Scene5 「《フローレンス》それは許せません」そう、《わたし》は告げます sight of 《わたし》
まえがきに代えた
理屈とかが嫌いな人向き Scene5のあらすじと注意事項
SF(スペキュレイティブ・フィクション)風です。
《フローレンス》が色ボケして境夜に過保護すぎるので《わたし》がダメ出しをしました。
注意事項
●《わたし》は境夜の心を読みませんが、境夜の言葉の意味を理解できます。
●夢幽境は、夢幻と幽玄が共にある境界という意味の造語です。
●無償の愛の情としての側面の原型を、無垢な好意と表現しています。
●アニマは、ユングの分析心理学の中でいう“ 実在の女性に投影された外的な理想異性 ”という部分です。
●意志と意思を区別して御読み下さい。
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Scene5
「《フローレンス》それは許せません」そう、《わたし》は告げます sight of 《わたし》
「境夜さんが、御自身の創り変えを望まないのでしたら、護衛のお供を連れてみるのはいかがでしょう? あちらは危険ですので」
《わたし》から分岐した《フローレンス》が、境夜さんに、そう提案しました。
効率の呪縛に捕らえられた“
境夜さんに行ってもらうのは、そういった世界ですので、当然の提案です。
それでも《わたし》が提案したならば、それは、境夜さんへの精神干渉となるので、境夜さんを自身の意志によって‘ 転生 ’させるという目的から外れてしまいます。
けれど、目的としてではなく、純粋に境夜さんのために存在する《フローレンス》の提案はそうではありません。、
《フローレンス》は、“ 境夜さんの
それが《フローレンス》の
だから、分岐した《わたし》は、《フローレンス》と境夜さんが心交を深める中、精神の
「“ 危険についての理解 ”は確かに高くないでしょうね。ボクは平和な時代と場所で生まれ、育ちましたから」
境夜さんは、《フローレンス》の
確かに境夜さんは、平和な時代と場所で生まれ、育ちましたが、
“ 危険についての理解 ”とは、事前に危険を避ける危機管理能力と危険の最中に対処するための危機対処能力の両方に、危険を回避したいと考える精神性だと境夜さんは語っています。
それを総合しての自己評価だという事なのでしょう。
「けれど、ボクは自由を愛しています。決して裏切る事ができない存在を連れていきたいとは思いません。だから、ボクが行かなければならない場所について教えてくれますか?」
“ 境夜さん自身が創った自由意志のマニュアル ”に反する事だったらしく、それでも
“ 身勝手さとは違う全ての人にとっての自由 ” を大切に想うから。
境夜さんは、そう仰います。
人の創った‘理’を大切に想うことも、人と人との繋がりで生まれる‘情’を大切に想うことも、
それを知っていて、それでも“ 理想も愛情も丸ごと全て ”を肯定し続けるという宣言です。
けれど、本当に大切に想っていないものをそう言いきる事は、“ 全てをあいまいにしておけないこの存在確定の空間 ”ではできません。
ここで口にしたのなら、それはその人の本質なのです。
《フローレンス》が心配するのも当然でしょう。
だから、危険を知るための情報収集なのでしょうが────。
境夜さんは、613分ほどかけて、あちらの惑星の細かな情報を、《フローレンス》から聞き出し続けました。
その後、話がまだ続きそうなので、《フローレンス》の配慮で、境夜さんのよく利用するホテルを模した建造物が創られ、休憩を兼ねた食事を終えて睡眠の後も情報収集は続き、全ての情報収集が終わったのは、休憩や雑談抜きで18127分の後でした。
その52日の主観時間の間に、境夜さんは、現地の主要言語を3つと基本的な礼儀や習俗習慣を、付け焼刃の知識として覚えるのではなく、完璧に身につけていきました。
それでいて、それらの情報は、境夜さんの愛用情報端末に文書ファイルとして記録され、いつでも閲覧できるようにされます。
その周到さは、境夜さん自身が自分の生き方の危うさを知っているからなのでしょう。
「まるで
集めた情報から得た世界観を、境夜さんはそう評していました。
「正直、ニートのボクが生き易い世界とは言えないので、断りたいんですが──」
そうは言っても、ここが既に境夜さんが行く世界に隣した“ 《宇宙樹》の枝の狭間に創られた亜空間 ”であり、《フローレンス》に境夜さんの元いた世界へと境夜さんを連れ戻す能力がない事は伝わっているので、境夜さんはそこで言葉を止めます。
「それが無理ならば、ボクが生き易い環境を整えるために‘ 三つの願い ’を使うしかないでしょうね」
どうやら、52日間をかけて行く覚悟が決まったのでしょう。
「でも、どうせ行くならボクが居た元の世界に近い他の世界を希望したいというのは、無理かな?」
いえ、違いました。これだけ時間をかけて情報を集めても、それは境夜さんには、行くための準備ではないようです。
本当に、覚悟を決めるための時間としてではなく、行きたいようなところかを知るための情報収集だったようです。
「すみません────。 この《宇宙樹》は可能性を
《わたし》と分岐した《フローレンス》に境夜さんを別の《宇宙樹》へと連れて行く能力はありません。
《宇宙樹》間の転移は、人間と同等の精神活動を行うためには持ち得ない《超概念》を必要とします。
人間が存在すら知らない他者の認識を知覚できないように《超概念》を理解できない存在の人間や
だから、《フローレンス》の言葉に嘘はありません。
《フローレンス》は、もう《わたし》ではないのですから。
「なるほど、やはりそうでしょうね。じゃあ、行く場所の選択は? 危険な場所や人里離れた場所に行きたくはないんだが──」
境夜さんは、《フローレンス》の返答に何の感慨も抱かなかったように、質問を重ねていきます。
行く場所の情報収集の次は、‘ 三つの願い ’の選択でなく、それ以外の行く場合に選択できる条件を知りたいようです。
時間軸と大陸の選択はできなくても、大陸内なら任意の場所を選択できる事。
境夜さんがもともと持っていた衣服と所有物を持っていける事。
そこまでは良かったのですが、次の質問に対する《フローレンス》の答えが問題でした。
「では、ここにあるフロウの創ったものは持っていけるのかな?」
「はい。構いま────」
《フローレンス》が言い終わる前に、《わたし》は《映像体》を顕現します。
そして────
「《フローレンス》それは許せません」
そう、《わたし》は告げます。
「ここであなたが創造したものは、境夜さんのおもむく地では、何の力も付与されていなくても不壊で不滅の《神器》と認識されてしまいますので、大きな世界への干渉として‘ 三つの願い ’の一つを使ってしまいますよ。結果的に虚偽になる事象を境夜さんに告げる事は、《わたし》の目的に反します」
「君は──?」
わずかに驚きを見せながらも、境夜さんの動作には遅延は見られません。
《わたし》に向き直り、警戒した様子も見せずに不意の出来事に対応します。
もちろん、見せていないだけで全身からは意図的に力を抜いて、瞬時の対応ができるような技術的動作を使っていますので、不用意に警戒させてしまったようです。
「申し訳ありません。《わたし》はこれで失礼しますね。後は《フローレンス》に任せます」
それだけ告げて《映像体》を消し、《わたし》は《フローレンス》に、‘ 三つの願い ’の意義を《情報共有》で再認識させます。
ここは選択と分岐の場。
境夜さんが自由意志で選んだ‘ 三つの願い ’によってこの《宇宙樹》の可能性が分岐する《創造超越》のための場なのです。
《フローレンス》の想いや意思を介在させてはいけません。
その事を理解した《フローレンス》は、境夜さんに
そうして、ようやく境夜さんは、‘ 三つの願い ’について選択を始めました。
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あとがきに代えた
次回予告
三つの願い──それは境夜さんのための願い。
決して、わたしのための願いではありません。
わたしの願い。
それは────
わたしは、境夜さんの側にいたいと願わずにはいられません。
わたしは、境夜さんの重荷になりたくはありません。
わたしは、自由というものを持ったいません。
わたしは、《わたし》ではありません。
わたしは、 《フローレンス》
境夜さんのためだけの存在
次回
Scene6
わたしは、自身を罪深き存在だなどとは思いません sight of 《フローレンス》
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