第一章 Rule or Love 女なら女性解放の魁を目指さなきゃね   < 9scenes 辺境開拓領アヤサ村編 >

Scene1  何が、聖母たちの子守唄よ! sight of クリス



まえがきに代えた

ナマイキな女は嫌いという人向き Scene1のあらすじ


CAST

   《クリス》 《ダアル》 《マユスィー》




女性転生者一人称、ダイジェスト版風です


造物主デミウルゴスの遊びの後始末に奔|走する女神に転生させられたクリスは、ヘンタイを倒し、今までの回想をして、《芳桜院 境夜》と出会った。

 





注意事項


●Scene1は、ダイジェスト版などではありません。


●本人は気づいていませんが、クリスはだいぶ異世界に染まっています。


●クリスは、“ 悪人にも人権はあるが、人非人は、人権を自ら放棄した存在 ”と考えています。 これは、死刑存置派が殺人鬼ではないのと同じ理屈です。


●人権という概念は、貨幣経済が発達して商人達が封建領主の暴力に対抗できる力を得た近世に、“ 平等な人としての共存共和 ”の概念を基に反抗の大儀として発明されました。


●危険ですので、下から突き上げるような肘を鳩尾に入れるのは止めましょう。

  特に相手が息を吐いた状態で○○の部分を狙うと内臓が損傷し死ぬ場合があります。


●全ての変態は駆除すべきという過激な思想は、当然人権侵害です。ただし作者は変質者を擁護するわけではないので、御間違いなき様、御願いします。


●クリスがメタなセリフを多用していますが、実在の誰かや何かに対する批判や誹謗などではありません。


●セクハラという概念が生まれたのは20世紀後半で、極めて新しい概念です。


●ストーカーに至っては、セクハラが広まった更に二十年ほどあとの20世紀末です。


●魔女狩りは、公的な制度に基づく虐殺が習慣化したもので、20世紀後半まで実在した歴史的事実です。

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Scene1

 何が、聖母たちの子守唄よ! sight of クリス




「姉御! タイヘンだょお~!!」


 そういって、ノックもなしに入ってきたバカな幼馴染の顎を、あたしはフェイントの右ジャブからの左ストレートで打ち抜く。


「誰が、姉御だっ! 後、アンタのタイヘンは聞き飽きてんのよ、ダアル!」


 そういった時には、デブの樽のような体は膝から崩れ落ちている。


 脳を揺らすように手首の捻りと打つ角度を調整しているので当然だ。


 前世のボクササイズで鍛えたテクニックに、今世の野良仕事で鍛えられてしまったパワーは、ダテじゃない。


 ちょっとした事でタイヘンと騒ぐ変態には、いいクスリね。


 人でなしに人権はない──っていうか人権なんて考えかた自体が存在しない──から、これくらいは許されるのよ。 ……ダアルだしね。


 ちなみに、ノックをしろと付け足さなかったのは、このボロ屋にはドアなんて高級なモノはついてないせいだ。


 主人公が不自由のないように配慮された“ RPGの二次創作風ファンタジー世界 ”ではないのだ。


 魔法都市や城郭都市じゃない農村や辺境では、それが当たり前。


 中世ヨーロッパもどきの異世界の文明レベルなんてそんなものだ。


 北の寒い地方ならともかく、ここらの農民達の家にドアなんてないのが普通。


 お風呂どころかトイレすらなくて、子供の頃の目標はトイレを作ることだったなあ。


 あとは、血を吸うダニやノミに悩まされず、雨が降るたびに濡れない寝床と洗ったら駄目にならない服と────要は、健康で文化的な最低限の生活とまではいかないにしても、文明人らしい生活がしたかったのだ。


 でも、あたしをこんな世界に転生させた“ この世界を管理する一柱だとかいう女神 ”を、恨んだのも今ではもう思い出だ。


 決していい思い出なんて、言えるものではなく。

 昔は、そのせいでこんなトコに生まれ変わらされてなんて嘆いたものだったけどね。



 こちらに生まれて15年。

 とにかく、あたしは、頑張った。


 あたしが、“ 異世界転生物語の主人公 ”なら、たぶん単行本数冊分の描写が必要な努力だ。


 もちろん、あたしは主人公なんかではない。

 自称、女神いわく、“ 絶対神の遊びの後始末にスカウトした人材 ”だそうだ。


 簡単に死なないように、素材として最高の肉体に入れてあげるとは言われたが、特別な秘められた能力とかスキルを用意できるのは、絶対神や高位の神々だけで、自分にはこれが精一杯と言われたし。


 絶対神や高位の神々も似たような事をやってると言っていたから、精々主人公が立ち寄った村で、報酬を用意して助けを求める依頼主くらいだろう。


 まあ、あっちの思惑なんて、どうでもいいんだけどね。


 だから、あたしは“ どこかの主人公が、ありがたみも知らずに当たり前に享受しているような世界 ”との格差を埋める努力をして。

 自分が生きやすい環境を造るために全力を尽くしただけだ。


 今は、しがない農夫の娘だけど、前世では天才少女発明家とか言われてた事もあったのだ。


 3歳で、流暢に言葉を操り神童と呼ばれ。

 歩けるようになったら中央から追放された酔っ払い魔術学者に字を習い。


 5歳で、知識を得る偽装のために村中の本を読みつくした。

 その合間に天才と自称する恥に耐えながら、村の子供達や大人に“ 賢く頼りになるクリス ”を認めさせていった。


 まずは、村のまとめ役であるダアルの両親に気に入られる事から始めて、ダアルを教育…………したのは失敗で、あたしの言う事はなんでも聞く代わりにヘンタイになってしまった。


 何かあると、あたしに頼り、殴られても喜ぶ頑丈なデブキャラなんて……どうして、こうなった?


 子供が早死にしないように栄養状態に気を配るための医食同源を普及させたのに、鍛えてやってるのに親が甘やかすせいでデブになるし。


 殴って躾けをしてるうちに、だんだんマゾが入ってきてるし…………ホント、どうしてこうなった?


 まあ、ダアル以外は大体ウマくいってる。

 成人前の子供達は、あたしより上の世代も、ほぼ掌握。


 流石に8歳以上年上の子供達は、男尊女卑の風潮を持ったまま育ってしまったが、それ以下の世代には、男女平等の何たるかを幼児教育で刻み込んでやった。


 その武器になったのは、主に野草とキノコと虫や動物の知識で、食べられるものや薬用となるものを動物実験と本の知識と前世知識で確定。


 この世界で子供達は甘いものに飢えていて、あたしが栽培して保存食にしたドライフルーツは、飴代わり。


 鞭代わりは、前世と同じく、弱点を的確に突く精神攻撃と格闘技だ。


 この世界、魔物のせいか対人格闘技は磨かれていないから、体格差のハンデは前世よりも少ないくらいだった。


 その体格差も、栄養学と運動生理学で成長ホルモンの効果的な分泌を促したせいか、最近はほとんどなくなっているしね。


 もちろん、魔物などの命の危険のある相手の対策も、やってある。


 学生時代に部活でやっていたアーチェリーと弓道の技術を活かすために猟師の御爺さんに弓作りと狩りを習い。


 楊心流と戸田派武甲流の手習いの経験を生かすために、鉈を改造して専用武器も作ったし。


 生活魔術と魔術書を基に、独自の魔術スキルも発現した。

 ゲームみたいに魔物を倒すと上がるレベルもあるので上げた。


 魔物は倒すと呪晶だけを残して消えてしまうし、魔術素材などもメッタに残さないから、レベル上げだけに時間を使うなんてできなくてタイヘンだったなあ。


 呪晶を扱うギルドなんて辺境にはないから、お金にならないし。

 時間が立つと呪いが拡散するので面倒な処理しないといけないし。

 錬成術を覚えるまでは、ただの産廃だったのよ。


 食べられたり毛皮や骨が使える動物は、倒してもレベルが上がって能力がちょっとだけ上がるなんてゲームみたいな事はないしね。


 錬成術師にして薬師で、採集師にして弓の名手で、独自の魔法武術の開祖。


 それが、異常と思われないように、常々天才と自称する恥に耐えながら、現代知識の発想を、天才のひらめきに偽装して築き上げたあたしの虚像だ。


 “ あたしって万能の天才ダヴィンチの女版のうえに魔法も武術も天才ってスーパー美少女よ! スゴイでしょ、ウフフ ”とかドヤ顔で言いそうよね。


 もし、転生者が現れたら恥ずかしくて死にたくなるだろうくらいに膨れ上がった虚像を信じ込んでるバカの呻き声がして、そっちを見ると。



「うう~っ……ひどいょお」


 内容の割りにどこか嬉しそうな声をあげて、ヘンタイが起き上がってくる。


 ボクシングなら、とっくにKO勝ちだけど、これは仁義なき戦いなので止めを刺すまで終わらないのよね。 あ~、刺したい、止め。


「うっさい! イキナリ入ってくるなって言ってるでしょ。着替えとかしてたらどうするつもりだっ!?」


「それは、御褒美と喜びます!」


「シね、ヘンタイ!」


 体を沈み込ませながら踏み込み、地面を蹴った反動に膝のバネを加えて加速度を増した肘を、腰と体幹と肩の回旋で更に増幅させて、鳩尾に叩き込む。


 分厚い脂肪と鍛えられた腹筋を突き破った衝撃で、ヘンタイは声も出せずに、ぶぐふぉつと妙な鳴き声あげて、吹き飛んでいった。


 そして、そのまま地面に倒れて動かなくなる。

 …………悪は、滅びた。


 ハッキリ言って、変態は死ねばいいと思う。

 前世でも、電車の中で鼻息を荒くして体を擦り付けてくるやつなんかを、地獄に叩き込みたいと思ったのは、一度や二度ではない。


 女を、男の性欲の対象としてしか見ないような変態は、女の人権などないと考えるクズなので、自分の人権も放棄していると考えて当然。


 人に危害を加えるケダモノは駆除されて当然よね。

 人を襲ったりしない可哀想な捨てられたペット達を殺すより、よっぽどマシだと思うのよ。


 特に、この世界は中世レベルだけあって、男女平等とか雇用機会均等なんて存在しない。


 聖母たちの子守唄という有名な詩があるけど、それで謳われているように、“ 女は、子を産み育てるのが一番の仕事で幸せだ ”というのが常識だ。


 農民なんかは、それでもまだ道具扱いされないだけマシで、“ 自称、御偉い貴族様 ”の支配者階級達ときたら、女はペットか家畜か財産かって扱いを当然のようにしながら、それを女のあるべき姿などと思い込んでいる蛮族ぶりだ。


 何が、聖母たちの子守唄よ!

 何が、貴い一族よ!


 先祖は山賊とか匪賊とかの略奪者で、暴力で農民を征服した連中の子孫が着飾って、猿山の猿よろしく権威パフォーマンスしてるだけじゃない。


 それを“ 自分達は貴いからオマエ達を支配してやってるんだ ”なんて、ふざけた思い上がりよね。


 豊穣女神の信仰があった村なんかを、邪教の村として滅ぼして、女神信仰の司祭を魔女として処刑。


 それを正当化するために歴史を改竄して、多夫多妻制の乱婚を魔女の儀式として、一夫一婦制の聖書教に逆らう邪教とするなんて事を現在進行形でやってるしね。


 前世の魔女狩りなんてのも、元々はそうだったらしいけど、男が自分の血を残して女を道具として使うための男社会を造るためには、一夫一婦制を神聖化するのが必要なんだとか。


 そのために貞淑とかを女だけに守らせて妾は当たり前。

 他の制度をとる社会は、邪教の民として差別して、征服と虐殺。


 そんなやつらが、自分達は貴族なんて偉そうにふんぞり返って、私達から努力の結晶を奪い取っていくんだから腹が立つ。


 あー、徴税にやってくる変態役人の顔を思い出してしまった。

 あたしは、アンタらのために、未来知識で必死に開拓してきたんじゃないってのよ!


 チクショー、民主主義どこいった? 公僕はどこにいる!?


 ええ、解ってるわよ。 そんなモノ、この世界じゃまだ発明されてないわよ。


 公僕はいないけど、貴族の僕や犬はそこらにうろうろしてるわよっ!!


 庶民は、殺されようが犯されようが、泣き寝入りが当然の究極の格差社会よ!


 歴史を知らないか無視した作者が創った日本の生ぬるい常識が通用する“ なんちゃって中世ファンタジー世界 ”じゃない。


 人が殺しあい陥れあう残酷な獣としての一面だけがリアリティと思っている“ 自称貴族と同類のゲス野郎 ”の作者が描いた物語のような異世界よ。


 そういったゲス野郎達と、そいつらに媚びるビッチ達が好き勝手できるように造った国なんだから、あたりまえよね。


 前世の世界の南米とかにマフィアが実質的に国を牛耳ってるとことかがあったけど、あそことか以上に、庶民むけの犯罪が犯罪にすらならない特権を持つのがアイツ等なのよ。


 しかも奴隷制度で仲間内でも人間を家畜として扱う事を可能にするって非道具合で、手に入らない女の家を陥れて破産させて奴隷化なんて事もするんで、どんな階級でも女は安心できない。


「あー、やっぱり、こうなってる!」


 ヘンタイのせいで嫌な連中の事を思い出していたら、入り口のほうから声がする。


 私のもう一人の同い年の幼馴染にしてアヤサ村辺境自衛隊極東の剣の副代表、マユスィーだ。


「もう! クリスちゃんは、女の子なのに乱暴すぎで、マユスィーは悲しいのですよ」


 前世でなら“ 女の敵の女認定 ”間違いなしのゆるふわ口調で、可愛い女を売りに生きてそうなタイプに見えるけど、真の天然なのだ、これが。


「こいつの存在がセクハラなのが悪い!」


 そう断言してやると、マユスィーは悲しそうな顔になって。


「仲良くしないと、ダメだよお」


 なんて、ダアルをかばうようなことを言う。


 セクハラという考え方は、この世界に存在しなかったが──この村限定で広まっているというか──あたしが広めたので、意味は判ってるはずなんだけどなあ。


 なぜか、セクハラ野郎は死ねばいいという考え方は、なかなか広まらないのよね。


 殺してもいいじゃないのよ。

 殺したらイヤな思いをするから、知らないとこで、速やかに死ねばいい。

 こういう微妙なニュアンスが広がらないもとなんだろう。


 普通に家畜も捌いたり魔物や獣を狩ったりする生活なので、命は身近で常に消えていくものだからね。


 悪党は死ねばいいじゃなくて、殺せがあたりまえだからなあ。


「だいたい、いつもいつも、タイヘンタイヘン言って、まとわりつくこいつが悪いのよ! ストーカーよ、ストーカー、教えたでしょ?」


 今、ストーカーっていう“ 場合によっては殺していいヤツ ”的な考え方も広めようとしてるけど、こっちに至っては広まろうともしないから、無理っぽいけど言ってみる。


「あ、そうだった! タイヘンじゃないけどクリスちゃんじゃないとダメなの!」


 予想に反して、マユスィーは何かを思い出したように言い、それ以上、女らしさについての説教をしなかった。


「ちょっと、ヘンな人達が来てるの。それで、ダアルくんが、クリスちゃんを呼んでこようって言って。フェーリスちゃんは見張ってるって!」


「ちょっと待って。ヘンな人達って危なそうなやつらなの?」


「ううん。そんな感じじゃなかったよ。ヘンな格好でヘンな飾りを顔につけてる《芳桜院 境夜》ってひとなのです」

 

 



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あとがきに代えた

次回予告





「言ってくれるな……! だったら信じさせてみるか? 俺と勝負しろ! 勝ったらオマエを信じて通してやるぜ」


「暴力の使い方が上手いかどうかで、正しさを判断する方法論を間違いと思わないかい?」


「ふぇーっ! なんかキラッと光ってるよ!?」


「な、なんで乙女ゲーのラスボスが、こんなとこにっ!?」



まったく、何なんだ、このカオス!!



次回


Scene2

 異世界? どこの御伽噺だ。 sight of キリト



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