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「……ふう、危なかった」


 心底安心したように息を吐いたのはノルニル。

 まさか、これ。


 このあり得ない状況を一瞬にして作り出したのは。いや、僕でないとすればそれしか考えられない。


「これが君の魔法の正体か」

「んっ……まー、それは置いといてさ」

「置いておけない、説明してくれ」

「いや……あんまり長くはしてられないからさ。ライ君……君、まだ飛べそう?」

「それなんだけど。さっき少し破損したみたいだ。バランスが非常に取りにくい」

「まじかよッ! がああん……」

「飛べるには飛べる。でも速さが充分に出せない。飛び上がったところで、はたき落される可能性が高い」

「そんな……」

「空中がだめなら、地上でやるしかない」

「ま、待ってよ、戦うっていうの!? こいつに勝てるの!?」

「勝てる見込みはあるかと言われると半々だ。でも手がないわけじゃない」


 ノルニルはごくっと喉を鳴らす。


「君にも他に芸があるんだろ」

「ま、まあ……あるにはあるけど」

「その力で、半々の確率をそれ以上に押し上げることは可能か」

「うん……できる、と思う」


 自信なさげに頷くが。

 迷っている暇もないのだろう。


 彼女が言ったように、長くは維持できないようだ。うっすらと顔に汗を滲ませる彼女に、僕は短く。


「じゃあ、それで頼む」


 と告げた。

 同時にモノクロの視界がパッと色を取り戻し。全部が元どおりになった。


 なにもかもが動き出した――。


「やばい、解けちゃった――ライ君!!」


 刃をつけた洞穴が僕らに突進してくる前に僕は飛び上がり。

 その一撃から回避する。


 それにしても……。


「邪魔すぎる」

「うるさいな!!」


 片手が塞がっている状態は辛い。

 それでも仕方ない。

 ここはなんとかやるしか。


 真上を向いて、僕は左手をあがっ――と口の中に躊躇なく突っ込んだ。


「なにそれ! 自主ゲロ!?」


 そんなわけがないだろう……!


 斜め下からの下品なツッコミにちょっとイラッとする。


 喉の奥にまで腕を送り、そこで掴んだものを一気に体内の奥から引き抜く。


「うっ……ライ君……」


 ああ、見ての通りだ。

 これこそ、僕が特別武装型と呼ばれる真の由縁。

 体内に内蔵された一振りの日本刀。



 つばつかも刀身さえも、全てにおいて黒一色のその名は――『冥刀めいとう鬼殺おにごろし』。


 元は人間軍が誇る国宝級の代物、二本とないこの刀を持つことを許され、そしてそれを扱えるのは。type-ライジンの中でも僕ただ一人だけだ。

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