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痛くはないが、視界が大きく振れ、耳の奥でノイズが走った。
しっかり記憶した。
意外と暴力的な子だって。
え……。
ええと……。
どこからはなせば良いだろうか。
散々めったうちにされて、まだぼんやりする。
フライパンというものは基本火にかけて調理に使うものだ。
それが、あんな凶悪な兵器に成り果てるなんて。正直思ってもみなかった。
そこらの機関銃より末恐ろしい。
「まさか……ねえ。壊れちゃった?」
「かも、ネ……」
視界がさっきからふつふつと途切れて、しろ黒に染まったりはっきりうつったりを繰り返す。
げんご、能力が、……低下、して、く……。
椅すに括られたまま、くったりと体をまえのめりにさせているボ、クのすぐ近くで。
「うわああああああ! やばいやり過ぎた! ごめん! ごめんね!」とかいう高い悲メイがあがる。
「ねえどこ! どこが痛いの!」
いたくないけど……。
明らかに問題をきた、しているのは核のあると、う部だろ。
君が――サンザ――ンたたいてくれたんだから、マチがイハ、なイ……。
「そっ、そうだよね! あ、あわわ!! ちょっと待って! 待ってくれね! お願いだから喋るのやめないで! しゃべってて! 今、なんとかするから!」
「しゃ、be、るっt、なにヲ」
「なんでもいいから!」
オロオロしながら彼女は車椅子を僕にぴったり寄せる。
無茶なことを言って、腕を伸ばして。
そこでプツッと、視界をかたどっていた回路が切れた。
ア゙アアアッーー! と、そんな叫びを最後に聞いて。
兼ねてからの望み通り僕は壊れた。
かなりあっけなかったけど。
――。
しかし。
どのくらい時間が掛かったかはわからないけれど、僕は何故かその後再び目覚めた。
復旧したのだ。それも今までになく最適な状態で。
そして気がついたら。
ノルニルの顔がすぐ近くにあった。
彼女は車椅子からうんと体を伸ばした状態で、僕の頭を引っ張って両手で掴み、僕の額に自分の額をくっつけていた。
目蓋を何度か動かして、動作確認。
驚いたことに、どこもかしこも正常だった。異常がない。はずがないのに。
なんだこれは。
確かに先ほど弾丸がボディを貫通し、頭部のコアは少なからず破損したのに。
自動修復プログラムでだって、せいぜい軽く穴を塞げる程度で此処まで完璧に直すことなんて出来ない。
というより、修復じゃない。
修復というより、これは、この感覚は、いわゆる初期の状態と言ってもいい。
「なにをした」
僕がはっきりした声を出せば。
彼女は安心したように瞑っていた目を開いた。
深海を彷彿とさせる、幾重にも重なった深い色の青だった。
ゆらゆら揺れるその瞳の色から僕が分析したのは、悲しみと不安の感情。
しかし。彼女が僕の様子を把握すると、瞳の青の上半分がまるで夜明けのように綺麗な金色のグラデーションがかかった。
「はあ。よかった……」
ほっと息を吐いて。彼女は僕から離れていく。
小さな指は、頬を滑り落ちる時も細かく震えていた。
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