第1話 最後の魔法使い

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《破損データ復旧完了》

《読み込み成功》


《スリープモード解除》


《システム作動……》


《フルオートモードに切り替え完了……》


 ……いい匂いがする。

 これは、ハチミツと、あったかいミルクの匂いだ。

 安心できるような。どこか懐かしくも思える匂い。


 …………あれ、ちょっと待って。

 なんで懐かしいんだろう。

 おかしいな、僕はハチミツとミルクなんて匂い、特に馴染みもないはずなのに。


 僕が普段から嗅ぎ慣れている匂いと言ったら、薬品と火薬と、オイルと血と硝煙しょうえんの匂い。


 そもそも。


 僕は今なにをしているんだ。

 今までは……なにをしていたっけ。

 そう思ったら頬の辺りが少しのくすぐったさを訴えた。


 眩しすぎない光を感じる。もう起きる時間だと、体が言った。


 そこでゆっくり目蓋を開けると、僕の頬を小さく突っついていたその子が、咲いた花みたいに嬉しそうに笑ってバンザイをした。


「あ、やった……やった起きたァアーッ!」


 笑顔の花は、次々打ち上げられる花火というもののようで、その子は何度も何度も両手をあげて喜びを全身で表して、次に僕の首筋を抱くように倒れかかってきた。


「起きないかと思ったよ!ああ、でも起きてくれてよかった、嬉しいよ!ぼくほんとうに嬉しい!」


 まるで、古くからの親友か。それか家族に対するような口ぶりだったが、僕はそこでなんて言っていいのかわからなかった。


 だって僕は、この子のこと、ちっとも知らない。


 僕の頭の中にある記録にはこの子は存在しない、つまり他人、初対面の相手ということになる。


 それはきっと間違いない。記録が書き換えられていなければの話だけれど。


 知らない相手のはずなのに、こうやって親しげに話しかけられ擦り寄られれば、きっと誰もが困惑する。

 だから僕はこう言うしかなかった。


「君はだれ?」

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