Scene2 異世界? どこの御伽噺だ。 sight of キリト
まえがきに代えた
荒っぽい男は嫌いという人向き Scene2のあらすじ
CAST
《キリト》 《芳桜院 境夜》 《咲夜》 《クリス》 《マユスィー》
勘違い系コメディーBL小説風です
エンカウント!
謎の女、
キリトは警戒している。
キリトの攻撃!
だが
クリスが、駆けつけた!
マユスィーが駆けつけた!
注意事項
●キリトは化学繊維もカーボン素材もレンズもメガネも知りません。
●キリトはスキルが境夜に通じないことに気づいていません。
●キリトのスキル信仰は、この世界では至極ありふれた常識的価値観です。
●キリトはボタンの存在も知りません。
●つまりキリトの知識は、クリスの伝えた一部を除いて欧州中世の聖書宗教圏の教会に自然信仰や知識を奪われた農民レベルです。
●これは、ぶつかりあう二人のBL系出会いシーンではありません。
●境夜の得意技はトラウマを掘り返すことのようです。
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Scene2
異世界? どこの御伽噺だ。 sight of キリト
奇妙な男だ。
恐らくは魔術師か何かなのだろうが、見たこともない生地の見たこともない形状の服に、顔には透明な板と黒い樹脂のような光沢を持つ素材で出来た飾りを着けている。
恐らく武術系のスキルも持っているのだろう。
剣を持つ俺を警戒した様子もなく、自然に立っている。
こう見えても、俺の剣術スキルは5で、クリスさんと互角。
つまり、アヤサ村では最強だ。
レベルと他のスキルでクリスさんには敵わないが、魔術なしの接近戦なら俺のほうが強いと認められている。
その俺から見ても、この男の近接戦のスキルレベルは判らない。
剣術などの近接戦スキルには、敵が同系スキルを持っていたなら大体の強さを測れるし、近接戦スキルがないのも直ぐ判るパッシブ効果がある。
つまり、こいつは俺と同程度かそれ以上の実力を持つ隠密戦闘型の近接戦闘スキルを持っているということだ。
辺境の村で最強といっても、剣の都とかだとせいぜい教範所の教官レベルだが、それでも大陸中の剣士の9割がスキルレベル4以下だそうだから、こいつがただの旅人のわけがない。
そう考えると、奇妙なあの飾りも何らかの効果を持つ魔道具だという予測がつく。
一見、何の防御力もないような服も、首の周りを囲む先の尖った三角の襟といい、服の前面に並んだ白く丸い飾りといい、特殊な力を秘めたもののようだ。
だが、俺の防具だって負けてはいない…………はずだ。
大甲虫の外殻にミスリルの裏打ちをしたクリスさん手製の一品なのだ。
「そこで、止まれ。この村に何用だ?」
俺は、そいつから眼を離さずに、真っ直ぐ指を伸ばした左手を頭の上まで上げて掌を相手に向けて制止をかける。
これは幾つかある合図の一つで、警戒すべき旅人が来た事を表している。
これで、離れたやぐらの上で見ているマユスィーとダアルが、クリスさんに知らせるはずだ。
「はじめまして。ボクは、
男は素直にそれに従い、無防備な笑顔をこっちに向けて名乗った。
冷たい印象を与える整った顔立ちが、笑顔を浮かべると、まるで無邪気にじゃれつく仔犬を思わせるような人懐っこさを感じさせる。
警戒のかけらもないユルイ雰囲気で、こちらがピリピリしてるのがバカらしくなってくる。
だが、人を馬鹿にしたようなふざけた自己紹介に加え、その時になって
男と同じ黒髪に黒い眼という極東辺境民族には珍しくない色彩の女だが、今まで気づかなかったのがどうかしていると思う程の美貌と美しい肢体の持ち主だ。
噂に聞く皇都の傾国の美姫──新皇帝が謀反を起こしてまで望んだというその美女──にも劣らないような女が、何故、こんな辺境にいるのか?
しかも、男に言われなければ、いた事にすら気づけないという事は、女が桁違いに高い隠密スキルを持っている事を意味していた。
異世界の旅人というのは、何かの例えなんだろうが、一瞬、それもアリかと思いそうになる二人連れではあった。
だが理性はそんな戯言を否定する。
異世界? どこの御伽噺だ。
そんなことを本気でいうやつは、頭がオカシイやつか詐欺師だろう。
こいつらが、そんな単純な相手だったらいいのだが、それにしては異様すぎる存在だ。
強力なスキルを持つ得体の知れない連中。
理性では警戒するべきと感じているのに、今ひとつ警戒心が湧かないのは、何かのスキルなんだろうか?
「俺は、アヤサ
「何といわれても────旅人としか答えようがないなあ。目的という意味なら、住みやすい場所を探してるというとこかな」
相変わらず緊張感のない態度で、ニコニコと締まらない顔で、何の裏もないのだと全身で示すように、
どうにも、やりにくい相手だ。
冷静に考えれば、うさんくさい相手なのに、俺の勘が、こいつは敵じゃないし嘘はいわない真っ正直なヤツだと、相変わらず告げているのだ。
一見善良な商人なのに、中身は人殺しも厭わないクズの凶賊なんてヤツや、貴族という身分を持ち高潔な顔を見せながら、心の中では人間を道具や家畜ていどにしか考えていないようなヤツ。
今までそういうヤツを見破ってきた俺の勘が、こいつはその逆のパターンだと告げている。
もし、こいつが村人だったら親友になれたんじゃないか。
そう思わせるようなやつだった。
だが、
だから、当てにしてはいけない。
高位の聖人が持つという人物鑑定スキルや、賢者が使う敵意感知の魔術ならともかく、勘は勘にすぎない。
「うさん臭い格好の割には、マトモそうに見えるが……それが逆にアヤシイんだよ」
こいつを信じられないのは当然の話だ。
怪しいやつを村に招き入れるわけにはいかない。
かといって、こいつを追い返してもそれで終わりとは限らない。
こういう時はクリスさんを待つのが一番なのだ。
だから、そう告げれば良かったのだろう。
だが、妙な罪悪感のようなものが俺にそう口走らせた。
「マトモそうなくせに裏のありそうなやつよりも信用できないな」
「────それは、初めから誰も信じられないって言ってるように聞こえるね。キリトくん」
これで、突っかかってきてくれるか、俺を説得しようとしたなら良かったのに。
浮かべていた笑みを引っ込めて、少し寂しそうな瞳で、境夜は俺のそんな態度の裏を見透かすように見つめて、人の心に踏む込んでくる。
カッと頭に血が昇る音がしたような気がした。
アンタは、あたし達が信じられないの?
かつて俺を悲しそうな目で見たクリスさんと境夜が被る。
なんで、出会ったばかりのコイツに、あんなミジメな想いを見透かされねばばらない!?
そんな想いが湧いてきた。
ガキの頃の黒歴史というやつだ。
女なのに自分より何でも上手く出来る年上の幼馴染が嫌いだった。
いや、好きだったのにくだらない意地のようなものが、その事を俺に認めさせなかったのだ。
憧れを認められずに、クリスさんにやつあたりする馬鹿なガキだった。
そうして、俺は周りも巻き込んで反発して、その結果、危なく村の若衆を二つに割る抗争を起こしそうになったのだ。
身を捨てたクリスさんの説得とダアルの両親の仲介がなければ、今のこの村の発展はなかっただろう。
でも、あの時は間違っていたが、今は何も間違っていない!
こいつは信用ならない余所者で、得体の知れないやつだ。
「言ってくれるな……! だったら信じさせてみるか? 俺と勝負しろ! 勝ったらオマエを信じて通してやるぜ」
気がつくと俺は挑発するように、薄笑いを浮かべて、境夜を見ていた。
こいつの化けの皮を剥がせば、こんな想いを吹き飛ばせる。
そう感じたせいだ。
「キリトくん。────それは違うよ」
だが、境夜は俺の挑発をなかったかのように、静かな声で俺の名を呼び。
首を横に振って続けた。
「暴力の使い方が上手いかどうかで、正しさを判断する方法論を間違いと思わないかい?」
お前は間違っている。
そのセリフの意味が解ると同時に、俺は怒りにまかせて境夜に斬りかかっていた。
流石に剣を鞘から抜いたりはしなかったが、剣術スキル5の斬撃は鞘のままでも骨を砕き肉を抉る。
「待ちなさい、キリト!」
後ろでクリスさんの声がしたような気がしたが、その時には全てが終わっていた。
俺は、まるで剣を握ったばかりの素人のように、剣の重さに振り回されて不様に地面に転んでいた。
いつの間にか、剣の間合いから大きく離れて境夜が俺を困ったような顔で見ている。
「ちょっと、しっかりしなさい。貴方もごめんなさいね」
「大丈夫? キリトくん」
クリスさんが俺を叱るときの口調でいい、マユスィーさんが俺に手を差し伸ばしても、俺は訳が解らずにいた。
今、何が起こった? 剣技を出そうとした瞬間に何かをされた?
いや、境夜はただ後ろへ間合いをとって
じゃあ、何で俺はこんなとこに転がっているんだ?
「ふぇーっ! なんかキラッと光ってるよ!?」
「な、なんで乙女ゲーのラスボスが、こんなとこにっ!?」
戸惑う俺の耳に、マユスィーとクリスさんの混乱した声が聞こえてくる。
この混沌が、俺達の出会いだった。
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あとがきに代えた
次回予告
通算1億を超える大ヒットシミュレーション系乙女ゲーム《ルール・オア・ラブ》を象徴する非攻略キャラにして、バッドエンドキャラ。
全ての攻略シナリオで現れる恋愛妨害キャラ。
選択肢無視の強制バッドエンドをもたらす男。
ついた仇名が《ルール・オア・ラブ》最凶のラスボス。
そう、それが────《芳桜院 境夜》
次回
Scene3
そう、まさに女の敵は女! sight of クリス
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