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その姿、形、大きさ、どれをとっても化け物と呼ぶにふさわしいが。
こんな規格外の生物、僕の知る限りでは確かにいなかった。
なんなんだこいつは――!
「――アバドンだ……!」
答えを投げたのは、脇抱えにしていたノルニル。
彼女は恐怖に引きつった顔で、目の色を紫紺に変えてそう叫んだ。
「アバドン……、あれが――」
「説明はあと……! とにかく、あいつと戦っちゃダメだ、逃げて――」
聞き入れるその前に。
真下から、とんでもなく不快な気持ちにさせる高い高い鳴き声が発せられ、かと思えば、鞭のようにしなり、伸びてきた奴の尾たちが上空の僕らを襲った。
一本目をかわし、二本目をなんとか避ける。だが――三本目のあまりの速さにあろうことか僕はバランスを崩してしまった。
まずい――。
塞がっていない左手を伸ばして
一気に砲撃を開始させる。
だが。……どういうことだ、弾丸は一発も奴の胴を貫いていない。
あの光沢のあるボディ、この距離からの銃撃をものともしないほど装甲が厚いということなのか。
「ライ君――!」
僕は全くもって欠陥品の代表作だ。
奴のボディがどれほど厚いかなど、そんなことに意識を傾けている場合ではなかった。
最初にかわした一本目と二本目の尾が、そのまま振り切られ、こちらに再び戻ってきていることを、ノルニルの叫びで気づかされるなんて。
「ッ、く――」
避けようと試みるが遅く、僕の翼の外側部分が激しく伸びた尾と激突し、僕らは硬い大地に真っ逆さまに落下していく。
叩きつけられる寸前、なんとか宙でバランスを取り直し、着地失敗は免れたが、安堵する暇もない。
地に足をついた僕らを待っていたのは洞穴のような奴の口腔――。
刃の歯――。
この巨体で、なんてスピードだ。
左翼の外側が折れ曲がって、反応が、間に合わない。
目前に迫り来る化け物の口を前に僕の頭は早くも匙を投げた。
どう動こうと圧倒的に時間が足りない。
なす術が――ない。
ノルニルと共に、あの鎌の歯に切断されて終わると。そう思った。
が、しかし。
そこでまたもや予期せぬ事態が。
「………………これは」
妙な感覚が体を包んだかと思えば、どうだ。
僕は……再び異常をきたしてしまったというのか。
視界に映るもの全てが、その瞬間からモノクロに見えてしまっている。
それだけじゃない……眼前の洞穴が僕らを噛み砕かない、……いや化け物全体がぴくりとも動かない。
にわかには信じられないが。
起こったことをありのまま正直に伝えていいなら。
全てが全て。
風も、雲も、地響きも、砂埃も、化け物も。
僕ら以外。
完全に停止してしまっていた。
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