第4話 初めての料理
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つくづく機械兵で良かったと思うのは多分これが初めてだったかもしれない。
どれ程落下したかは測定する暇もなかったが。あれから結構な距離を落ちた。そして色んなものに激突した。
僕が鋼鉄の体でなければ、今頃は皮膚や肉のほとんどが裂傷し、内臓は潰れ、骨は粉砕して。たぶん絶命間違いなかっただろう。
こうやって、片腕がぼろんともげても、ショックを受けることもなければ、痛みに絶叫することもない。血も出ないから目にも優しい。
これが生身の体だったらスプラッターホラー確定の、18歳未満閲覧禁止だ。
ほんと、機械兵で良かった。
僕は暗闇を照らすべく全身を薄く発光させ、腕の中の彼女の安否を確かめる。
激突寸前にほとんどの機能を放棄し、衝撃を抑えるバリアにエネルギーをあてたおかげか、外傷は見当たらない、呼吸もある。小さな心臓は今もとくとくと動いている。
「はあ……」
と小さく息を吐き。ぷにっと柔らかい頬についた泥を拭う。
彼女が意識を失った理由。
恐らく魔法を使用したことによる消耗だろう。
彼女はあの時長く維持していられないと言った。加えて、疲労を表す汗。
魔法。魔術――。魔法使いだけが使える奇跡の力。一見、無から有を生み出すような神の御技に等しい能力ではあるものの。
彼らにも力を行使する限界はあるようだ。人間たちが資源や多大な時間を犠牲にして物質を生成するように、体力や精神を削り魔法使いは力を発現させる。
彼女が持って生まれた魔術のタイプがなんであるか、もうだいたい見当がついているが、その特殊すぎる性質は少々重荷となっているのかもしれない。
それにこの未熟な体だ。魔法使いとて、子供の頃から強大な魔法を好きなだけ使えるはずはない。
体が成熟するからこそ、力のコントロールを覚え、安定する。少なくとも人間はそうだ。
ノルニルの発展途上な精神と肉体では、現時点で力を発現させるには相当な負荷を要する。
言ってしまえばスタミナが足りていないのだろう。
僕が推測するに、今の彼女の限界は、数回から十回そこら。時間に換算すると……たぶん数十分いくかいかないか、くらいか。
こんな小さな体に、無限の可能性を秘めた魔術。釣り合いが取れるようになるのはきっともっと先のことになるのだろうな。
あんなことがあったのに、それでもまだ死んだように眠ったノルニルの背を支え、まるで人間のように同情しているみたいな謎な考えを浮かべて――、ハッとした。
大変なことに気がついたのだ。
僕は…………いったい。
なにをしている。なにをしているというんだ。
いや、ほんとうに、どうかしている。
何故気がつかなかったのだ今まで。
こんな、単純すぎることに。
できるじゃないか。
殺すことが。
できるじゃないか、今なら。
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