんな情報を口に出して告げた意味があるのだろうか?
それにしても────名前の《夜》の由来が、夜に鳴く鶯?
一瞬、意味が解らなかったけど
そこで、咲夜の名前の元が解った。
フローレンス・ナイチンゲールだ。
ここらでは
あたしが、転生者だと知ってるって暗に言ってるとかじゃないでしょうね!?
「クリスよ。ここらでは全部の名前に意味があるわけじゃないから、ただのクリス」
思わず名乗り返すのを忘れそうになったけど、なんとか平静を保ったまま名乗り返す。
計算スキルや高速思考スキルなしでも、それに近い能力を持てるハイスペックな頭脳にこの時ばかりは感謝した。
まあ、逆に日常生活レベルだとどんなに頑張ってもスキルが発現できるような頭の使い方ができないので、ハイスペックさはスキル習得という意味ではハンデなので、普段はあまり感謝できないんだけどね。
「はじめまして、境夜さんに咲夜さん。わたしはマユスィーなのです」
マユスィーも名乗って、あたしを振り返ると、ほにゃりとした笑顔を浮かべる。
「クリスちゃん、クリスちゃん。こんなとこで立ち話もなんだから、詰め所にいかない? わたし、ハーブティーになる花を摘んできたんだ」
どこか境夜の浮かべた笑みと共通する無邪気な笑顔だ。
「ちょっと待て。まだこいつらが信用できるかどうか────」
そんなマユスィーとは対照的に、キリトは警戒心も露に異議を唱えようとして。
「でも、二人とも盗賊団の人には見えないよ。お貴族様って感じでもないし、商人さんかな?」
マユスィーの緩やかな口調にさえぎられる。
こういった呼吸というかタイミングの上手さでは、あたしもマユスィーには敵わない。
「ボクはニートだよ。何も仕事もしてないし、何の修学もしていない。自由の徒という意味の言葉だね」
そのマユスィーの呼吸に合わせるかのように、間髪入れず、けれど、あくまでも自然に、境夜が言葉を繋げる。
「どうしたら信じてもらえるかは判らないけど、ボクは誰かの物を奪うつもりもないし、誰かを進んで傷つけようとも、誰かと敵対しようとも思わないよ。そうでなければ、ボクはニートを名乗ったりはしない」
ニート────それは、《ルール・オア・ラブ》最凶のラスボス《芳桜院 境夜》に似つかわしくない称号だった。
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あとがきに代えた
次回予告
フェーリス登場ですよ!
でも、フェーリスは、うまかゆです。
フェーリスは、とろけてしまいそうです。
マユスィーは、判ってます。
キリトさんは、わかってません。
クリス姐さんは、うるうるです。
でも、ああ……おいしそうなお肉の匂い……。
ううっ、もう我慢が……
「……脳が、もう──」知らない女のひとがいいます。
ああ……もう……さよなら
そう、それは、一人の少女を人でないものにした──ある悲劇の話
次回
Scene4
でも、ここが故郷ですよ sight of フェーリス
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